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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不可思議な水族館

作者: 大正水鷹

 今、俺はどこかわからないが真っ暗なところを進んでいく。


 足元は何故かベットの上で歩いているみたいに柔らかく、たまに生臭い魚の匂いがする。


 手を広げてみても、ただ空気に触れるだけ。


 伝わる感覚を嗅覚以外無視すればまるで魚市に来たような気分だが、ここは魚市のような活気のある声は聞こえないどころか、静寂が包んでいる。


 スマホはない。普段ならあり得ないが、身につけているものはラフな私服と常に身に着けている外出用の1万円札1枚だけ。だから暗闇をどうすることもできない。


 しばらく歩いているとなにか硬い、壁のようなものにぶつかった。


 自分はなにかとんでもないことをしてしまったのではないかと思いつつ、身構えていると夜目が効いてきたのかそれが、水槽であることが判明した。

 

 中には種類はよくわからないが、熱帯魚らしい鮮やかな模様が薄い光を反射していた。


 これは、熱帯魚なのか。それにしては随分と暗いところで飼育されているんだな。熱帯魚がこんな暗闇に放り込まれていたらストレスで死にそうなものだが。


 熱帯魚のことを心配していると、自分の身を心配しないといけない状況なのに自然と、安心してくる。


 そうなってくると、さっきまで重かった足取りがメタンガスでも入れたのではないか、と思えるくらいに軽くなる。


 しかし、その気分が一瞬にして塗り替えられる。


 少し歩いていると眼の前に大きい骨が転がっていた。


 とひぃぃ!と情けない声を上げる。しかし、その次の瞬間にはそれは部分的に穴が空いているガラス張りの展示棚から落ちて来たものだと分かり、少し落ち着いたが、落ち着いたからこそ表面的な強さでなく深いとこを考えてしまう。


 なぜ、ガラス張りの展示棚が割れているのか、見てみた感じは厚くそう簡単には割れ無そうなものなのだ。


 こんな局所的な損傷を引き起こ地震なんて聞いたことがない。つまりなにか潜んでいるということだ。

 

 その瞬間、背後に冷たい水が流れたような感覚に襲われて、ゾッとする。


 辺りの暗闇が、単なる光源が無いがために発生した自然現象ではなく、なにか作為的なものがふくまれ、その中にどんな魔物がいてもおかしくないと感じる。簡単に言い換えたらお化けがいるような気がする。


 よし、ここは歌でも歌って気でも紛らわさそう。いや、下手にガラスを破壊した存在に気づかれるような真似をしてはいけない。ここは動かないほうが良いのか、と俺は考えた。

 

 できる限り時間のかからないようにかつ、正確に物事が判断できるように、普段では絶対に使わないであろう脳の部分がフル稼働して最適解を導いた。


 結果として、ここから出ることが先決だという結果に至った。


 俺は歩く。


 しばらく歩いていると何故かベットのように柔らかった地面が、今度はまるで吸盤でもついているかの如く引っ付いてくる。


 もしかして自分は今タコの上を歩いているのではないかという疑問にかられたので、地面を触ってみる。

 

 ブニブニとまるでスライムのような触感で手にセロハンテープのようにくっつく。が、吸盤のようなものはなかった。


 まっ、まあ、ここが巨大生物の上なんて非現実的なことはないよな…………?


 俺は安心して前に進んでいく。


 数十分後。もう1キロは歩いたと思うのに端にはたどり着いていない。


 途中、何度か魚や水生生物を入れられていた水槽が置いてあったを見たので、ここが水族館の類なのでないかという予想が立てられる。


 引き続き出口を目指して歩いていると、音がした。


 これってもしかして、さっきのガラスを壊したやつの音ではないのか。


 などと思って少し身構える。しばらくすると、その音は人間の足音にとても似ている音であることに気づいた。


 化物のものには思えない、不安と眼の前が見えないと言う恐怖によって生み出されるぎこちない自身の足取りに酷似していたからだ。


 真っ暗なのにそのことを思うと不思議と足取りが軽くなるのを感じる。


 そこからはもう、まるで餌で釣った犬の様に走ってその音の下に向かった。


 向かった先にいたのは一人の子供だった。しかも泣きながら怯えて歩いている。


 大丈夫かい?と身振り手振りで伝えてみたがこちらに気づいていないのか、よほど怖いことがさっきあったから泣いているのか。


 それはよくわからない。


 だがこんなまだ小学生、いやもしかしたら年長さんかもしれない。それくらいの年齢の子を置いていくのは良心が許すはずもなく。俺は子供が泣き止むまで待った。

 

 数分くらいすると、泣きつかれてしまったのか泣き止んで体育座りをしだした。


 そこですかさず俺が、大丈夫かい?という主を伝える。


 そうすると子供は俺の方を向いて、話す。

  

「おじさん誰………………もしかして化け物?」


 俺を化け物扱い?自分自身化け物のような顔面をしている自覚はなかったが、もしかしたらこの子供からはそう見えてしまっているのか?


