道中、シフォンケーキにつき
光が目の前を包んで、羽毛布団にくるまっているみたいな心地良さを感じる。
魔族の皆がテレポートを嫌がる理由が分からない位の心地良さだ。
草原に立っている様な日光の心地良さと、小鳥のさえずりが聞こえ、その瞬間はとても安らいだ。
抱いていた少しの緊張と不安が溶け込んで消えていく様な感覚。
「────着いたか。」
目の前が暗転し、肌に微かな湿り気を憶える。
目をゆっくり開けると、そこは路地裏だった。
この世界に来てから初めての街。表の方を覗き込むと、そこには夢に出てきそうな、中世の建物が立ち並んでいる。
人々は皆、顔が活気に満ち溢れていて良い街だと言う事が一目で理解できた。
良い街だ………と言う要因はそれだけじゃない。この国は栄えているのか、ほんのりと甘い匂いがさっきから漂っているのだ。
ふんわりと仕立て上げられた、焼きたてのシフォンケーキの匂い。
勇者はまだ活動していないと思うし─────
ちょっとくらい良いだろう。
「すっ…すみません。この" マウンテンケーキ "を一つお願いします。」
形が台形、と言う所から、山と言う名を名付けたのだろうか、その名前負けしているとしか思えない、ふわふわなシフォンケーキがパン屋のショーケースの様な物の中で切り分けられて置かれていた。
「お買い上げありがとうございます!銀ペテル3枚になります!」
あっちで売られていた牛肉の燻製よりは少し高いが、まだまだ魔王から渡されたお小遣いには余裕がある。
この世界に来て初の甘味を見過ごすのに比べたら、銀ペテル3枚なぞ安い物である。
ただ、今でも銅貨だとか、銀貨だとか、金貨だとかがあるのには慣れない。
通貨の名前もそうだ。国によってペテルだったり、ドルマニアとかだったりと呼び名が変わって───
──勉強の時は覚えるのに苦労したなぁ…………
そう考えていると、紙包みに包まれて温かいシフォンケーキが渡された。結構大きくて、アップルパイ一切れ分はある。ケーキ自体もしっかりしてそうなので、中々お腹に溜まりそうだ。
そう、これは腹ごしらえの為なのだから仕方無い。
「─────おいひい。美味い…すごいおいしい…」
何年の甘味断ちだっただろうか。いや、魔族に生まれてからはスイーツは摂取していない、恐らく人生初の甘味を摂取している。
口の中に入れて尚、広がる豊かな香りが食欲をくすぐる。
暖かくて、ふんわりとしていた。涙が出そうになるほどの甘さが口の中で感じる。
生クリームなんか無くても感じる、冬の日の暖炉の前の様な優しい甘味。
感極まれり。異世界に行って尚、俺は変わらずスイーツが大好きだった。




