しんじん採用試験
裏切り発覚から数時間後、俺達は村から外れた野原へと来ていた。
あんまりにあんまりな発覚の仕方だったので、フィーシャもメーナも、俺に対する警戒心は先程と変わらない。
まぁ俺も、寝言で「スパイとバレた裏切り者」を警戒するなんてできそうに無い。
ただ、勇者を除いて。
勇者は俺の事をさっきから睨んできている。その殺気は凄まじく、勇者は勇者で俺の事を疑いすぎでは?と思ってしまう。いや、本来ならこの反応が正しいのだが………
「 スライム、4匹居るぞ。 」
勇者が、3時の方向を指さして、そう声をかける。
ケミカルな緑色や紫。はたまた黄色などの蛍光色のゲル状が野原に生えた草を食っていて、中から分解の様子がわかる。
大きさは腰の高さ位だろうか、魔族はスライムでも注意すべし………と言われている様に、油断したら吸い込まれる大きさだ。
周りの様子を見てアピールしよう………!そう思った時だった。
「中回復!!」
スライムの中に魔力が起こる。
フィーシャの魔力の様で、それがそのまま暴走し、内部からパチパチと火花を立てている様な音とともに、緑色の光が光を増していく。
目を瞑りたくなるほどに光が瞬時に増加した途端、
ガラスが砕ける様な音がし、スライムの体はぐずぐずに蒸発しながら爆発四散した。
「どうよ!僧侶最大にして唯一の攻撃魔法は!」
「攻撃魔法じゃないけどね、厳密に言えば回復魔法だよ。」
ドヤ顔で自信有りげにガッツポーズを決めるフィーシャを横目に、メーナは冷静な指摘を入れながら杖を取り出し始める。
だいぶ年季の入った木材で作られた大きな杖。下から上へとバットや、棍棒の様に段々と太くなっていく形はファンタジーでは珍しい。
杖の大元となる木材には紫色や黒色の宝石が埋め込まれ、それらは彼女が持った瞬間輝きを帯びる。
「肥沃なる大地に戒めを造られし神の御力よ………」
「今、汝の舌に宿り、我を戒め、その怒りを以てして眼前の敵を穿て。」
────雷鳴が轟く。
一瞬にして紫や黒の宝石が一気に鮮やかな黄色の光を放ち、杖の先からスライムに向かって太い雷鳴が放たれる。
スライムは一瞬にして体を分解され、その場には少し焦げた地面だけが残された。
「─────電撃。」
魔王の極光を見て以来、ライトニングは自分の物しか見ていなかった。
勇者パーティーの魔法使いと言えど、魔王の魔法には遠く及ばないだろう。それも当然ではあるのだが………
「皆さんすごいですね………」
勇者パーティーは流石である。初級魔法の電気は魔法使いの中では基礎中の基礎。スライムに当てても並の魔法使いは5発は当てないと倒せない様な威力の魔法の威力を向上させ、かつ魔力の消費を抑えているのは感心できる。
僧侶もあんなバイオレンスな攻撃ができる。駆け出しのパーティーとして相当な高レベルだ。
「タチバナ。残りの二匹はお前が倒せ。」
「無論、本気でだ。」
感心し、パチパチと小さく拍手をすると、冷淡で低い男の声。勇者がそう言ったそうで、これで使えるかどうかを見るのだろう。
─────あぁ、本気でやってやろうじゃないか。
俺だって実力を出せば強いのだ。なぜなら四天王なのだから。
「火炎付与。雷電付与。威力上昇付与。速力付与」
続々とバフを自分に掛けていく。
鞘から引き抜いた泥でできた剣(まぁ、外見は完全に普通の剣なのだが)の剣身には立ち昇る様な炎や、その回りを迸る様な電気が纏われ、俺の体には力が満ち、身軽さが増す。
スライムには少しやり過ぎな様なそのバフ魔法に、メーナやフィーシャは少し引いた目をしていた気もするが………まぁ勇者が本気でやれ。と言ったのだ。
本気でやらせてもらいますよ………っと!!!
「────断絶の一太刀!!」
剣の重さに任せ、その腕力で剣を思いっ切り下へと振り落とす。
一瞬。世界は無音へと包まれ、ワンテンポ遅れた轟音が鳴り響く。
まるで絨毯爆撃でも起こったかの様な激しい爆発音とともに、向こうの遠い山まで深い渓谷の様な跡ができているのが確認できた。
スライムは斬撃の衝撃波で蒸発したのだろうか、どのみち渓谷の様な痕跡があるのだから、必死である。
「どうでしょう………か─────」
自分でも予期していなかった大惨事。少しの間は自分の強さに酔いしれる様な感じがしたが、ふと、メーナとかフィーシャ、勇者の反応が浮かんできた。
多分、ドン引かれている。もしかしたら今すぐにでも処刑しようとするかも………
「やるじゃん!!流石魔剣士様なだけあるね!!」
そんな不安は、後ろから飛び込んで体を抱きしめてきたフィーシャの陽気な反応でかき消された。
飛びかかられた衝撃で顔から野原の土へと顔を埋めてしまう。土の匂いがする………
今はそんな事より、好印象な事が嬉しかった。
小声で話しているメーナと勇者も俺を使えると判断してくれたらしい事が分かった。
「──────タチバナ。話がある。」
フィーシャを引き剥がして、しばらく休憩。と言う事にしていた。
俺は勿論の事、勇者も実力者であるらしい、まだ体力があったのだが、フィーシャとメーナの二人は初心者。慣れていないと一戦でも体力を浪費する。
遠く遥か上にある青空を眺めていると、勇者が話しかけてきた。
「はい、なんでしょうか……?」
もう少し空をぼんやり眺めていてもいいと思ったけれど、勇者様の声とあっては仕方あるまい。
俺は振り向き、勇者にそう問い掛ける。
「実は、出会う前からお前に目星を付けていてな。仲間にしようと思っていた。まぁ、裏切り者がお前だった事までは分からなかったが………」
彼のポケットからは小綺麗な布袋が取り出される。
中からは甘い香り…そう、それはチョコレートの濃密な香りが漂っていた。
「お前は便宜上パーティーメンバーとするが、裏切られても厄介なのでな……給料とは別に、特別支給だ。」
スイーツは好きだろ?と言われている様な鋭い目線が突き刺さる。だがチョコレートの甘い香りがする布袋から目を離せない…!!!
勇者はゆっくりと俺に近寄ると、袋を手渡した。
中を見ると、茶色に近い黒の四角い固体と、それを冷やす様な冷気を放つ青褪めた宝石の粒。
そこには、チョコレートが存在した。
一粒、チョコレートを摘んで、口に投げる。
ひんやりとした感覚が舌を覆った後、濃厚なチョコレートの甘みとともに溶け出していく感覚。やはり異世界、まだまだチョコレートとしてはビターで、カカオの苦みが目立つ。砂糖も高級品なのだろう。
しかし、そこには確かにチョコレートの甘さがあった。
これからのお菓子生活が楽しみになる。
「もし、フィーシャとメーナが絶対に倒せない程強い敵を倒したらそれとは別にボーナスも支給してやる。励む事だな。」
勇者は俺を鼻で笑う様にし、フィーシャ達の元へと近寄っていく。なんて気の利く勇者だろうか……一人でチョコレートを堪能させてくれようというのだ。
性格は少し悪いかもだが、それでも大恩人であるのには変わりない。スイーツの恩。全力で返さなくては………
そんな事を考え、もう一粒を手で摘もうとした時だった。




