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第二幕「覗かれる一族」

 人は、家族という小さな共同体に安らぎを求める。

 だが探偵の目から見れば、そこは最も複雑な迷宮だ。

 血縁は絆であると同時に、逃れられない束縛であり、秘密を覆い隠す格好の幕となる。

 篠宮家——衰退の影を背負いながらも旧家としての体裁を保ち、いまや“覗かれる一族”と呼ばれるに至った家。

 その中心に足を踏み入れた瞬間、私は数多の視線がこちらを測るのを感じた。

 だがそれは、家人たちの目だけではなかった。


 屋敷は丘の上にあった。

 勾配はおよそ四%、舗装はアスファルトの継ぎ当てが三段。雨天時の流下跡が左右非対称に残り、北側の側溝だけが苔に覆われている——水が偏って流れる家は、維持も偏る。

 門へ続くアプローチは砕石が痩せ、露出した下地コンクリートのヘアークラックに白い充填材がまだらにのっていた。 安く、急いで、繕った痕跡だ。


 古い瓦屋根と、無理に取り付けられたアルミサッシが時代の折衷を物語る。

 瓦は三州系の黒、苔の帯が北面の棟際にだけ太い。鼻先で分かる空気は乾き気味、風向は北東二メートルほど。

 サッシは平成初期の規格で、フレームのコーナーキャップが一つ欠けている。シーリングは二色——やり替えの時期が違う。外壁との取り合いに指一本の段差が出て、施工の雑さが見える。


