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社畜は現在ミステリー中!!  作者: たぬきち25番
会員制高級旅館殺人事件
9/24

8 探し物(2)




 伊月は、先ほどの人物が妙に引っかかり、眉を寄せていた。


(どこかで、見たことがある……どこで……ああ!! あの人、政治家の奥野!!)


 伊月は、先ほどの男性が、代議士の奥野(おくの)であることに気付いた。イケメン政治家として知られ、女性の支持者がかなり多いと聞く。しかも、声が癒されると評判で、彼の選挙演説は、道行く人々に動画を撮影され、毎回、動画再生回数がかなり多い。


(愛妻家だって話だけど……外でいちゃつくぐらいだから、本当に愛妻家なんだろな~~)


 伊月は、先ほどの2人を思い出して、小さく息を吐いた。


 自分にも、いずれいちゃつくような妻が出来るのだろうか? 幼い頃から、好きな子が出来ても、大抵は、『伊月君を男として見れない』と振られ続けて来た。今だって、ウィッグをつけて、化粧をして、女性の姿をして、上司の恋人役を演じている。


「はぁ~~」


 伊月は、溜息を付きながら、隣に座って、お茶に夢中になっている巧を見た。


 巧みは、社内でもかなりモテるし、社外からも『ぜひ、鳴滝さんにお会いする機会を~~』と、女性に巧に会わせて欲しいと頼まれる。いつも無精ヒゲに、ボサボサ頭で、白衣だと、何も思わないが、こうして、ヒゲを剃り、身なりを整えた巧は、伊月なんかが女装してカモフラージュしなくても、いくらでもパートナーなんて見つかるくらいカッコイイと思う。巧なら、道を歩いただけで、パートナーを見つけることができそうだが、巧は、そうはしない。

 これは宮野のから聞いた話だが、巧はこれまで何度も睡眠薬などを盛られ、女性に襲われそうになったことがあるらしい。

 鳴滝グループ会長の息子というだけでも魅力的だが、巧は顔もよく天才だ。そんな巧の妻の座を手に入れたい野心家な女性は、かなりえげつない手を平気で使ってくるらしい。

 世の中、そんな超肉食系女子の方が少ないと思うが、巧の周りに集まるのは、そういう女性ばかりらしく、巧はトラウマのようになっていて、女性と同じ部屋で二人で過ごす事に恐怖を抱く体質になってしまったらしい。

 その結果、伊月が女性の姿をして、旅館に潜り込むことになってしまった。


(はぁ~~世の中、上手くいかないもんだよな~~)


 伊月が、残念なイケメンである巧を見つめていると、巧が顔を上げて尋ねた。


「どうしたんです? 疲れたとか?」


 伊月は、頬杖を付きながら答えた。


「巧さん、先ほどの、いちゃいちゃご夫婦、いなくなりましたよ。散策行きます?」


 伊月の言葉に巧は、大袈裟に驚いた。


「え? さっきの人たち、夫婦なの?! あのただならぬ空気感でぇ~~? え~~? 俺には夫婦に見えなかったんだけどなぁ……」


「そこに、そんなに食いつきます? まぁ、私も夫婦には見えなかったのですが、知り合いというか……有名な方だったので……」


 巧は「ふぅ~ん」と言いながら、立ち上がった。


「じゃあ、行こうか。お茶もお菓子も美味しかったから、お昼も楽しみだな~~少し運動して、お腹を空かせよう」


 伊月は立ち上がると、ジトリと巧を見ながら言った。


「巧さん……目的、忘れてませんよね? 私たち、遊びに来たわけではないんですけど?!」


 巧は、片目を閉じた後に、困ったように笑った。


「あ~~~わかってる、わかってるって。あはは」


「あやしいな~~」


 こうして、巧と伊月は、散策を再開したのだった。



 ☆==☆==



 巧と散策をしていると、近くに開けた場所を見つけた。これだけ、自然のままの姿を残した場所に不自然なほど、キレイに芝生を敷き詰められて整備した場所があった。少し斜面になっていて、まるで、パラグライダーの練習場のように思えた。


「ここって、冬になったら、スキーが出来そうな場所だね」


 巧が、芝生で整えられた斜面を見ながら言った。


「え? スキー?」


 伊月は、スキーはあまりしないので、思いつきもしなかったが、確かにスキーが出来ると言われてみると、出来そうな気がする。

 ただ、リフトのような物は見当たらない。リフトがなければ、スキーは難しいのではないだろうか? 伊月が考えていると、巧が気楽な様子で言った。


「ここは、私有地だし、スノーモービルで登るのかもね」


「スノーモービル!! その発想はありませんでした」


 伊月は、一般人なので、スノーモービルを持っているのもしれないという考えには至らなかったが、鳴滝グループ会長の息子の巧なら、そういう発想になるのも頷ける。確かにこの辺りは冬は雪で覆われるのだろう。それならば、移動のために、スノーモービルがあってもおかしくないし、スキーをしたい人のために、スキー場を整備していても不思議ではない。


 巧と、伊月は丘の上から、景色を見渡した。旅館や、山々が見渡せて、ロープウェイも見える。本当にここはとてもいい景色だった。ふと、ロープウェイ乗り場から少し上にもここのように芝生のような物が植えられて、整備されている場所を見つけた。


(あそこにも芝生か……)


 伊月が、不思議に思いながら、見ていると巧が、声を上げた。


「あ、これ……キクイモかも」


 整備された場所の反対側には、黄色い花が咲き乱れていた。

 菊芋は、芋の部分は以前、取り寄せたことがあるので、知っていたが、花を見るのは初めてだった。


「へぇ~キクイモって、こんな花が咲くんですね……可愛い花だな……」


 伊月が、花に顔を寄せると、巧が男でも惚れてしまいそうなキレイな笑顔で言った。


「うん。本当に自然な美しさに癒されるよね。まさに可憐で奥ゆかしいってかんじ。伊月さんって、キクイモのようだね」


 伊月はそう言われて、微妙な顔をした。

 ――キクイモのようだね。

 きっとこの世界に、そう言われて喜ぶ人間が、一体、何人いるだろうか?

 女性に全くモテない伊月でも、これだけは断言できる。


「巧さん……それ……。私は、今の風景を見ていますので、いいですが……。絶対に初対面の女性に言わない方がいいですよ……」


「え~~?」


 納得いかない雰囲気の巧を横目に、伊月は、思わず片手で頭を押さえたのだった。













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