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一筋の光  作者: 水村陽
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王都騒乱(5)



 食事が終わり、彼女の隣に椅子を置いて座り、聞きたかったことを聞く。

「さて、一つ聞きたいんだけど。君はどうしてあそこで倒れていたんだい? それもあんな傷を負って」

 そう聞くと顔を曇らせ、うつむいてしまった。

「もしかして背中の印が関係することかい?」

 それを聞いた瞬間伏せていた顔を勢い良く上げ、驚いた顔を向けてきた。

「悪いけど、治療するときに見えてしまってね。しかし、その反応を見るとどうやら君は王族だね、しかも直系の」

 そう、背中の焼印は王家のしかも直系を表す印なのだ。ここサリル王国では王族は5歳になると背中に王家の証明として焼印を入れる。紋様は両親――つまり今代であれば君主である女王とその夫――の文様を半分ずつ受け継がれるが、その紋様は秘中の秘でありごく限られた人物しか見ることは許されないのだ。

「あの……、この事は!」

「大丈夫、言い触らしたりしないし、暗くてしっかりとは見れなくてどんな紋様だったかは憶えてないよ」

 思いつめた様子の少女を落ち着かせるように言う。荒くなった彼女の息が落ち着くのを待って切り出す。

「だけど、それならなおさら分からないな、君があそこで倒れていたのが。護衛の人はどうしたんだ? そもそもなぜ襲われてあんな所で倒れていたんだ?」

 しかしその言葉に彼女は顔を伏せる。

「事情があるみたいだね。この分なら騎士団に知らせるのもやめておいた方が良さそうだね。ま、昨日使った<治癒の律>は体の魔素を消費してしまうから2,3日は安静にしておいた方が良いよ」

「いえ、ご迷惑になりますのですぐに出ていきます。本当にお世話になりました。いつか必ずこの恩は……」

 そう言いながら寝台から降りようとするが、上手く立てず倒れこみそうになるのを支えて、

「無理だよ。昨日の今日で動けるわけがない。おとなしく寝てないと」

 サリーがベッドに戻るのを支える。きちんと寝台に入れ、布団をかけ直す。

「とりあえず、大人しく寝ておきなよ。大丈夫、誰にも言わない。荒事になっても騎士だからそっちは慣れてるし、あんまり強くはないんだけどね」

 そういうと彼女は不安げな顔になった。

「それとも俺が怖い? もしかしたら襲ってくるんじゃないかと」

「い、いえ、それは無いです」

「なら、もうこの話は終わり。大人しく寝てなさい」

 そう言って話はもう終わり、と手をたたいて立ち上がり椅子を持って歩き出す。部屋を出るところで振り返って笑いながら少女に向かって言う。

「あ、そうそう。もし何も言わないでここからいなくなったら騎士団に言って君を探してもらっちゃうから、勝手にいなくならないようにね」

 そうして返事を待たずに前を向き出て行く。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 次の日の朝まで特になにも起きなかった。サリーは食事以外は<治癒の律>で消費した体内の魔素を回復するためなのかずっと寝ていてあれからほとんど会話も無かった。

 今日は騎士団の方に行かないとならないので昼食を用意してから出かける。


 集合して訓練を始める前に隊長から全体連絡があるようだ。

「昨日言った王宮に関わる重大事件の重要参考人に関する情報はまだ何も入ってこない。王都から逃れた形跡もないことからおそらくまだどこかに潜伏していると思われる。昼からの巡回組は十分に注意してくれ。まだ手配書を見ていないやつは貼り出されているから必ず見ておけ。以上だ、訓練を始める、準備しろ」

 昨日、ということは非番だったときのことか。俺のいない間にそんなことが起きていたとは。それにしても王宮に関する重大事件……。

 なにか関わりがあるのかと思い、そばにいた同期の騎士に話を聞くことにする。

「なぁ、王宮に関する事件ってなにがあったんだ?」

「ん?なんだ知らないのか?」

「ああ、昨日は非番だったからな、で、なにがあったんだ?」

「まぁ、手配書に書いてあることしか知らんが、どうも王宮で事件があったらしくてな、しかも宰相がらみの。それで手配が廻っているんだ」

「王宮で事件? どんな事件なんだ?」

「宰相が暗殺されそうになったらしい それ以上詳しくはわからんが」

「暗殺? それで犯人はどんなやつなんだ?」

「手配書に似顔絵も書いてあるが金髪の美少女だったぞ?黒いローブを着て、それに護衛が肩に傷を負わせたらしい」

「へー、そんなことが」

「まぁ、噂によると王位を狙う宰相を今のうちに殺してしまおうって王妃派が送り込んだ刺客らしいぜ」

 やはり、もう一度彼女に話を聞く必要がありそうだ。

「ま、単なる噂だけどなんにせよ。捕まえてみればわかる話だ」

 そういって話は終わり、訓練が始まった。その日の訓練は今ひとつ集中を欠いたせいでいつものように剣を防ぐことができず、打たれまくるという散々な結果だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 聞かないといけないことが気になってしまいなるべく早く家に帰り着く。