 表札の鉄は赤く錆び、流れ錆が縦ではなく斜めに走る。雨の吹き込みを防ぐ庇がわずかに傾いている証拠だ。

 石塀の継ぎ目には雨水が黒い筋を描き、目地の一部は白華して粉を吹く。

 かつて“名家”と呼ばれた重厚さは消え失せ、残るのは朽ちかけの虚飾だけ——費用をかけるべき場所と、見栄のためにかけた場所が逆転している。


 門扉は鋼製の既製品に交換済みだが、丁番の座金に素人の手が入った跡。ビス頭がなめており、締結トルクの足りない側だけ扉が沈む。

 インターホンは九〇年代末の型番。押釦のゴムが痩せ、指先に粉がつく。**監視カメラはない。**赤外センサ灯は設置されているが、レンズに蜘蛛の糸。

 郵便受けは容量過多の据置式だが、チラシは整然——誰かが毎日、外形だけは整えている。


 私は腕時計のJJYマークを一瞥し、時刻を記録する。光量は快晴、色温度はおおよそ五八〇〇K。

——**家は、見た目より先に数値で嘘をつく。**こういう場所では、言葉より先に風向と傾きと傷みを拾う。


 門前で待っていたのは刑事の朝永勇次だった。

 灰色のトレンチにコーヒーの紙カップ。温度が外気で下がり、蓋の換気孔から立つ蒸気はほとんどない。到着から十分は経っている。

 彼は門柱の水平出しを目でなぞり、扉の歪みを指先で一度押して確かめると、こちらを見て口角を上げた。

 挨拶の前に**現場の“数値にならない違和”**を量る癖は、昔から変わらない。


「……あの事件以来だな、津守。」

 低く擦れた声。コーヒーの微かな酸味と紙カップの湿った臭いが、冷えた外気に薄く混じる。


「忘れたくても忘れられん事件だ。」

 私が応じると、彼は短く鼻を鳴らし、門柱の傾きを親指の腹でなぞった。癖は相変わらずだ。まず手で測る。


「呪いだの神託だの——どうせただの幻覚か錯覚だろう。」

 彼は視線を門内に滑らせ、続ける。

「俺は“測れるもの”しか信じない。視線なら瞳孔径と眼球運動、恐怖なら心拍、皮膚電気反応、呼吸数。

 足音がしたって? なら圧痕と微振動を採る。

 数値に残らない恐怖は、俺の管轄外だ。」


 私はポケットのJJY電波時計に目を落とし、秒針の位置で返す。

「測定できない恐怖の中にこそ、仕掛けは隠される。

 作動前の“空白”は、器具より人に触れる。

 犯人はそこに視線や風や色を忍ばせて、測られる瞬間だけ姿を消す。」


 朝永は紙コップの蓋を回し、蒸気の立たない孔を一瞥した。

「なら俺は作動後の痕跡を拾う。

 手袋痕の繊維片、床材の圧縮率、スイッチのストローク量、照明回路のログ。

 “呑まれた”って言葉が出る現場ほど、物は正直だ。」


「物は嘘をつかない。だが“配置”は嘘をつく。」

 私が言うと、彼は口角だけで笑った。

「配置は撮る。俺は全景→中景→近接の順で切る主義だ。

 計時はJST同期、撮影位置は方位と距離でキャプション化する。

 お前は“読む”んだろ。俺は“残す”。」


 彼は懐から薄いメモパッドを出し、要点だけを四角で囲む。

「現場封鎖は俺がやる。余計な足を入れない。

 家人の動線は色分けペンで分けろ。

 接触面(手すり・スイッチ・扉縁)は今は触るな、鑑識を先に通す。

 質問は最初に長くではなく、短く二度。一回目は自由再生、二回目は時系列補正。

 お前のほうは——いつも通り、言葉の“端”を拾え。」


 私は頷き、事務的に重ねる。

「遺記の原本は私が預かる。光学処理はここでやるとして、物理的採取はしない。

 複製は作らない、閲覧は立会い一名。

 学校は日没前に一度、日没後に一度見る。照度分布と影の移動を比較する。」


「視線が錯覚なら照明角度で出る。人為なら触れた痕で出る。」

 朝永は短くまとめ、紙コップをゴミ袋へ正確に投げ入れた。放物線は一度も揺れない。


「数値に残らない恐怖は、俺の管轄外だ。」

彼はもう一度、同じ文を繰り返した。自分に聞かせるように。


「そして、数値に変わる前の恐怖は、私の管轄だ。」

 私は記録票の余白に**“役割分担:測る/読む”**と書き、線で結ぶ。


 言葉を交わし、互いの立場を確認した。

 この二行の往復自体が、これからの捜査の座標軸になる。

——測定者と読解者。

 同じ闇を、別の単位で割り付ける。

 篠宮家の門は、静かに内側へと開いた。


 玄関の戸が開くと、畳の匂いと埃の混じった空気が外気と交わった。幅二間の広間に並ぶ人影は、家族というよりは社会的役割の塊のようだった。私の脳は瞬時に「誰がどの位置にいるか」「各人の視線が誰に向いているか」を座標化する。捜査の初動は、いつだってこの可視化から始まる。


 篠宮 啓(当主・42)――体面を守る男

 啓は痩せて、顔の皮膚は紙のように張っていた。眉間の皺は「家の名」を何度も反芻した跡だ。

 立ち居振る舞いは「主」を保とうとする癖が出ている。指先の震えを隠すため、袂に手を入れる仕草を繰り返す。声は低く、語る言葉は常に体面と責任に回収される。

——初動観察メモ:衣服(袖口に芝生の微粒子)、左手甲に軽度の擦過(可能性:屋外作業)、視線回避頻度(0.6回/分)。


 篠宮 綾子(啓の妻・39)――監視者の微笑

 綾子の笑みは柔らかく、しかしその額と瞳は計算された監視装置のように家族をスキャンしていた。会話の間合いで必ず誰かの言葉を遮り、情報の流れを局所的に制御する。

 彼女が「祖母の日記を保管していた」と告白した瞬間、全員の視線が一斉に綾子へ集まったのは偶然ではない。

——行動観察:会話介入率高、身体軸は常に中央維持(主導性の表出)。物的証拠:右手爪に黒いインク斑(筆記頻度高)。


 篠宮 実花(長女・17)――恐怖の語り手

 実花は制服のまま、肘を組んで体を縮める。顔面蒼白、瞳に拡張があり、微小震えが唇に伝播している。話し方は途切れ途切れだが、肝心な語句(「視られている」「目が合った」)は明瞭だ。

