決
「……見事だ、少年よ」
男は傷だらけ、血塗れとなった服を脱ぎ捨て、刃を構え直した。
「今更だが名乗っておこう。我が名はイドラ。世界の真実を求道するものだ」
「世界の真実?」
「そうさ。この世界は歪んでいる。それを歪ませているのがソアの眷属でありその呪われた武具だ。だが貴様は違う。貴様の魂は穢れてはいない。何故だ?」
ゾードは答えない。
否、答えを知らないのだ。
「我々は魔物か?否、断じて否だ。貴様らだ。貴様らこそが世界を歪める魔物なのだ。我々はそれを正しているに過ぎぬ。だが……」
イドラは続ける。
「貴様は違う。まだ貴様は魔物になりきってはいない。ゾードといったな。そなた、我が同志となれ。そして奴ら魔物を滅ぼさぬか?」
「何を言っているんだよ、一体っ」
「恐らく貴様は幼くして魔の力から守られてきた。だから魔物にならなかった。この歪められた世界に染まることなく生きてきたのだ。故に呪いの武器にも飲まれなかった。違うか?」
「それは……」
「ソアとその信徒こそ魔物だ。ゾードよ、我が同志となれ。そして、魔を滅ぼす勇者になるのだ」
勇者。
魔を滅ぼす英雄。
決して憧れたことがないではない。
だが、それはこんな形ではなかった。
「お前の言ってることが正しいのかどうか。僕にはわからない。でも、僕はお前の仲間にはなれないよ」
「なら……残念だが消えてもらう」
イドラは腕に力を込めた。
黒い炎が吹き上がり、刃に絡みついた。
「いくぞ。魔にあって魔に染まらなかったものよ。地獄から救世を見届けろ」
ゾードは剣を構えた。
すると黒い光が走り、やがて光は収束して剣となった。
「断る。お前が言ってることがどうかは知らない。僕はただ、僕を信じ愛してくれたものを信じるだけだ。」
二つの黒い光が一瞬重なる。
そして……!
「消えよっ……!」
イドラの刃が叩きつけられた。
だがゾードは光剣を突き出し、耐える。
「ああああっ……!」
ゾードは踏み込み、刃を翻した。
イドラの剣が根本から離れ、そして宙を舞った。
刹那。
ゾードの剣がイドラの心臓を貫いた。
同じくして、イドラの剣が大地を貫いた。
「……イドラ。僕の……勝ちだ」
ゾードは剣を引き抜く。
イドラの体から血がとめどなく流れ出した。
もう助からないだろう、とゾードは思った。
「ああ。ゾード。魔物の勇者よ。そなたに倒されて私は幸せだったぞ。そして……忠告だ」
「何だ?」
「そなたはこれから悍ましいものをみるだろう。まだ遅くはない。早く……ぐはっ」
イドラは事切れた。
「か、勝った。そうだ、みんなを……」
ゾードは村人達を起こす。
エンヴィルを、グレシアを。
だが、不思議と彼らの目は険しい。
「ど、どうしたのみんな?」
訝しむゾードに、エンヴィルは怒鳴る。
「どうした、じゃねぇよ。何だこいつは」
「エンヴィル? どうしたの。僕だよ、ゾードだよ」
「魂無し野郎だぁ。てめえがかよ。てめえ、ついにおかしくなったか?」
エンヴィルはソウルを構えた。
慌てるゾード。
「あなたがゾードな訳ないわ。だって」
グレシアもソウルを構える。
鏡のような刃には、青い肌をした、耳の長い人物……イドラに似た男がいた。
「あなた、どうみても……魔物じゃないのよっ!」
初めて投稿してみました。
書きなぐりでしかありませんが、誰かの目に留まったなら幸いです。