虚妄の魔術
「よぉ、かつての魔術師。」
アルベルが私達の一歩前に出て、剣先を虚妄の魔術師へと向ける。
「─────」
魔術師は黙ったまま、私達へと虚ろな視線を向けた。
距離は遠い、これは対魔術師戦に於いて一番ダメだ。
「アルベル、私が"中級防御付与"で援護するからとにかく間合いへ。」
魔法使いは援護が花道。私の近くにはフィーシャもいるし、万全ではある─────あぁ、中衛が居たら良かったんだけど。
「"煉獄突鋒"!!」
アルベルに防御魔法を掛けると、すぐに突き技を繰り出して遠く離れて魔術師のところへと突撃してしまった。
「─────神級」
「神電魔法」
空間に響く静かな、短い詠唱をかき消すようにして白い光と雷鳴が鳴り響く。
「アルベル──────ッ!!」
数秒後、目にしたのは、黒焦げになって地面に倒れるアルベルと、無謀にもアルベルの元へと駆け出していくフィーシャだった。
「上級回復!!上級回復!!上級回復!!」
アルベルに回復をかけるフィーシャ。でも無駄なんだ。応急処置にはなるかもだけど、完全に回復しきるにはもっと上────神級じゃないと。
「人間に仕えし万物の破壊の根源よ!!」
「今!汝の舌に宿り、我を戒め、その怒りを以てして眼前の敵を穿て!!」
「上級火炎魔法!!」
私は、怒っていた。
アルベルなんてどうでもいいと思っていたのに、なんでだろうか、自分でも自分の事は分からない。
─────先代魔王を倒した。先代勇者パーティーの魔術師。最強の魔法使い。そんなの関係あるか。
「─────死ねッ!!」
杖の先から、赤く燃えたぎる炎が荒波のようにして虚妄の魔術師を襲う。
「根源級」
虚妄の魔術師の前には魔力が集約していく。
「魔術反射魔法」
魔力が透明な膜になって、放った炎は膜に触れた途端に私の方へと勢いを増して向かう。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ────!!!!!!」
フィーシャの頬を掠めて、炎は私の全身を焦がす。
熱い。熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。
そんな感覚もしばらくして消え去った。
意識が遠のいていくような、ダメ、頭がぼーっとして、、、
「メー、ナ?」
もう目も見えにくい。そんな目で見たのは、フィーシャが私に近づこうとしている様子と、それを後ろから狙う虚妄の魔術師。
ダメ、気づいて。私は死んだって良い。
だけど────フィーシャ。貴女はダメなんだよ。
「こな、ぁ────」
声帯も焼き焦げて、まともに声が発せない。
まばゆく光る雷光がフィーシャの背中を穿こうとした時、私は信じられない物を観た。
「" 断絶の一太刀" 」
電は急角度を鋭く狙って、天井へと突き刺さる。
フィーシャの背後に居たのは────魔剣士。
タチバナ。魔王軍四天王、そして私達の仲間の。
「フィーシャ。メーナに回復をお願いします。」
意識が途切れる直前。いつにも無くハッキリと物を言うタチバナの姿が見えた。
─────いつもオドオドせずにそんな感じなら、頼もしいんだけど。




