かつて魔を討った魔術師
その後は、スライムなどの下級の魔族を数日狩り、皆の経験値を均等に上げていった。
とは言え、俺は補助ばかりで最初以外は魔族を倒していない。とは言え、俺の実力的にスライムをどれだけ倒しても、得られる経験値は極わずかである。
強くなればなるほど、それに見合った強さの魔族を倒さないと強くはなれない。だから強者はスライムなどの雑魚は狩らない。得られる素材の質が低く、量も少ない……ゆえに、スライムは繁殖を続け、弱いモンスターは絶滅しないらしい。
「─────だからスライムは絶滅しないのだよ、タチバナ君。」
帰り道にフィーシャが自信有りげに話していた。
まぁ、普通に知ってるんだけどね。
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街へと着いた俺達は、その街に住まう人々がいつにも無くザワザワとした声が多く、それでいて不安げに思っている人が多い様な雰囲気であった事に気が付いた。
なんだろうか?近々戦争でも始まるのだろうか。
異世界では戦争は良くある話である。実際、そういう戦記物は読み漁った物である。あぁ────この世界にもそういう戦記はあるのだろうか?
そんな考えをぼんやりと浮かべていた時に、ふと、勇者の顔を見た。
「まだレベル上げが足りないってのに────」
何やら、忙しなく独り言を呟きながら張り詰めた表情を浮かべている。何か訳知り顔で、俺はそれが気がかりなまま、酒場へとただ流されるままに歩んでいった。
「いらっしゃい!随分と魔力が濃くなったじゃないか!」
酒場へ入ると、店主に声を掛けられた。この数日間、あまりに勇者パーティーの近くにいたので気づかなかったが、改めて見ると、フィーシャもメーナも強くなっている。才能みたいなやつでもあるのだろうか?
「酒場のボスも言ってる通り、お前達は”アスクロリア大陸”に行っても良い程に強くなった。そろそろこの話もしておきたかった所だった。」
勇者が店主の言葉を鼻で笑い、手を軽く振ると俺達を端っこの席まで先導する様にして進んで行き、店全体が見回せる端の席に着く。
メーナは肉を頼んだり、フィーシャはミルクを………と好き勝手にメニューを注文し始めた時、唐突に勇者はそう切り出した。
「アスクロリア大陸────?」
ふと、聞いたことの無い単語を無意識に反芻してしまう。聞き返し癖、と言うやつだろうか……口に出した事に気づくと、俺は話に水を差し込んでしまって申し訳ない気持ちが湧いてきた。
「中級の魔族が蔓延る大陸………ここには下級しかいないから平和だけど、アスクロリアに存在する国の多くは軍事国家、」
「そんな事も知らないなんて、、、魔族でも全員知ってると思うけれど?」
俺の疑問に応える様に、落ち着いて、されどもやっぱり氷柱の様な冷たい声で説明を始める。
説明自体は助かったのだが、最後の余計な一言が俺を無性にイラ立たせた。絶対に知らない奴もいるし、スライムとか。
「あはは、、、面目ないです………」
だがそこで言い返せていたら俺は臆病者では無いのだ。俺より弱い癖に、、、なんて内心で毒を吐く位しかできない小心者。それが俺である。
───────ちくしょーっ!!!
「えー、それで話なんだが。」
一連の流れを見ていた勇者が、話題を切り替えようとするかの様に声を出す。
本題はアスクロリア大陸への上陸、と言う訳でも無いらしい様子で、いつもよりも張り詰めた雰囲気をまとっていた。
そんな勇者を見ていると、固唾を飲む様な緊張感が込み上げてくる。それはあのマイペースなメーナも同じらしく、珍しく食事の手を止めて会話に参加する意志を見せていた。
「俺達は魔王討伐のため、アスクロリアに行く前にダンジョンに潜る。ダンジョンの最奥─────そこの主を倒さなければ、魔王への道は開けない様になっているんだ。」
──────そうなの!?
魔王の攻略情報を聞いて、まず驚いたのは俺だった。
そんな話、見たことも聞いた事も無い。魔王城にはそれなりに長く住んでいるつもりだが、魔王城にいるモンスター全員、そんな話をしていない気がする。それに、この話が嘘だして、そんな嘘を付く必要性も無いし、、、もしかして魔族から嫌われてたのかな、俺。
「先代魔王。渾沌卿を討ち倒したとされる勇者パーティー、虚妄の魔術師───」
「ロス・アウトレーン。その屍がダンジョンのボスだ。」