——医学的所見(現場観察):瞳孔散大(光反応は正常)、呼吸浅速、振戦あり。ストレス反応が顕著。要速やかな保護措置(別室待機・一次心理ケア)。


 篠宮 悠斗(長男・12)――反復の機械

 悠斗の暗唱は抑揚のない機械的なリズムを持つ。遺記の文言を無意識に繰り返す行為は伝承的記憶か、あるいは強化学習に近い。

——懸念:幼年の言語反復は外部影響(大人の反応)で強化されうる。インタビューは非誘導的に行うこと。録音は保護者同意の下で。



 分家・周縁人物(配置と短印象)

 篠宮 環(38):介護疲れが表情に刻まれている。看護師としての言葉選びは慎重。家族内での防衛線を張る役割。

——所見:手指に皮膚乾燥・クリーム残滓(夜間介護の証拠)。

 篠宮 俊和(40):地元診療所勤務。発言は少なく、目線は往々にして床に落ちる。過労性の徴候(眼瞼下垂・舌縁歯跡)。

——医学的証言役だが、疲労が説得力を弱める。


 篠宮 明人(15):環の長男。母を庇う発言が先走る割に、眼球運動は過度に速い。威嚇的発言で防御している可能性。

 

 篠宮 美緒(28):教育分家。教師らしい落ち着きがあるが、校内管理の責任を負うため緊張度高。翁像の管理者という立場がリスク要因。


 篠宮 直弥(26):東京帰り。口ぶりは軽く「ネットでの噂」を示唆するが、笑顔の下に防御的な皮肉が潜む。ネット活動履歴は重要手掛かり。


 篠宮 弘志(45)/美砂子(43):神社系。弘志は声の張り方から権威的立場を自覚している。美砂子は宗教的確信のフィルタで情報を加工する。


 篠宮 玲奈(20):心理学専攻。冷静沈着、観察眼鋭い。言語は慎重だが、場を観察して要所で的確な事実を提供する。


 篠宮 きよ(76):大叔母。迷信深く、同一語句を反復する。言葉は断片的だが、場のムードを左右する古い記憶の貯蔵庫。


 当主・啓が低く語り始める。

「娘が……翁像に視られていると訴え、息子は遺記を暗唱する。祖母が死の間際に書き残した言葉が、現実に侵食し始めているのです。」


 発話の構造は典型的だ。原因提示 → 被害報告 → 保全依頼。だが言葉には自己弁護の色合いが濃い。私は即座に質問の優先順位を定めた:①被害の時刻と場所、②目撃者の数と関係、③原本の保存場所、④外部媒体(写真・録音)の有無。


 綾子が静かに付け加える。

「祖母の日記は私が保管しておりました。まさか、同じ言葉を子供たちが繰り返すとは。」


 その告白は一点の重みを放つ。保管者=情報の最初期管理者であり、日記のアクセスログは事実上綾子によって管理されていた可能性が高い。ここでの留意点は二つ:日記の閲覧権限(誰がいつ見たか)と、その後の伝播経路である。


 弘志が声を張る。

「これは神託だ。我らは祟られている。」

 勢いのある宗教的枠組みは、共同体を結束させると同時に、外部説明を排除する効果を持つ。これに対し玲奈は学術的に応酬する。

「心理学的には集団暗示の可能性が高い。先行刺激があれば模倣と強化が起こる」——その言葉は科学的だが、説得力は家族内の信仰によって部分的に無効化される。


 俊和は医学者として「症状として説明はできる」と言うが、声は掠れ、表情は疲弊している。ここでの実務的観点は、医学的観察記録を要請し、もし存在すれば初期症状の記録(発現時刻・頻度・誘因)をデータ化することだ。数が揃えば、集団現象か個別症例かの棲み分けが可能になる。