 俺は今何が見えるの?もしかしておじさんが化け物に見えているのかな、とできるだけ優しい口調でゆっくり伝えた。


「ううん。おじさんは見えないよ。でも声がこっちからしたから向いているだけだよ」


 そうなのか、俺は夜目が効いているから子供くらいなら見えるが、この子は見えていないと言うとこはもしかしてこの空間に来てからそんなに時間が経っていないのか?


 俺はここにきてからどれくらい経っているかわかる?などと質問した。


 いや、まだ小学校にも通っていなくて時間の感覚が曖昧そうな子供に時間を尋ねるのは愚策か?


 などと、自分がやってしまった無意味な行為を反省していると

 

「えっとね、周りがずっと暗いから、どれくら時間が経ったのかはわからないんだけど、多分太陽が三回登るくらいの経ったと思うよ」


 と言った後にうーんなどとその情報が誠か考えるような仕草をした。


 やっぱりだ。こんな小さな子供に時間を尋ねるのは愚策だった。余計な時間を使ってしまったかもしれないな。


 俺は子供に余計なことを聞いたと謝罪をして、一緒に外へ出ないかと誘った。


 そうすると、うんと答えたので現在は子供と一緒に出口を探して探索中だ。


 相当夜目が効いてきたのか半径三メートルまで見えるようになった。


 そうして分かったことがある。ここは間違いなく水族館だ。


 だが、通常営業はしておらずまるで廃墟の水族館と言った面持ちだ。数秒おきに自ら来た道と向かう道が変動する魔境でもある。


 正直、こんなところに閉じ込められて無事に脱出できるのか心配だ。それに俺はなにかやり忘れたことがあるような気がして仕方ない。


 しかし、その内容は定かではない。なにかモヤがかかったような、まるで海のそこから記憶を見ているように歪んでうまく思い出せない。

 

「おじさん、もしかしてあれって!」


 そう言って子供が指さしたのは巨大な生物、クジラのようなものが入っている大水槽だ。


 ひっ!と化物の一種を見て恐れ慄きたい気持ちになったが、子供の手前、下手に弱気になって怖がらせるものではないと思ったのでぐっと堪える。


 クジラのような生物の目はぎょろぎょろと一切一定の向きにあうことは滅多にない。しかし、一瞬こちらを見た瞬間まるで故人(とも)にでも会ったような目になったが、それも一瞬だけで後は虚ろな目に変わった。


 そんな、まるで意識を持っているのかと思えるクジラもどきを子供は先程までの恐怖の感情は何だったのかと思えるくらいにキラキラと下目で見ている。


 俺はもう一度、クジラもどきの入っている大水槽を見てみた。そうすると、その生物以外は一切入っておらず、食料になりそうなものもなかった。


 因みにクジラは肉食のマッコウクジラに似ており、とてもこれ以上生きていける環境に思えない。それに日本にこんな大きなクジラを展示している水族館はなかったはずだ。


 それなのにもかかわらず、こんなのがいるってことは人間いや、あれを飼育している存在がいるってことだよな。


 ……もしかしてそいつが、ガラスを壊しているやつなのか?


 俺は憶測に取り憑かれて頭がそれいっぱいになってしまったが、子供の、


「おじさん、危ない!避けて!」


 という声に反射的に反応して大きく横に避ける。


 無事に避けられたらしく、体には一切の怪我がないことを確認した俺は何が起こったのか確認するため元いたところを向く。そこには、クジラもどきが突進してガラスを突き破って力なく倒れていた。


 まるで前に見たサメの骸骨の様に。


 …………どういうことだ?


