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社畜は現在ミステリー中!!  作者: たぬきち25番
会員制高級旅館殺人事件
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5 山奥の旅館へ(2)





 ふと前を歩くロボットを見ると、ロボットの頭の部分が光っていた。


「巧さん、ロボットの頭、光ってませんか?」


「ああ、そうですね」


 巧と伊月が、ロボットの頭を見ると、『饒舌モード』『寡黙モード』という切り替えがついていた。そして、今は、『寡黙モード』が点滅していた。


「あ~~もしかして、これって、ロボットが話をしてくれるようになるのかな? 押してみよう」


「え? 勝手にそんなことしていいんですか?」


 伊月は止めたが、巧は、戸惑うことなく『饒舌モード』を押した。するとその途端。


「お客様。本日は、遠路はるばる五更館までお越しくださいまして、誠にありがとうございます」


 さっきまで片言だったロボットが、突然饒舌になったので、驚いてしまった。


「確かに饒舌になったね……」


「そうですね……」


 伊月は、これは饒舌というか、修学旅行のガイドさんのようだと思った。ロボットは、荷物を持って移動しながら、ガラス張りのエレベーターのような中に入った。


「お客様の中で、高所恐怖症、つまり、高いことろが苦手だなぁ~という方はいらっしゃいますか? いらっしゃいましたら、私の目を見ながら片手を上げて下さい」


 伊月と巧は顔を見合わせた。伊月はというと、パラグライダーが趣味というくらいなので、高いところは苦手ではない。むしろ好きなくらいだ。それに、巧の自宅はタワーマンションの最上階とうくらいなので、高い所が苦手というわけではなかった。


「お客様は、高所恐怖症の方はいらっしゃらないようなので、景色を見れるようにいたします。それでは、短いですが、本館まで空の旅をお楽しみ下さい」


 ガクンと、部屋が動き出したかと思うと、どうやらこれは、ロープウェイのようになっているようだった。どうやら、朝日が昇っていたようで、美しい景色が目の前に飛び込んで来た。


「わ……この部屋、ロープウェイだったのか……」


 伊月が、外を見ながら言うと、ロボットがまたしても口を開いた。


「お客様方がお望みでしたら、足元もガラス張りにすることが可能ですが、床面も見えるようにしてほしい場合は、 私の目を見ながら片手を上げて下さい」


 伊月は迷わず手を上げると、ロボットを見た。


「え? 下も見えるようにしちゃうの?」


 戸惑うような巧に、伊月は深く頷きながら答えた。


「はい。床面も見えるようにできるなら、そうしましょう。地形や植生を確認することは、重要なことです」


 伊月の言葉に、巧は困ったように笑いながら言った。


「本当に、伊月さんは、仕事熱心だね」


 巧がそう言うと、ロボットが声を上げた。


「かしこまりました。それでは、床面を見えるようにいたします」


 その途端、床面が透けて、見えるようになった。

 伊月は床面を食い入るように見つめながら思った。


(高低差、500メートル前後と言ったところだろうか……結構あるな。それに、大体、一秒4メートルくらい……所要時間は、15分くらいといったところだろうか……)


 伊月が、ロープウェイに乗りながら考えていると、ロボットが口を開いた。


「こちらのロープウェイは、高低差が、487メートル。目的地までの所要時間は、13分となっております」


 パラグライダーが趣味の伊月の読みはおおむね当たっていた。伊月は、ふと足元に、丸い池のような場所を見つけた。それがなぜか気になった。


「池……」


 思わず呟いた伊月に、巧が尋ねてきた。


「あの池が気になるの?」


 特に何か理由があるわけではないが、これだけ木が生い茂っている場所にぽっかりと開いた池は、なぜかとても気になった。


「そう……ですね」


 伊月が巧の顔を見ながら、言い淀むと巧がロボットに尋ねた。


「君、あの池について何か知らないかな?」


 巧がなんの躊躇もなくロボットに話かけた。ロボットに質問をして答えられるのだろうか?


「池……検索中。少々お待ちください……ロープウェイから見えます池は、江戸時代から、『うつしよ池』と呼ばれている池でございます」


 ロボットはあの池がうつしよ池ということを教えてくれた。


「うつしよ……? 現世という意味だろうか……。へぇ~興味深いな……」

 

 巧の言葉に、伊月が通り過ぎて行く池を見ながら呟くように言った。


「うつしよ池……」


 伊月が下を眺めていると、巧が、伊月に顔を寄せて、耳元で囁くように言った。

 

「あ~伊月さん。言いにくいんだけど……帰りは……床面のガラスは、透けないようにしてもらった方がいいかもしれない」


「え?」


 伊月が、顔を上げて、巧の顔を見ると、巧が困ったように言った。


「下着が見えているようだ」


「な!!」


 伊月は急いで、スカートを押さえた。


 先程、下が見えなかった時は、床面はスリガラスのようになっていて、こちら側が反射することはなかったが、床面を見えるようにすると、朝日の影響で、床面が鏡のように反射して、こちらが見えるようになっていたのだ。

 そのせいで、スカートの中が、床面に映っていた。

 普段なら、別に男の伊月の下着が見えたところで、特に問題はないのだが……今は、女性物のレースのついたボクサーパンツタイプの下着を付けているのだ。 これは、野宮の強いこだわりで、『スカートの中が見えた時のために!!』と、謎のこだわりを見せたことが原因なのだ。まぁ、見た目はともかく、履き心地は、伊月が普段履いている下着よりも断然、いいのだが……。そんな下着を履いているのだ、スカートの中が見えていると言われると隠したいと思うのは、当然のことではないだろうか?

 

 ロボットは、そんな伊月たちの様子は気にすることもなく、饒舌に、ロープウェイについての説明を続けていたのだった。









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