 私は冷静に、だが確実に確認していく。

 遺記の現物はどこに保管されているのか(綾子の主張を文書化)。

 実花が「視られた」とする位置と時刻(可能なら再現を促す)。

 悠斗の暗唱は誰とどのような状況で強化されたのか(聞き手の反応を含む)。

 校内の像の管理責任者は誰か(美緒の業務記録と配置ログ)。

 診療所における異常報告の有無(俊和のカルテ記載の有無を確認)。


——実務メモ:最初の聴取では誘導質問を避ける(open question→closed questionの順)。記録は必ず音声録音(依頼者同意の下)と筆記二重化。写真撮影は現場を初めて動く前に実施。チェーン・オブ・カストディは初動から厳密に。


 言葉としての「覗かれている」は、複数の心理・物理的要因で生まれる。私の初期仮説は重層的だ。


1.視覚的錯覚の設計(照明・陰影・像の配置)——能面や石膏像が持つ固有の陰影が角度で追従する感覚を作る。


2.環境トリガの操作(音・気流・CO₂・匂い)——参道や廊下における局所的な気流や匂いが「背に息」を模倣する。


3.言語的誘導(遺記の文言の伝播)——成人の反応で子どもが暗唱することで現象が強化される。


4.社会的増幅(宗教的解釈・掲示板拡散)——信仰とネット噂が互いに増幅し、現象の現実性を押し上げる。


 これらは相互に独立せず、交差し増幅する。家族という閉じた回路は、外部からの小さな刺激でも大きな振幅を生む。犯人(あるいは仕掛け人)は、この倍音的増幅を意図的に設計している可能性がある。



 私は口頭で、いくつかの最小限のルールを提示する。

 遺記の原本は私が立会いの下で封緘・複製を行う。複製物は暗号化媒体で保管。

 家族は当面、広間で分散して待機。現場に不用意に立ち入らないこと。

 学校の実地確認は二回(昼間・夕刻)。朝永が現場封鎖を担当し、私が光学観察を行う。

 医療記録や掲示板書き込みのログは法的手続きに則り提出を要請。


 啓は震える手で頷き、綾子は黙して承諾した。弘志は憤然と反発するが、玲奈が「手続きを踏まないと混乱が拡大する」と静かに言い、場は収束する。ここに家族の脆い合意が生まれた。


 実花は両手を握りしめ、震える声で繰り返した。

「翁が……学校で私を見ていました。……振り向いたら、目が合ったんです。」


 美緒が頷き、教師の口調で補う。

「翁像は校内に古くからあるもので、代々“視線がついてくる”と噂されています。保管は美術準備室、展示は廊下の端。最近、照明の蛍光管を一本だけ新しい型に替えました。」


 啓は深く頭を下げ、言葉を絞り出した。

「どうか……あの像を、確かめていただきたい。」


 私は綾子の視線が家族を一巡するのを見届けてから、静かに頷いた。

「現場を見よう。学校に案内してもらえるか。」


 朝永が紙コップの蓋をひねり、空にしてから一拍置く。

「学校なら、痕跡は必ず残る。光の角度、足の運び、埃の乱れ、清掃記録。俺も行く。」


 その場で私は初動プロトコルを口頭で整える。

•訪問時刻を二回:①日中(基準照度の採取)、②薄暮〜夜間(錯視が強まる時間帯の再現)。

•立入り許可:学校長の承認、教育委員会の敷地内撮影許可(最低限の書式は私が持参)。

•被写体の配慮:未成年の撮影は回避。実花は被験者にしない。再現は美緒または等身ダミーで代替。

•時刻同期:校内時計・防犯カメラ・私のJJY同期時計を分単位で合わせる。

•触れない原則:像・照明・スイッチ類は鑑識前に手を触れない。必要な操作は学校側に依頼。


 啓は即答した。

「校長には私から連絡します。夜の立入りも調整しましょう。」

 綾子は短く付け足す。

「鍵は私が管理しています。放課後の施錠記録と、清掃当番の名簿もお渡しできます。」


 私は装備リストをメモに落とす。

•ルクスメータ(照度分布)/分光計(蛍光灯のスペクトル偏差)

•偏光フィルタ・可搬ミラー(陰影の変調確認)

