第一章 奇妙な違和感
この物語は、“存在”とは何か、“記憶”とは何かをテーマにした不思議な物語です。
日常の中でふと感じる違和感、確かにあったはずのものが消えてしまう恐怖。そんな感覚を抱いたことはありませんか?もしも、あなたの大切な思い出が少しずつ消えていったら?そして、それを覚えているのがあなただけだったとしたら?
『消えた願いの街』は、そんな疑問から生まれた物語です。
一人の少年が、静かな島で体験する”違和感”。
それがやがて、島そのものの存在すら揺るがすような真実へとつながっていきます。
もし、自分の記憶と世界の在り方が食い違ったとき――あなたは、自分の記憶を信じられますか?
俺はこの島で生まれ育った。両親はいないが、妹とおじさんと三人で暮らしている。島は都会と違って静かで、どこか懐かしい雰囲気を持っていた。住民たちも昔からの知り合いばかりで、何の変哲もない平和な日々が続いている。
……はずだった。
学校から帰ると、妹がリビングのソファに座ってテレビを見ていた。ふと、その隣にいつも置いてあるはずのぬいぐるみがないことに気づく。
「あれ? お前のクマのぬいぐるみは?」
何気なく聞いたつもりだった。けれど、妹の反応は意外なものだった。
「ぬいぐるみ? 何それ?」
俺は思わず言葉に詰まる。
「……ほら、昔、俺が誕生日に買ってやったやつ」
思い出せる。あの日、俺は小遣いを貯めて、小さなクマのぬいぐるみを買った。妹はすごく喜んで、それからずっと大事にしていた。出かけるときも抱えていたし、寝るときも手放さなかった。
なのに。
「兄ちゃん、何言ってんの? そんなの最初から持ってないよ」
笑いながら言う妹の顔に、冗談の気配はなかった。本気で、そんなもの知らないと言っている。
そんなはずはない。確かにあった。
だってあれは――俺が誕生日に買ってやったぬいぐるみだから。
俺は慌てて部屋の中を探し始める。ソファの下、棚の隙間、押し入れ――どこを見ても、あのクマのぬいぐるみはない。
そして気づく。写真にも、残っていないことに。
昔撮ったはずの妹の誕生日の写真。プレゼントを抱えて笑っている姿があったはずなのに。
アルバムをめくっても、その写真はどこにもなかった。
まるで、最初からそんなもの存在しなかったかのように。
俺は頭を抱えた。
――俺の記憶が間違っているのか? それとも……?
それがすべての始まりだった。
確かにあったはずのものが、まるで最初から存在しなかったかのように消えていく――。
妹のぬいぐるみが消えた日から、主人公の世界は静かに、しかし確実に変わり始めていた。
消えていくのは物だけではない。
記憶、人、そして――。
違和感を抱く者は他にもいるのか?
この現象の正体とは何なのか?
答えを求め、主人公は”消失”の謎に迫っていく。