表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

ユイの葛藤と“精霊加護保険”の奇跡

森は夜の帳に包まれ、月光が枝葉の隙間から静かに降り注いでいた。

ユイは大きな樹の根元で膝を抱え、小さく震えていた。


(もう、何も失いたくない……)


数か月前、彼女の家族と森の仲間たちは、突如現れた魔物の群れによって命を落とした。

ユイはただ泣くことしかできず、何も守れなかった自分を責め続けてきた。

精霊の歌も、森の祝福も、もはや彼女の心には届かなかった。


人を信じることが怖くなった。新たな仲間を作るのも、失うのが怖くて距離を置いてきた。

それでも、森を離れずにいたのは、まだ何かを守りたい――その想いが、消えていなかったからだ。



そんな時、町のギルドで“保険”なるものが流行っていると耳にした。

仲間を守るために“契約”を交わすという奇妙な魔法――

半信半疑でギルドを訪れ、カウンターの向こうに立つジロウを見た瞬間、ユイは少しだけ心が安らぐのを感じた。


彼は、どこか懐かしく温かい目をしていた。

エルフでも人間でもない、不思議な存在感。けれど、その声には嘘がないと直感した。


「私、もう……何も失いたくないの」

そう言った時、ジロウは真剣な顔で頷いてくれた。


「守りたいものがある人のための“保険”です。誓約してくれますか?」


迷いながらも、ユイは震える指でジロウの差し出した契約証書に触れた。

その瞬間、温かな風が頬をなで、指先に精霊の光が灯る。

《精霊加護保険》――それは森の精霊たちが彼女の願いに応え、森の守り手としての力を再び与えてくれる奇跡の契約だった。



数日後、魔物の群れが再び森に現れた。

恐怖に足がすくむユイの背中を、ふわりと精霊たちのささやきが押す。


(大丈夫――あなたは守られている)


ユイは恐る恐る詠唱を始めた。契約証書が光り、森中の精霊がユイの歌に呼応して現れる。

無数の光が森を包み、魔物たちの進行を妨げた。

仲間たちも無事に救われ、森は再び静けさを取り戻した。


(本当に、守れたんだ……)


ユイは涙を流しながら、何度も何度も精霊に、そしてジロウに感謝した。



ギルドへ戻ると、ジロウは変わらぬ穏やかな笑顔で迎えてくれた。

「おかえり、ユイ」


その一言が、ユイの胸にやさしく染み渡る。


(この人なら、信じてもいい……

 この人のそばにいれば、きっとまた笑顔を取り戻せる)


ジロウに救われたという想いは、やがて静かな憧れと恋慕に変わっていった。

彼の力になりたい、もっとそばにいたい――

ユイはそっと、ジロウの背中を見つめて微笑んだ。


それは、彼女が長い時を経て初めて抱いた“希望”の微笑みだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