無償の愛
「……わかりました……」
「ありがとうございます」そしてウィズは頭を下げる。しかしそこで終わるはずがなかった。ファルコ伯爵は納得してなかったのだ。「お前!本当に結婚する気なのか!?例え戦場では、英雄でも死ねば終わりなのだぞ!」怒り出したファルコ伯爵を見てアリエルは悲しそうな顔をする。
「大丈夫です。私は死にませんから」ウィズは笑顔で答えると、ファルコ伯爵はまたウィズを睨みつけてきた。「もしもの時は私が盾になってでもお守りしますわ!」アリエルが言ってくれたので、ウィズは思わず笑みが溢れてしまう。
「ふん!笑いやがって……そんなに死にたいなら勝手に死ね!!」ファルコ伯爵の言葉には何も言い返せなかった。ウィズは黙って俯く事しかできなかった。そのまま沈黙が流れる中、ドアが開きクレアとビオーネが入ってきた。「クレア様、ビオーネ様こちらへ……」ローレルがソファーへ座るように促した。二人も席に着くと、ファルコ伯爵はまた喋り始めた。「だいたいお前は!アリエルとは釣り合わんのだ!本当なら家すら継ぐ資格がなかった成り上がりだぞ!!」
「兄様!!無礼でしょ!」アリエルの言葉でファルコ伯爵は黙り込んだ。しかし表情はさらに怒りに満ちていくのがわかったのでウィズは恐る恐る声をかけた。「ウィズは……自分の力で家も爵位も手に入れました……現ウィシュターニア公爵です。それを否定するのは誰も許しません……」
「私は許さんぞ!!姉君であるエミリア公女の威光があったからだ!」ファルコ伯爵が机を叩いて立ち上がったので、俺は止めようとしたが、その前にビオーネがファルコ伯爵の前に立った。
「おじさん怒っちゃダメ!」ビオーネが鋭い目つきで睨むと、ファルコ伯爵は気圧されたように少し後ずさりした。そして何か言おうとしていたが、結局何も言わずにまた席に座った。するとビオーネはアリエルに近づいて行った。
「お姉ちゃん……」「どうしたの?ビオーネ?」アリエルが心配そうに声をかけると、ビオーネは突然抱きついて泣き始めた。「おじさん……怒ってるの?」それを聞いたアリエルは、優しく微笑みながらビオーネの頭を撫でた。「泣かないでいいのよ」その言葉を聞いたビオーネはさらに泣いてしまう。そしてしばらく泣き続けていたのでウィズは話しかける事ができなかった。しばらくして落ち着いたのか、ようやく顔を上げてくれたので安心すると、今度はビオーネが口を開く。「おじさんは、お姉ちゃんが嫌いなの?」
「……嫌いではないさ……」ファルコ伯爵はぶっきらぼうに言い放った。「じゃあ好き?」それを聞いたファルコ伯爵は少し怒った口調で答える。「す、好きだとも!」それを聞いたビオーネは嬉しそうな表情を浮かべた。「じゃあ仲良くできるでしょ」
「……無理だ」ファルコ伯爵は苦虫を嚙み潰したような顔になり吐き捨てるように言った。それを聞いたビオーネは再び悲しそうな顔になるが、それでも気を取り直したように続けた。「おじさん……なんで嫌いなのに無理して仲良くするの?」
「……貴族とはそういうものなのだ……」ファルコ伯爵はどこか辛そうに答えた。それを聞いたビオーネはアリエルから離れて、今度はファルコ伯爵に抱きついた。「おじさん……お姉ちゃんが嫌いならそれでいいよ……でも……私はおじさんの事好きだよ!だっておじさんは優しいもん!!」そしてファルコ伯爵は戸惑っていたが、すぐにまた険しい表情に戻ってしまった。「ビオーネ……私はお前が羨ましいよ」ファルコ伯爵が絞り出すようにそう言ったので、ウィズは少し驚いてしまった。しかしファルコ伯爵はそのまま黙り込んでしまったので、結局何も言えないまま解散となった。
「今日はすまなかったな……」帰り道でファルコ伯爵がウィズに謝罪の言葉を述べた。ウィズはただ首を横に振って返事をした。そのまま無言で歩いていたのだが、しばらく経ってからようやく口を開いた。「その……なんだ……ウィシュターニア公いや、ウィズ……妹をアリエルを……」そして一度深呼吸をしてから口を開いた。「頼む……アリエルを幸せにしてやってくれ……」ウィズは驚いてしまった。まさかそんな事を言われるとは思わなかったからだ。でもその真剣な眼差しからは、嘘偽りのない思いを感じたので、ウィズは力強く返事をした。
「はい!必ず幸せにします!」それを聞いたファルコ伯爵は安堵したような笑みを浮かべていた。その表情を見た時、この人は本当に妹の事を大切に思っているのだと確信したのだった。帰りの馬車の中「お兄様が、あんなに怒るなんて初めてだったわ」アリエルが疲れて眠っているビオーネを撫でながら呟いた。
「私もだよ。まさかファルコ伯爵にあんなに罵られるとは正直驚きだ……」「アリエルは、皆にお兄様に愛されているのね」クレアがニッコリと微笑む。「うん……私も兄様みたいになれるかな?」ウィズはアリエルを抱き寄せる。「ああ。なれるさ」アリエルとウィズは見つめ合う。そしてクレアが、咳払いを須ると、我に返って赤面した。
4人は中将邸に戻りファルコ伯爵が、用意した馬車は、引き上げるが何故か護衛の騎士だけが残っていた。
「そういえば、貴女は……」ファルコ伯爵があとで紹介すると言っていたが、色々あってまだお互いにあいさつもしていなかったことにウィズは、気が付く。「私は、ファルコ伯爵の娘のヴィクトリア・バルベルデと申します。これからよろしくお願いします!」ウィズはなんの事かと頭を傾げる。クレアもわからないようだった。
「それは、どういう意味でしょうか?」ヴィクトリアは、敬礼をする。「今日よりウィシュターニア公様にお仕いすることになりました!」
ウィズはため息を吐く。そして叫んだ。「聞いてない!!!」




