表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜は現在ミステリー中!!  作者: たぬきち25番
会員制高級旅館殺人事件

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/24

11 山奥の旅館の秘密





 部屋の中から露店風呂に向かうと、鉄の混じった独特の匂いがした。

 温泉のお湯も少し黄色味がかかった濁り湯で、風情のある露店風呂だった。

 伊月と巧は、身体を洗うと、お湯に浸かった。


「あ~~~~~気持ちいい~~~」


 巧が上を向いて、大きな声を上げた。

 伊月も巧の気持ちがよくわかる。温泉に入ったのなんて、何年ぶりなのか、もう覚えてもいないが、まるで身体を覆っていた硬い殻が、パリパリと割れていくような解放感を感じた。


「本当に……気持ちいい……」


 伊月と巧が目を閉じていると、外からモーター音が聞こえた。

 伊月は咄嗟に、パラグライダーのモーター音かと思って、空を見上げた。

 すると、巧が呟くように言った。


「あ~~もう、二時か……」


「え?」


 伊月が問いかけると、巧が目を細めて言った。


「ここは、特定の時間になると、地下から水を吸い上げるポンプのモーター音が聞こえるんだ」


「へぇ~。これはポンプのモーター音がだったんですね……」


 伊月の日常にモーター音と言えば、パラグライダーしかない。だから、咄嗟にパラグライダーだと思ったが、どうやらそうではなかったようだ。パラグライダーもこのポンプと同じくらい結構大きな音がする。


 伊月は、巧を見ながら言った。


「巧さんって、ここ初めてじゃないですよね? それに『若返り』のためってどういうことですか?」


 巧は、困ったように笑いながら言った。


「そうだね。幼い頃、母と一緒に来ていたかな。母が、身体のケアをしている間、俺は、裏の森でずっと植物観察してたよ。最低七日間は、ここから出られないからね」



 巧の母ということは、鳴滝グループ会長夫人ということだ。

 どうやら、ここはそんな日本屈指のセレブの定宿らしい。だが、巧の言葉に伊月はひっかりを感じた。


「最低七日間出られないって……どういうことですか?」


 伊月の言葉に、巧は真剣な顔で言った。


「この旅館は、『若返りの宿』と呼ばれていてね……効果を出すためにも、最低7日間は滞在しないといけないんだ」


 伊月は思わず、目を大きく開けた。


「え? じゃあ、最低でも七日間はこの宿に滞在するってことですか?」


「そうなるね」


 ――聞いてない。伊月は、そう思った。だが、こんな高級な旅館に七日など、料金は大丈夫なのだろうか? 伊月は、恐る恐る巧に尋ねた。


「あの……ちなみにこの旅館の料金って……」


 巧は、伊月に近付くと耳元で金額を伝えた。


「は……?」


 伊月は、思わず巧をじっと見つめた。どうやら、ここは、伊月の年収くらいの宿泊料金のようだった。伊月が何も考えることが出来ずに驚いていると、巧が真顔で口を開いた。


「ねぇ、伊月さん。地位に名誉、そして潤沢な資産。人は、それらを手に入れたら、最後には、何を欲しがると思う?」


 伊月は、真剣に考えながら言った。


「……え? 健康?」


 巧は目を細めて言った。


「半分正解」


「……半分?」


 伊月が顔を傾けると、巧が伊月から目を逸らして、空を見上げながら言った。


「そう、人は……過ぎ去った時間を求めるんだ」


「え?」


 伊月は意味がわからなくて、ぼんやりと巧を見たのだった。



 その後、巧は「のぼせたから、先に上がるね~~伊月さんはゆっくりしてて」と言って、部屋に戻った。

 伊月は、一人、露天風呂の中でぼんやりと、空を眺めていた。


(過ぎ去った時間を求めるか……)


 『健康』『若返り』『活力』確かに、それらは、その人なりに、過去には持っていた物かもしれない。

 もしくは……過去のコンプレックスを『健康』『若返り』『活力』を手に入れて乗り越えたいのか……。

 伊月が、露天風呂に浸かりながら、先ほどの巧との話を思い出していると、ずっと聞こえていたモーター音が止まった。


 結構長い時間、モーター音は聞こえていた。

 伊月は、露天風呂から上がると、旅館に用意してあって部屋着を来て、部屋に戻ると、巧がベッドで爆睡していた。

 どうやら、巧はかなり疲れていたようだった。


(あ……巧さん、疲れてたんだ……散策、明日にすればよかったかな……)


 伊月は、そう思いながら、冷蔵庫を開けて水を飲んだ。

 先ほどまで、森を散策して動き回った。昼食は美味しかったし、温泉は気持ちよかった。そう言えば、伊月もここ数日残業続きで寝不足だった。


「ふぁ~~あ」


 伊月も心地よい眠りに誘われて、ベッドに入った。


(少し横になるだけ……)


 そう思いながら、目を閉じたのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