EP:5 ザックの目的
ザック、ブラッド、ダリアとの三人の会話。
「ザック、あんた、まだあのこと気にしてるの?」
「ダリアのとこの隊長を見たときに、感じたんだ。俺は絶対、この人に会ったことがあるって。それが、おれの直感だけだよ。でも知りたいんだ。」
「直感って何よ?確証はないの?もう忘れなさいよ。あのことは。何の手がかりもないのよ。ブラッド、あんたからも言いなさいよ。」
「俺は気になるなら、追い求めることも大切だと思うぜ。ただ、バトラー隊長という確証はないんだろ?ザックよ。」
「は?追い求めるって何よ?手がかりも何もないのよ。」
ダリアは激しく反論する。
「ああ、無いよ。無いけど・・・・・。この人なら何か知っているかもしれないって。そう直感したんだ。ダリア、お前には迷惑かけねえよ。」
「直感って何よ。なんの根拠も無しに私たちみたいな新人が隊長クラスに気安く話しかけるなんて失礼よ。バトラー隊長は各隊長の中でもトップクラスよ。もうすでに迷惑なのよ!」
ダリアはイライラしながらも続ける。
「なんで、そんなに拘るのよ。今はこうして国の為に頑張っている。それでいいじゃない。過去に囚われないでよ。」
ダリアは怒りながらもどこか切なげな表情で訴えてくる。
「自分の過去は何もつながらないけど。俺は直感しているんだ。なあ、協力してくれよ。お前たちくらいしかいないんだ。」
「協力って言ったって・・・。」
ダリアは困惑している。
「俺たちにできることなんて限られてるだろう。」
ブラッドもお手上げといったポーズで返事する。
「そうよ、だいたい手がかりが無さすぎるのよ。あんたの記憶しかないじゃない。」
ダリアの言葉が重く圧し掛かる。しかし自分の感情は抑えられるわけがない。
3人の長い沈黙が続く。
☾☾☾
「それでも俺は10年前に出ていった兄貴を探している。ある朝、突然出て行ってしまったんだ。あの日掛けられた最後の言葉が忘れられないんだ。」
ザックの兄貴(正確には義理の兄)は15年前、国務庁に入庁したが10年前、世界評議会直轄任務中に行方不明になった。評議会の捜索は5年で打ち切られた。そんなこと納得できるわけない。
「とはいえ、10年間手紙すら届かないんだろ。」
「ああ、でも兄貴は生きているさ。必ず何か目的があると思うんだ。」
こんなことを話せるのはこの二人とうちのじいさんだけだ。兄貴探しはじいさんにも止められている。
「ダリア、もういいか。みんな待たせているし。」
小声で、ブラッドが続ける。
「お前があいつを気にしているのはよくわかる。俺の方からも探りいれてやるよ!」
「もう、バカじゃないの。そんなんじゃないから。ただ、私たちに迷惑かけないでよね。うちの隊長はエリート中のエリートなんだから。じゃあ。」
ダリアは走り去ってしまった。
「何、あいつ怒ってんだよ。難しいな~女は。」
「おまえ、自分のこともいいが、ダリアのことも理解してやれよ。」
「・・・。何の話だよ?」
「もう、ザックのバカ。あんたが気にしなくてもこっちが気になるんだよ。」
ダリアは権威の間の入り口の陰でたたずんでいた。
☽☽☽
「なあ、ところで何の話だったんだ、あの娘とは。」
サドラーズが楽しそうに聞いてくる。
「まあ、大したことないっすよ。ちょっと小言言われた感じっすかね。」
「まあ、仲がいいってのは大切なことだよ。あいつもお前たちが心配で話に来たんだろ。詮索する気はないが、いつか話せるときに聞かせてほしい。俺たちは仲間だろ、な。」
サドラーズはさすがみんなをまとめる隊長といった感じだ。すべて俺たちのことなんかお見通しなのかもしれない。
「はい・・・・・ありがとうございます。」
「まあいいさ、みんなで何か食べてから帰るか。」
楽しそうに肩を組んでくるブラッド。シェリル、アリアも何とも言えない表情でこちらを見ている。
サドラーズに促され、俺たちはここ、パシフィスで食事をして帰ることにした。
こうして世界評議会が組織している国務庁に入り、初めての建国祭を終えた。いろいろあり、消化不良なところもあったが、あの人に近づく、今は手掛かりがそれしかない。
何にしてもこの仕事を熟していけば、少しずつ近づけるはずだ。
今回でザックの目的が明らかにされました。
彼は目的のために世界の真理に近づいていくことになります。