ダンジョン突入
「──────凄い。」
感動した。私は今まで、天才として育てられ、魔法をマスターしてきた。
事実。覚えられたら達人として扱われる上級魔法さえも習得した。
だが、それは上級なんてものとは比べ物にならない魔法。人智を大きく逸脱した。許されざるまでの、
私は不意に、美しい。そう感動し、涙を一筋流してしまった。
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「─────あの、、、だ、大丈夫ですか?」
なんで!?なんで急に泣くの!?俺何か悪い事しちゃったか──────威力に怖がっちゃったとか?
魔力の大きな損耗は、フルマラソンを走った時の様な疲れが込み上げてくる。
俺はその疲れに大きな溜息を吐き出してしばらく休んでいると、ふとしてメーナの方を見た。
すると、なんと泣いていたのだ。大泣きと言う訳では無いのだが───どうしようか、女の子をこの歳になって泣かしてしまうとは立つ瀬が無い。
「えぇ、大丈夫、要らない心配しないで。」
一筋、頬に垂れた涙を拭うと、いつもの冷えた表情に戻り、杖の先をピカピカと光らせ、先程の魔術体系の実験を始めた。流石天才魔法使い。泣きやんでくれてホッとした。
「これより。ダンジョン攻略を開始する。」
─────あれから一時間後、メーナが満足した様子で勇者に近寄ると、皆に呼びかけるようにして声が掛けられる。いよいよ、目の前のダンジョンに挑めるのかと思っていると期待で胸が膨らんだ。
ダンジョンとかファンタジーっぽくなってきたじゃないか!!
そう思って、ダンジョンに向き直る。
塗装が全て剥げた様な丸出しの岩肌に、風化して欠けたりしている天使の彫像。大きさは一軒家並みと言う小ささではあるが、全体的にタージ・マハルの様なインドの宮殿みたいな雰囲気を放っている。
まるで、神様でも祀っていたかの様な─────
まぁ、今はそんな事どうでも良いか。
「ほら、タチバナさっさと行くよ!」
不意にぐっ、と手を引かれ、ダンジョンの中へと導かれる。フィーシャの手は温かい、母さんに生まれたての弟を触らせてもらった時はもっと温かかったっけな。
遠い昔の記憶を思い返しながら、俺は転ばないようにと注意して入り口へと足を踏み入れた。
途端、視界が歪み、大量の魔力が体内に流れ込んでくる。こみ上げてくる吐き気と、強烈な不快感。
視界がボヤけ、上手く立つこともできず、ひたすら前に手を伸ばそうとする。
助けてくれ、誰か!
思考が上手く回らない。感情と、怯えた本能でひたすらに助けを求めた。
瞬間、伸ばした手が何かを掴む。ほんのり温かく、何より安心する。
いつの間にか粗くなっていた呼吸が整い始め、心が整っていく。
そうだ。流し込まれた魔力を体外へと放出しろ。
深く吸い込んだ息をゆっくりと吐き戻す様に、内臓の一つ一つ、骨の一本、血管の一筋、そして────体の中にあるコア。
全ての位置をイメージして、その位置に充満している魔力をイメージする。それらはゆっくりと、ゆっくりと口から息と一緒に吐き出していく様に。
「─────じょうぶ?大丈夫?」
視界のピントが段々と合っていき、頭も回転を始める。瞬きを2、3回すると、目の前には泣きそうな顔で俺を心配しているフィーシャの顔が眼前に広がっていた。
どうやら────気を失っている内に、フィーシャに押し倒されてしまったらしい。右手は強すぎる程に握られていて、冷静に考えればちょっとまずい。
「あ、あの────フィーシャさん、、、」
目をそらして、俺はそう呼びかけた。
ヤバい。ドキドキする。
心はおっさん、体はモンスターなのに!!
「あの、手、、、痛い、、、です。」
続けざま、フィーシャにそう伝えると、顔がどんどんと紅潮して、素早く手を離しては飛び退いてしまった。
フッ、と短く息を吐いて起き上がり、辺りを見回す。勇者も、メーナも俺が起きるまで待っていてくれたらしい。
「とんだグズね。実力以外、到底四天王とは思えないわ────もっとも、今はその実力すら危ういけど。」
メーナの目を見つめると、素早く目を逸らして、帽子を深く被りながらそう冷淡に吐き捨てる。
態度こそ厳しいが、本当に彼女が冷淡な人物ならここで待ってくれてはいなかっただろう。
にしても、実力が発揮できない。的な事を言っていたけど、どういうこと?
