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裏切り者の剣士さま!  作者: 三日月カヌレ
「新」異世界生活
11/21

漆黒の渾沌と、それに勇む者達


「ロス・アウトレーン────先代魔術師!?」


話が終わった途端、メーナは青ざめた表情で強く机を叩き、立ち上がる。

頬に垂れた汗は尋常では無く、数日、旅を一緒にしてきて初めてみる表情だった。

俺は、彼女がそんな表情をするとは思わなかった。正直、先代魔王の事は知らない。だがクール気取りのメーナが取り乱しているのだ、、、きっと。それなりの強さはあるのだろう。


「魔王って前にもいるものなの?そんな事教会じゃ教えてないけど────」


フィーシャが困惑した様な表情で、メーナにそう尋ねる。この話ばかりは俺が無知なだけでは無いらしく、「聖徳太子は存在していなかった」とかの、少し陰謀論めいた歴史の裏側だとか言われている物らしい。


「魔術に詳しくなければ先代魔王の存在自体知るはずも無いわ。悍ましき渾沌────」


「────漆黒の渾沌卿。先代魔王の異名よ。種族も、使う魔法も不明。だけどただ一つ分かっている事がある。」


「先代魔王は、現代魔術とは比べ物にならない程に馬鹿げた強さの魔法を持っている。と言う事。」


勇者の発言がかなり衝撃的だったのだろうか、目が眩んだらしく、立ち上がった後すぐによろけて椅子に座った。

そのまま、机に突っ伏して解説を続ける。


「メーナってば────教えたがりなのは変わらないんだから。」


フィーシャが心配そうに背中をさすったり、机の上に置いてあった料理などを移動させながら、呆れた様に優しく声を掛ける。


回復魔法を使うから、面倒見とかも良いのかな。


「────その魔王を討ち倒した先代勇者パーティーの魔術師。その屍、今は魔力で動く人形だとしても、その強さは四天王に匹敵する。そのつもりでダンジョンへ挑む様に。」


勇者は上手い感じにまとめ、フィーシャやメーナ達を宿へと帰した。流石は勇者、リーダーと言うべきか、、、ダンジョン突入は明後日にして、とりあえず明日は二人とも休むらしい。


「俺達に休みは無い。今から鍛えに行くぞ。」


勇者はメーナ達に接する様にとは俺に接してはくれない。やや雑な態度、と言うのか、態度が砕けすぎている気がする。

俺と勇者ってそんなに仲良かったっけ?そんな風な事を思いつつ、勇者が向かうと言う場所について行く事にした。















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「勇者。あ、貴方がそんな事を言うのなら───────私は貴方を倒さなきゃ行けなくッ、、、」


勇者の喉元に剣先を向け、俺は震えた声でそう脅しを掛ける。勇者の蔑む様な視線が突き刺さり、精神的なストレスがヤバい。

だが、俺にとってそれはこの異世界生活の価値そのものですらある。それを放っておいて何がダンジョン攻略だ。


「タチバナ。チョコフォンデュごときでスパイの業務を放棄するな。と言うかチョコフォンデュなんて物はここには無い。」


心底、本当に心の奥から蔑まれた様な気がした。

深い溜息とともに、見下されている。

見下されている────!!!

俺がスイーツを食べようと言うのに、それをないと言うのだ。そんな事許されてたまるだろうか。


いや、無いだけで、作れない事は無いのだ。

ならば作れば良いじゃないか、チョコフォンデュを。


「────火炎(ファイア)。」


この異世界で、甘さを知ってしまったらもう戻る事はできない。マイルドドラッグ。そう呼ばれる程の中毒性に抗う事はできないのだ。

俺達は村の外れに移動し、石机の上に集めた小枝を置き、火を付ける。


「そして─────上級泥土(ベスト・クレイ)


泥の邪竜騎士(クレイ=ドラゴナイト)はその名の通りに泥を操る事───引いては土魔法に長けた種族。

つまりは泥土で形づくり、それを瞬時に────固める!!


「土魔法で生成した粘土を固め、陶器を作るとは、高等な魔力操作だが──────なんでチョコフォンデュを作るのにそんな事を、、、」


勇者が横から口を出すが、そんな事は今どうでも良いのだ。燃えた炎を覆う様に、魔法にて作り出した小さな陶器を机の上に置く。

そして───────ポケットからチョコレートの入った布を取り出した!!


「─────これなら行けますね。」


少し手で触れると、少し暖かくなった陶器の温度を感じる。後はチョコレートをこの中に入れれば溶け出して─────だが。このまま入れる訳にも行かない。

細切れにしなくては。


「勇者さん。これお願いします。」


俺は真剣な顔付きで、いや。顔だけでなく心までも真剣に、勇者へとチョコレートを切り刻む様に促す。チョコレートは刻んでから入れなければ、溶けにくい。これは最重要の任務─────だが、されを行うのは伝説の勇者。魔王をその剣で捻じ伏せようとする気迫でチョコレートを切ってほしい。


「菓子作りになるとやけにハッキリと物を言うな、、、分かった。」


勇者は渋々、と言った様子で承諾すると、右足を後ろへと引き、そのまま剣の持ち手に手を掛ける。

────俺は素早くチョコレートを投げた。下には俺の体を変形させて即席で作り上げた陶器。

刻まれたチョコレートはこの陶器の中へと落ちる。

後は勇者だけだ。


「────百式(チェント)


流星堕斬(ステッラ・カデンテ)!!」


引き抜かれた剣は、青色の光に包まれ、それは流星の様な輝きを放っていた。その光がまるで円を描いて落ちて行くような綺麗な太刀筋でチョコレートは切り刻まれて行く。

陶器にチョコレートが落ちた時には、砂の様に細かく刻まれた姿になっていた。


「凄い──────これが勇者の実力!!」


チョコレートが溶けない内に、チョコフォンデュ用の陶器へと移し替える。

にしても、この細かさまで…となると、流石は勇者だと思う。現代科学文明でも、ここまで細かくするのは難しいだろう。

チョコレートは溶け出し、タワーの一番上から流れて行く。

一番下の溝まで行くと、俺が発動している風魔法で上まで上がる……電気が無い世界ではやや無骨だが、この世界にも誕生したのだ。


「────名付けよう、このお菓子の名は。」


漆黒の渾沌(チョコ・キリング)!!」


生まれた。初めての我が子。先代魔王と同じ名を持つスイーツが、全てのフルーツを漆黒に染める渾沌の塔が。


「────殺害(キリング)?」


勇者だけは依然、その名前の意味が分からない。と言う様子だった。いたし方あるまい。奴にスイーツの素晴らしさは分からんのだ。

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