 家に帰り、早る気持ちのままに入り口の戸を開けて家に入る。そのままの勢いでサリーの寝ているはずの寝台に向かう。


 目に入ってきたのは上半身裸で汗を拭っているサリーの姿だった。


 お互いに目が合ったまま動くに動けないまま数瞬。サリーが悲鳴を上げようとするのを感じた俺は慌てて詰め寄り、口をふさぐ。

「悪かった、謝るから落ち着いてくれ。悲鳴を上げないで、頼むから。とにかく落ち着いて、ちゃんと向こう向くから」

 まくし立てるように言ってサリーがコクコクと頷くのを見てからそっと口から手を放し、急いで後ろを向いて言う。

「急ぎで聞きたいことがある。なるべく早く着てくれるとありがたい」

 そういうと後ろでゴソゴソという音がして

「き、着替え終わりました」

という声が聞こえたので恐る恐る振り返るときちんと着替えたサリーがいた。

「あー、その悪かった、いきなり入って」

「い、いえ、気にしてませんから……。それであの、聞きたいこととはなんですか?」

 気を取り直して聞くことにする。

「あんたを襲ったやつに関してなんだが」

そういうと体を強ばらせ、うつむいてしまう。

「昨日のうちにある手配書が回ったみたいだ。背格好は黒ローブに金髪で、肩に傷を負ってる。そいつは宰相を襲って護衛に撃退されたんだが…」

「! 私そんなことしてません」

「だが事実、手配書は正式なものとして出回っている。宰相が王位を狙っているという噂が本当なら君が邪魔になって殺そうとするのもありえない話ではないと思う。どうだろう、本当のことを話てくれないか? 」

 彼女はうつむいたまま拳をにぎる。

「なんでですか?」

「え?」

「なんでそんなに助けてくれようとするんですか? だって相手は宰相ですよ? 文官のトップで王位を狙ってるようなやつですよ!? なんでそんなに助けようとするんですか?」

「それは……」

 もっともな質問に答えようとするが、同時に不穏な雰囲気を感じ取る。いつもならそとの喧騒が聞こえるはずなのに全く聞こえない。

 そう訝しんでいると答えない俺を変に思ったのか彼女が見上げてくる。

「あの……」

「静かに、黙って。 変だまわりの音が聞こえない」

「え、それは、あの?」

「周りが静かすぎる。 いつもならもっと周りに音がする。まだ早いし寝ているはずがない」

 そういうとある可能性に気づく。

「君を狙っているやつらか」

その言葉にサリーは

「!? 何故? まさか」

「いや、俺じゃない。誰にも言ってないし、バレるようなこともしてない……と思う」

「なら何故!?」

「さて、分からん。もしかしたら君を運ぶときの姿を誰かに見られていたのかもしれない。 それより逃げる準備を」

そう言って最低限の装備と荷物を準備する。さらに<陣>を構築しする。

「あ、あの?」

「急いで。とにかくここを出る。行く先は……ああ、あいつのところで良いか。知り合いの家に行く」

「まだ質問に答えてもらってません!」

 そう彼女が叫ぶので、準備していた手を止め振り返って答える。

「なんとなく放っておけない」

 それを聞くと彼女は茫然となり聞いてきた。

「そ、それだけ……ですか?」

「そう、それだけ。 それより急いで」

 そう言って止めていた手を動かして<陣>の構築を再開する。

 その時、入り口の戸から「ドンドン」という音がする。サリーと顔を見合わせる。

 答えないでいると再び戸が叩かれた。

「はーい、少々お待ちくださーい」

と大きめの声で答えてからサリーに向かって小声で

「合図したら目を覆うんだ。その後は誘導するからついてきて、いいね」

「は、はい。その、……ありがとうございます」

「その言葉は逃げきってから」

 そうして「はいはいお待たせしました」と言いながら戸を開けるとそこには黒いローブを着た男達が立っていた。どことなく雰囲気が暗く、それでいてそれ以外の印象を人に与えない「薄い」男達だった。

「あの、どちら様で?」

「人を探していまして、こちらにいると伺ったもので」

「はぁ? 一体誰のことで?」

「隠し立てするおつもりですか? 身のためにならないですよ」

「と言われましてもね」

「中をあらためさせてもらいましょう」

そう言って強引に入ってくる。

「サリー!」

 そう言って発動の<呪>を唱える。その瞬間、閃光が放たれる。

「ぐ、ぐう」そう言い男たちは目を覆い、呻く。中には倒れ込んでいるものもいる。

「行くぞ、サリー」

 サリーの手を左手で引きながら裏口を出る。

 出たところで右手から剣刃が迫る。慌てて腰の剣を抜き防ぐ。

「サリー、まっすぐだ。行け!」

 そう言って相手の剣をはじき飛ばし斬りかかってきた者と対峙する。

「邪魔するつもりなら容赦は……」

 その言葉を聞かずに左手を相手に向け、<呪>を唱える。

 左手にとどめていた<電撃の陣>から電気による圧力が発生し、男を吹き飛ばす。

 それを確認した俺はサリーを追うために走り出した。


読んで下さりありがとうございました。

王道ファンタジー目指しさらなる精進をします。

次話もよろしくお願いします。

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