「おじさん大丈夫!?」


 そういって俺の無事を確認しにきてくれた子供は、俺の方を向いて驚いた。


「おじさん、何で一つの手が魚さんのヒレになっているの?」


 ハッとなった。あまりに急な出来事に反射的に自分の両手を見てみると……………………子供が言っていた様にヒレにはなっておらず、普通の手だった。


 何言っているんだい?俺の手はなんともないよ。と返答した。そうすると子供は不思議そうに、


「でも、ヒレに見えるよ?」


 と答えた。真実は、一つ。つまりどちらかが間違っていてどちらかが正しいのだろう。そう思いながら俺は頭をフル回転させながら子供の方を見る。


 そうすると、子供の顔は魚になっており、目は死んでいて触手のようなひげが生え散らかし、まるでこいなまずを足して2で割ったようなものになっていた。


 ……何で!こうなってるんだ!


 俺はすぐに自分には君が化物になっていると伝えたが、俺が子供の話を一切信じなかったのと同じ様に子供は懐疑的な目を向けてくる。


「おじさん、やっぱり変だよ。ここ。多分ここは見え方を変えてしまう恐ろしいところなんだ」


 馬鹿な。そんな、と俺には本当に子供の顔が変質していると思ったので、顔を触ってみる。


 すると子供の首から、ポキ、ポキと音が鳴り出して。


 左に45度、右に19度曲がって。


 最後は前に128度曲がってポッキリと折れた。


 首はまるで地面に落ちたコインの様にコロコロ転がって俺の足元に着いた。


 え?何でこんなことに。


 そして、抜け殻となった子供の体は力なく倒れ込んで、倒れ込むと床が肉を吸収し、骨となった。


 俺の中にあった子供とはいえ同族と一緒故の集団心理が退散する。


 今あるものはただ一つ。

 


 ここにいた初めの頃に感じたものよりも強大な恐怖だ。



 あっああぁああぁっっっあっっあああっぁ!!!


 俺は、発狂した。


 発狂したと同時に、あたり一面が明るくなり、暗闇がはらんでいた怪奇をさらけ出す。


 そこには、大量の体の一部だけ魚になっている、人形の怪物がいた。


 ここで俺はさらなる発狂をして、顎が外れるような感覚に襲われる。

 

 怪物たちは俺を一目見るなり、まるで獲物が現れた。とでも、言いたげな表情をうかべる。


 俺は、その日常生活では感じることのない、高圧的な態度におそれをなし一目散に逃げた。


 さっきまでは恐怖で下手に前に進むことができなかったが、今はなにか起こるかもしれない、という恐怖よりも怪物に捕らえられた時の恐怖心が上回ったのだ。

 

 あたりは明るかったため、転んだり迷ったりはなかった。


 今まで心のなかにあった、恐怖の水族館のイメージを崩すような外観だったが、今の状況ではちょうどいい。


 しかし、走って十分もすると流石に体力の限界に達して少し立ち止まってしまう。


 後少しで、脱出、できるって言うのに…………。


 光はさして、ついに見つけた俺の希望。今すぐにでも飛び込みたい気持ちで、いっぱいになる。


 なんとしてでも、もう一度動き出さなくてはいけないと、思い息を整え深呼吸しながら、どこまで怪物が迫って来ているか確認すると、不思議なことが起きていた。

 

 追ってきた怪物達は、一斉に、足を止めていたのだ。


 理由はともかく、これはチャンスだと思った俺は、急いで出口まで走った。


 出口まで後、3m、2m、1m!


 と、走っていき、俺は出口をとおった。


 その時には様々な恐怖から解放された達成感と、妙に身体全体を伝う物があるような、異物感を感じた。


 だがしかし、おれは、そんなことより、も、いまかんじているかいかんが、ここちよく、それにみを、まかせてしまった。


 

 

 

――


「お、おじさん。手がもげちゃった!」


 子供は足もとを見て自らの協力者であった人間が変化した怪物を見て怖気づきながら言う。

 

 怪物はいくつもの1つしかない目を虚ろにさせて人間に近しい鳴き声を言う。

 

「や、やったーー!これでこんなところからおさらばだー」

 

 その言葉に子供はまだ正気があるのかと「聞こえてる、どうしちゃったの!おじさん!?」と言って確認してみるが、眼の前にいるのは人間に近しい鳴き声を放つ怪物であって人間ではない。


 なので、虚ろな目で世迷い言を吐くばかりだ。


「なっなっなんで、おじさん。っ!」


 子供は走馬灯として駆け巡った記憶を見て気づいてしまったのだ。


 そもそも最初から協力してくれていたのは普通のおじさんではなく、この化物だったことを。


 そして、怪物は全身にいくつもついている魚頭を開いた。

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