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社畜は現在ミステリー中!!  作者: たぬきち25番
会員制高級旅館殺人事件
8/24

7 探し物(1)





 伊月と巧は、旅館の周囲を散策することにした。

 先ほど部屋に行く途中に見えた見事な日本庭園を抜けると、この辺りの植物を活かした小さな庭があり、その奥に遊歩道のような場所を見つけた。

 伊月と巧は、遊歩道を散策することにした。

 遊歩道は、所々、石で作られた階段や、丈夫な手すりも用意してあり、とても立派な作りだった。


「この辺りは、整備された場所のようですね」


 伊月が、遊歩道を歩きながら言った。


「そうだね……これは葛か……」


 巧が紫色の花を見上げながら言った。

 現在は11月なのに、葛の花が咲いていた。


「少し時期が遅いんですね……」


「そうみたいだ」


 巧が頷くと、ピタリと止まって、伊月の前に片手を上げて止まるようにとの仕草をした。


「静かに……」


「え?」


 伊月が声をひそめると、この先の休憩所の奥から男女の声が聞こえた。

 

「ん……はぁ……こんなところじゃなくて……後で部屋に来ればいいでしょ?」


「君だってもうその気だろ……ん……」


(な!! 昼間っから、こんなところで!!)


 伊月は顔を真っ赤にして、呆然と立ち尽くした。どうやら、休憩所の奥では、昼間っから男女が、いかがわしい雰囲気を醸し出している。男女は巧と伊月の存在には全く気づいていないようだった。


「あ~伊月さん。一度、戻ろうか……」


 巧が伊月の耳元で囁くように言った。


「はい」


 さすがの伊月もこれ以上、遊歩道を進んで覗きをする趣味はない。

 仕方なく、巧と伊月は部屋に戻ることにした。遊歩道の入口まで戻ると、巧が、日本庭園横の自然に整えられている庭の東屋を指さした。


「あそこで少し、この辺りの植物でも眺める?」


 あの場所なら、草木を観察できるだろう。部屋に戻っても特にやることもないので、伊月も同意した。


「そう……ですね」


 こうして、伊月と巧は、東屋でこの辺りの植物を観察することにした。

 巧と伊月が東屋に着いて、座ると巧が、一枚の紙を取り出して、伊月に差し出した。

 伊月は、何も言わずに、巧から紙を受け取って、中を確認した。

 

「あ……これ」


 伊月はすぐに、これが巧が伊月に見せてくれた古文書の中身だと理解した。実際に古文書を見たときは、墨で書かれていた上に、くずし字だったので、理解出来なかった。

 だが、これは巧が、あの古文書の内容を、パソコンで打ち直してくれたようだった。


「どんな植物を探せばいいのか、わからないと困るでしょ?」


「そうですね……」


 確かに、闇雲に薬草を探すのは得策ではない。伊月は、真剣に巧から貰った文章を読んだのだった。

 『五更村の陰された里』いきなり具体的な地名が書かれていた。なるほど、村の名前までわかれば、随分と絞られる。それで、巧はここを特定できたというわけだ。

 伊月が、真剣に文書を読んでいると、巧が、突然、誰かに声をかけた。


「こんにちは~~」


 伊月は急いで、文書を巧に買ってもらった、女性が持つような方から下げるタイプの小型のバックに入れた。

 こちらにやって来たのは、京介だった。京介は、お盆を持って、こちらに歩いて来た。

 伊月は、下を向いて、できるだけ目を合わさないようにした。


「お茶でもいかがですか? この辺りの野草をブレンドしたお茶です」


 京介は伊月の様子を気にすることなく、東屋のテーブルにお茶をコトリと置いた。お盆の上には、手作りだと思われる葛を使ったお菓子と、お茶が置かれていた。伊月は、これはもしかして、ウェルカムドリンクだろうか、と思った。


 伊月の代わりに、巧が京介に向かって答えた。


「野草のブレンド茶か……頂きます」


「では、ごゆっくり」


 京介は、お茶を置くと、旅館に戻って行った。

 伊月と、巧は遠慮なく野草のブレンド茶を飲むことにした。


「この爽やかな後口は……ビワの葉か……スギナも入っているな……」


「ドクダミもほのかに感じますね……」


 巧と伊月は、まるでテイスティングをするように、野草茶を飲んだ。


「クセの強い野草をここまで飲みやすくするとは……水か? それとも煮だし方に特徴があるのか?」


 巧は、真剣に考えていた。

 伊月は、思考を始めた天才巧の邪魔をしないように、静かに野草茶を楽しむと、お茶と一緒に添えられていた葛のお菓子を食べた。葛と言えば、夏のお菓子という感じだが、芋と合わせると11月の今の時期にもピッタリのお菓子なっていて、とても美味しいと思えた。


(これは上品で優しい味だなぁ~~いくらでも食べられそうだ)


 伊月が、お菓子に舌鼓を打っていると、遊歩道から、先ほどの男女が戻って来た。伊月は、男性の顔に見覚えがあるように思えた。


 

(あれ、あの人どこかで……)


 男女は、少し奥まっているこちらには目もくれずに、そそくさと旅館に戻って行った。巧はというと、野草茶に夢中になっていたのだった。







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