第五章 契約をめぐる陰謀
町に奇妙な混乱が広がっていた。
「偽の保険証書をつかまされた!」
「ジロウの“保険”は詐欺だ!」
人々の怒号がギルドを揺らす。
ジロウは窓越しに集まる人々を見つめ、額の汗をぬぐった。
(これは……誰かが意図的に“偽物”を流したに違いない)
ギルドの仲間――レム、ユイ、カナが駆け寄る。
「ジロ兄、変な男たちが町の裏路地で紙束を配っていたのを見たよ!」(カナ)
「私は偽契約書の流通経路を調べてみます!」(ユイ)
「疑いはすぐ晴らせるはずです、必ず私が証拠を掴みます」(レム)
三人は手分けして情報を集め、ジロウは本物の契約証書と偽物の違いを人々の前で明確に示すべく準備を始めた。
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――その頃、町の暗がり。
カズマ・ザイトは薄く笑みを浮かべ、手下たちに命じていた。
「火をつけろ――人々の“信用”なんて燃やしてしまえ。ジロウは失墜し、俺が“契約”の覇者となる」
酒場裏の倉庫に火が放たれ、混乱は頂点へ。
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「火事だ!」
「事務所が燃えてる!犯人はまだ中に!」
群衆が叫ぶ中、ジロウはレムと共に倉庫へ駆け込む。
濛々たる煙と熱気の中、複数の黒装束の男たちが証書の束を燃やしていた。
「やめろ――!」
レムが飛び込み、素早い動きで男の一人を蹴り飛ばす。
「あなたたちの罪、見逃せません!」
だが、リーダー格の男は短剣を抜きジロウに迫る。
「ジロ兄、下がって!」
レムは盾となって間に入り、ユイが倉庫の入口から精霊魔法で火を抑え始める。
「ジロウさん、早く証拠を――!」
カナは素早く現れ、男たちの足元をすくう。
ジロウは本物の契約証書を高く掲げて叫ぶ。
「これが“本物”の証だ!この魔法の証書だけが、真の“安心”をもたらす!
偽物には、契約の“光”も発動もない!」
その言葉とともに、ジロウの証書が青白い光を放つ。
炎の中、男たちの持つ偽の証書は何の反応も示さず、人々が息を呑む。
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――その場を闇の中から見つめるカズマの視線。
(……なるほどな。自分の“信用”で戦うつもりか。だが、お前が信じるものほど、打ち砕きたくなるのが俺の性分だ)
ジロウが群衆の前で証書の違いを示し、レムたちが盗賊団を打ち倒す姿。
ユイの精霊たちが火災を鎮め、カナが町の子供たちを安全な場所へ導く。
「みんな、ありがとう――!」
最後の男が倒れると同時に、偽造契約書の束が回収される。
ジロウは疲れ切った笑顔で、群衆に深く頭を下げた。
「この町の“安心”は、みんなの手で守った。
誰かが信じてくれる限り、俺の“保険”は決して消えない」
人々の中に再び小さな希望が灯る。
しかし、その夜の闇、カズマの冷たい声が静かに響いた。
「……これが終わりだと思うなよ。正義も信用も、ひとたび闇に染まれば二度と戻らない。
ジロウ、お前の“理想”が打ち砕かれる瞬間を、俺は必ず見届けてやる」
カズマの陰謀は、まだ止まることなく続いていく。