勇者アルベル
シフォンケーキを食べ、遂にこの街で一番人気の酒場へと辿り着いた。
勇者の魔力は事前に知らされてあったので、魔力の跡を辿れば簡単に見つける事ができる……とは言え、これは魔族にしかできないらしいので、一概に簡単とも言えないらしい。
「酒場ってやかましくて嫌いなんだよなぁ……」
異世界でも酒場がうるさいのは変わらなかった。
それもそうだ、酔っ払い達が住まう都であるのだから、うるさいのは必然なのだろう………だから俺は嫌なのだが。
変なのに絡まれない内にさっさと端の方に移動してしまおうと、席を探っていたその時だった。
「お前、剣士か?」
気配が読めなかった。
咄嗟に剣を抜き取ろうとするが、片手で手を掴まれ、もう片方の手で肩に手を置かれる。
絶大な魔力の量だ。それでいて体外には殆ど溢れ出していない。
その強さとポテンシャルが他とは一線を画しているのは明らかだった。
「まっ…魔剣士でひゅっ…」
そんな人間に声を掛けられ、手を掴まれているのだ。滅茶苦茶怖い。今すぐ逃げ出したい。もう勇者とかどうでも良いから早く!!!!
だが、そんな気持ちを表に出しては何されるか分かった物ではない。
冷静さを装おうとし、その返答に答えようとしたのだが、声が上擦ってしまう。
何やってんだ俺、情けない──────
「そうか、俺は勇者アルベル。」
「アルベル・アルベアル。」
─────勇者!?
早々にして会敵。今からスパイとして潜入するリーダーと対面してしまった。
ゆっくりと振り返ると、中肉中背一般的な日本人男性、と言った風貌の青年と目線が合った。その瞳には光が差し込んでいないのが不気味だ。体は冒険者にしては少し鍛えてるかな、と言う程度であるのにも関わらず、その底知れない感じは異常だ。原因は、ポテンシャルの差異だろう。
勇者と冒険者、何が違うのか──────
────それが一目で理解できる。
圧倒的なポテンシャルの違い。潜在能力で言えば魔王を遥か凌駕して、無限の強さを秘めていると言っても過言では無い。
「そっそう……アルベル様…素敵な名前ですね……」
咄嗟に目を逸らし、すっかり小さくなった声で世辞を述べる。目の奥から何か込み上げてくるのを感じた。多分、今の俺の顔面ほど酷いものは無い。
どんだけ駄目なやつなんだ……俺は………
そう思っていた時だった。その言葉が、耳に入り込んできた。
「魔剣士は優秀な職業だ。良ければ…………俺の仲間になってくれ。」
勇者直々に誘ってくれた。
魔剣士。冒険者の1000人に1人くらいだろうか、魔法使いと剣士の才能がある且つ、複数の事に集中する能力が求められる、確かに優秀で珍しい職業だ。
けれど、正直俺みたいな魔剣士をパーティーに引き入れる位なら魔法使いと剣士をそれぞれ単体で引き入れた方が良い。
勇者は世間知らずなのだろうか…?そんな事は今どうでもいい。
「よろしくお願いします……!」
嬉しかった。それは任務に着手できる事もそうだが、勇者が俺を選んでくれた事が何より嬉しかった。
前世は、人に指名されたりした事は無い。
人目に入らない様に、目立たない様に生きてきた。役立たずとして振る舞った。皆からも馬鹿にされた。
でも、今世では世紀の大悪党として、勇者パーティーの裏切り者、大役者として、俺だって舞台に立てるかも知れない。人に覚えてもらえるかもしれない。
そんな期待を込めて、めいっぱいの勇気を振り絞って元気にそう答えた。




