EP:1 入庁 ザック・マーニ
本編の始まりです。
ぜひよろしくお願い致します。
「おーーい!早く起きろ!」
下から喧しい声がする。
「わっかたよ!うるせーな、今降りるよ!」
俺の名前はザック・マーニ。4歳のころ拾われた、孤児の一人だ。
心優しく、正義感が強く、少し口うるさい、じいさんに育てられたわけだ。
自分を我が子のように面倒見てくれてここまで育ててくれて感謝している・・・と言いたいところだが、この爺さん、腕っぷしが強くそれでいて頭もよい。何一つ勝てるところがなかった。そんなじいさんに幼少のころからずっと言われてきたことがある。
一つは国務庁国防省に入り、国を守る一員になること。二つ目は過去に囚われず、失敗を恐れず生きていくこと。この二つをよく夕飯の時に聞かされていた。
もうじいさんと長く暮らしているし今更、親兄弟のことなど気にならないが、知りたくないかと言われればそんなことはない。
しかし、今のこの世界で西からの侵攻により命を落とすことはよくあることだ。周りにもたくさんいる。今、自分の人生を生き抜くことが大切だと教育されてきた。
でも・・・・。一つだけ気になるのは・・・。何もなければそれでいい。いや、それがいいんだ。
この国エンバーは決して豊かな国ではない。だからこそ自分の力を国民の為に使ってほしい。いろんな意味で。そんなこんなで、じいさんに幼少のころから英才教育を受け、12歳から3年間、評議会が設立した学院に通い、戦術や世界情勢の教育を受けてきた。そこでこの世界のことを多く学んだ。
今、世界が抱える問題、西方大陸からの侵攻。100年前、西方大陸との大きな戦争が起こった。この時、この勢力に対抗すべく組織された“世界評議会”は国政安定、国民安全のため編成された。また、30年前に起こった西方大陸でのある事件。
西方大陸にはいったい何があるというのか。世界評議会は西方大陸を30年前より爆心地として封鎖していた。封鎖されているはずの西側からの侵攻は止まらない。まだ世界は安定した平和を手に入れていない。だからこそ、俺はこのエンバーを守りたい。エンバーは加盟国の一国だ。ちなみに今日はそのエンバ―国務庁への入庁の日だ。採用は国防省だ。
「12歳から3年間学んだことをこれからは世のためにな。」
俺は12歳に評議会が設立した学院に入り、3年間学んできた。そもそも学院に入るにも資質試験がある。そこで選抜されれば、各国の国務省の幹部候補として教育される。しかし幹部候補生として送り出されるのは一握りの卒業生だ。そこで振り落とされれば幹部にはなれない厳しい世界だ。採用は適性に応じて配属される。
「わかったよ、じいちゃん。まあ、頑張ってくるわ。じゃあ、行ってくる!」
「くれぐれも気をつけてな。まあ、お前なら大丈夫だろが・・・。」
エンバーの国務庁は国の中心部にある。歩いて大した距離でもない。歩いて改めてこの国の街並み、行きかう人々を見る。このゆったりとした国民性が好きだ。ここを守るために自分の力を使えることは誇らしいじゃないか。そんな道すがら、明らかに異常なエネルギー反応を感じる。
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ———」
後方から聞こえる悲鳴に瞬時に反応する。
助けなくては。
ちょっとまて。
今日が入庁初日とはいえ、自分は何者でもない、まだ一般市民だ。勝手に動いていいのか?
助けを呼びに行くべきなのか。そんなこと考えている時間などない。
聞こえる悲鳴に体が細胞レベルで勝手に反応し、走り出す。母親と子供たちが、逃げている。後方から追いかけている者がいる。こいつが俺の国エンバーを脅かしている西方大陸からの侵攻者。
初めて目にする対象者は意外にも普通の人型だ。白く光るエネルギーを纏っている。顔はフードを被り見えないが若い男性のように見える。対象と間合いを詰め、目の前に立つ。
正直、初めての実戦で身震いがする。でも俺だって学院で教育されてきたんだ。やれるはず。
対象との攻防戦が始まる。相手も戦闘態勢に入り、引く気はなさそうだ。こちらから、仕掛ける。足を踏み込み、一気に間合いを詰め、攻撃に入る。1発2発と交わされるも、手数を入れていく。
相手はさすがに戦い慣れている。早く重い攻撃を何発か受けてしまうが十分に対応できる。
冷静になれと己に言い聞かせる。相手の動きを冷静に見つつ、こちらも相手に攻撃していく。反撃の狼煙を上げようとしたその時。
「誰か———、助けてぇ———。」
背後から子供の悲鳴が聞こえる。まずい。対象者はもう一人いたのか。助けに入らないと。
子供の元に行き、対象者へ蹴りを入れる。対象者が体制を崩しているうちに助けに入る。小さな体を抱き、避難しようとした。
その時、背筋が凍るほどの恐ろしい高エネルギー反応。俺の前に立ちはだかる。
「よーし、よく頑張ってくれた。あとは俺たちに任せろ。」男性が言う。
「邪魔をせず子供と退避していろ。」女性が言う。
もう見なくてもわかる、この強さ。じいさんに教育され、学院で学び、実力が上がることで感じるこの人たちが自分よりもはるかに強いという現実。
男性のほうが、戦闘態勢に入る。物凄いエネルギー反応に気を抜くと立ってもいられない。圧倒される対象者。これが国防省の力なのか。
それは目で追うことすらできなった。一瞬にして対象を戦闘不能にしてしまった。
その時だった。戦闘に見とれていたことで子供から目を離していた。子供は自分の元を離れ、母親の元に走り出していた。
戦闘不能にされたはずの一人の対象者は短剣を子供に向かって投げる。まずい。そう思った瞬間だった。自分の体から溢れ出るエネルギー。すでに自我の境界を越え、自分の意志であるかどうかもわからないほどの意識。そこで体にギアを入れ、子供に向かい走り出し、短剣と子供の間に入った。
気が付くと子供は母親に抱かれていた。助かったんだ。短剣は消えてなくなっていた。対象は最後の力を使ったのか、もう動く気配はなかった。それを確認した瞬間、一気に力が抜けた。
助けに来てくれた男性と女性は何か二人で話をしていた。そして俺に近づき、声をかけてくる。
「着任前からご苦労だったな。エンバー国民を助けてくれてありがとう。これが俺たちの仕事だ。ようこそ、エンバー国務庁へ。歓迎する、ザック・マーニ。」
この人が俺の上官となるサドラーズ隊長だ。強く誠実な人間だ。
このまま、隊長たちに引き連れられて国務庁へ向かった。
「隊長、・・・。」
「ああ、間違いない。これからだがな、大変なのは。あれが悪魔の力だ。」
女性がサドラーズ隊長と話をしていたが今はどうでもいい。