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レムのオーク討伐 冒険と“安心”のはじまり

森の奥に、湿った風が吹いている。

レムは小さく息を吐き、己の鼓動が少しだけ速くなっているのを自覚した。


(初めての“保険”契約……本当に、信じていいのか?)


ギルドで噂の的となっている“ジロウ”という商人。

彼が差し出した光る契約証書と、あの穏やかな笑顔。

それでも、疑う気持ちが完全に消えたわけではなかった。


「……レム、大丈夫か?」


同じ討伐隊の仲間が声をかけてくる。

頷き返し、両手にしっかりと武器を握る。今日は、村の外れで暴れるオークを討伐する任務。

命がけの冒険に、“保険”なんて、どこまで役に立つのだろう。


木々の間を縫って進むうち、オークの咆哮が響いた。

大きな影が跳ねる。空気が一気に張り詰める。


「来るぞ――!」


仲間の一人が、体当たりをまともに受けて吹き飛ばされた。

刹那、恐怖が身体を貫く。

(……ダメだ、間に合わない!)


だが、次の瞬間――

仲間の体を包むように、淡い光が舞い降りた。

まるで見えない盾のように、傷口が塞がっていくのがわかる。

レムの胸元にも温かな光が灯り、全身に柔らかな力が満ちていく。


「え……?」


仲間の顔が驚きに歪み、すぐに安堵の笑みへと変わった。

自分の手足も、さっきまで感じていた震えや痛みが薄れていく。


(これが……“保険”?)


現実離れした奇跡のような安心感。

冷たく張り詰めていた心が、ふっとほどけていく。


「大丈夫か、レム!」

「……うん。わたし、まだ――戦える!」


武器を握り直す。目の奥に、知らず光が灯っていた。


討伐後、森の出口で仲間たちと息をつく。

一人が呟く。


「……まさか、命の保険なんて本当に効くとはな」


レムは無意識に胸元の契約証書を指で撫でる。

温もりが、今も確かに残っている。


(――ジロウ。あなたの言葉、信じてよかった)


ギルドに戻った時、レムはいつもよりほんの少しだけ声が大きくなっていた。


「ありがとう。……その、助かった」


照れくさくて、うまく顔を上げられなかった。

だけど、心の奥にはずっとなかった“安心”が、小さな灯火のように輝き続けていた。

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