その疑問に答えるかの様に、勇者が手短に状況を説明した。
「今はダンジョン突入から15分程度の経過している。俺達人間は問題なく動けるが、魔族のタチバナにはここは少しキツいだろう。」
「─────魔族殺しが空間中に展開されているからな。」
魔族殺し。聞いたことがある。
確か優れた魔法使いが自分の魔法や、体に付与できる特殊な魔力であったはず、、、なんで空間に入っただけで?そんな疑問は、唐突に浮かんだ発想で納得させられた。
「なぜ魔族殺しがこの空間に発動しているのかは分からんが──────」
「これが、体にまとっている魔族殺しなんだ。」
勇者が俺を励まそうとするのか、勇気を付けようとしているのか、そんな言葉を言おうとした時、ふいにその言葉が漏れた。
もし、これが虚妄の魔術師が体にまとっている魔族殺しの範囲だとしたら?
これは意図的にそうしているのではなく、デフォルトでそうなのだとしたら───────
「そんなのあり得ないわよ、、、そんな技術。魔法の域を超えている。」
メーナが自分に言い聞かせる様にそう叫んだ。
確かに、メーナがそう言うのはもっともな事である。
魔法、魔術の類は規模が大きければ大きい程、使う魔力も、技術も上がっていく。
同じ物でも、モノレールと実際の電車を動かすのは、どちらが難しいかは言うまでもない。魔法も同じ────相手すら見えていないのに魔族殺しの影響を受けるなんて、明らかに異常なのである。
「────ダメです、、、魔法が使えません、、、」
やはり、魔法を使えない。力が抜けていて剣も握れない────俺は役立たずになってしまった。
なんと不甲斐ない事だろうか、ダンジョン攻略と言う重要な仕事を任されたと言うのに。
「安心しなさい。攻略中に解析は進めておくわ、、、魔族はせいぜい私の盾になってから死になさいよね。」
メーナが俺の様子を見かねたのか、瞼を閉じ、冷たい態度で接する。あぁ、本当に優しい、、、ここまでテンプレに沿ったツンデレは居ないだろう。
「現状の説明もした。奥へと進むぞ。」
勇者に呼びかけられ、俺はフィーシャの手を借りて立ち上がって進んでいく。
辺りの光景は正しくダンジョン、迷宮の名を与えられるに相応しい様相で、石作りの道に、様々な所にワイヤーの様な糸や、辺りを徘徊する中級魔族の数々─────それも、完全なアンデッド。
今の魔王は全てのアンデッドに人格を与えていのと、墓から掘り起こしてアンデッドを製作している為、不完全と呼ばれる。事実、先代魔王のアンデッドの方が意識が無い分、恐怖を感じることもなくて面倒だ。
─────だが、そんなアンデッドや罠も、フィーシャやメーナがどうにかしてくれている様だ。
フィーシャの回復魔法は特にアンデッドに効く、最適な人物と言えるだろう。
「も、申し訳ありません、、、役に立てず。」
皆、何かしているのに俺だけ役に立っていない。
俺の本来の役割は、裏切り者として魔王に情報を渡しつつ、勇者パーティーが道中で倒れない様にする為じゃないのか────!!
自分に対する憤りで、俺は下唇を噛み潰す勢いでつぐんだ。
「おい、もう戦いらしいぞ。」
ふと、頭痛の激しい頭を上げて前を見ると、紫色に怪しい光を放つ魔法陣が展開されていた。
フィーシャはその場で俺から手を離すと、勇者達の元へと駆け寄っていく。
待て、フィーシャ達は俺を置いて戦う気なんじゃ。
そう思った時。ふいに脳みそに電流が流された様な感覚がし、意識が遠のいた。
突然に巻き起こった意識が奪われていく感覚に脳みそが情報を処理しきれない。
ただ、目の前の光景は単一的な情報として流れ込んでくるだけ。
メーナの杖から、パチパチと光る電気が放たれていた。
────そっか。俺はメーナに寝かせられたんだ。
脳みその99%くらいを削りながら書いた気がします。やばい。