•IMU付き小型カメラ(首振り角とタイミングの計測)

•三脚・距離計・方位磁針(撮影位置の再現性確保)

•低出力スモーク(気流の可視化:使用は屋外廊下限定)

•記録媒体(WORM)・封緘ラベル(チェーン・オブ・カストディ)


 朝永は短くまとめる。

「俺は現場封鎖と動線管理をやる。家人は原則、廊下の端に待機。

 清掃記録・電気系統の点検票・蛍光管の交換履歴は、校長から直接もらう。

 防犯カメラのデータはミラーイメージでバックアップ、ログの改竄が起きないようにハッシュを切る。」


「私は光と配置を読む。」

 私は続ける。

「像の高さ・向き・台座のレベル、床材の反射率、壁面のアルベド差。

 “視線が追ってくる”なら、陰影の閾値と観察者の移動速度に相関があるはずだ。

 “笑った”という証言は、鼻梁の影か口元の稜線が入射角で反転する現象として検証する。」


 美緒がメモ帳を取り出す。

「廊下の灯りは一列ですが、一本だけLEDへの仮交換です。スイッチは三路、タイマーは使っていません。清掃は昨日の放課後、用務員がモップ掛けをしました。」


 朝永がそこを刺す。

「モップ後の埃は“新しい足”を教えてくれる。清掃前後の足跡・車輪痕を撮る。

 用務員室の鍵管理簿も確認しよう。像に触れられる人間を絞る。」


 私は実花の正面に膝をつき、声をできるだけ水平に保つ。

「君は今日はここで休む。再現は大人でやる。君の語った“目が合った瞬間”の位置と時間だけ教えてほしい。細かい描写は要らない。」

 実花は小さく頷き、廊下の三番目の柱と夕方の始業チャイム直後を指で示した。十分だ。


 啓が車の鍵を差し出す。

「私が先導します。」

「いや、私は後続で行く。」朝永が首を振る。

「先導車の速度や車線変更は後続の視野を潰す。現場での“見落とし”につながる。」


 準備に要したのは十分強。

 私はケースの蓋を閉じ、封緘番号を記録票に打刻する。

——現場は待たない。だが、手順を飛ばせば現場は二度と戻らない。


 玄関を出ると、丘の上の風が少し強くなっていた。

 道路に出る前、私は門柱の影を一枚撮る。光の筋は、時間の定規だ。

 朝永は無言でパトランプの土台だけを指で押さえ、ぐらつきがないことを確かめる。揺れないものが、たしかにここにある。


「行こう。」

 私は言い、ハンドルに手を置く。

 第一の兆しは学び舎で待っている。

 そこに残るのは、恐怖の記憶ではなく、恐怖が作った配置だ。

 それを剥がしていくのが、私の仕事だ。

 篠宮家の敷居を跨いだ瞬間から、私はこの一族がすでに“視られる”構造の中に組み込まれていることを悟った。

 それは超自然の呪いというよりも、互いを監視し合う眼差しの網だ。

 綾子の張り付いた笑顔、悠斗の無機質な暗唱、弘志の確信めいた神託、玲奈の冷静な切り捨て。

 声はすべて矛盾しているのに、矛盾したまま一点に収束する。

——「覗かれている」という感覚へ。


 朝永は、あくまで測定可能な痕跡を探ろうとする。

 私は、数値化できない恐怖に潜む仕掛けを見抜こうとする。

 二つの立場は対照的でありながら、今回ばかりは補い合うだろう。

 数値と感覚、その両輪が揃わなければ、この事件の正体には届かない。


 そして導かれた舞台は学校。

 実花が怯えて語った「翁像」の存在。

 そこは、祖母の遺記に記された“三つの兆し”の第一に符合する場所だった。


 次幕、我々は学び舎に踏み込み、翁像の視線と向き合うことになる。

——守護の像はなぜ覗く像へと反転したのか。

——恐怖はどのように設計され、どの瞬間に作動するのか。


 篠宮家を覆う“覗かれる一族”の物語は、いよいよ現場での検証へと移る。


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