心を惑わす鏡
囚人達とともに脱獄した帝国の一行とアトランティスの宰相ミカヅキは、とにかく走っていた。「一応聞きますけど、何か目的があって走っているのですよね?」先頭を走るミカヅキにウィズが尋ねる。
「もちろんです。スイメイ大臣が、いるのは多分……このアトランティス城の鏡の間です」「何ですかその鏡の間って」今度はアリエルが尋ねる。「一言で言えばこの国の秘宝の1つ『魔幻鏡』がある部屋です。その昔、アトランティスの神々が我ら民に与えたとされる鏡です」
「ますますわからんな」「その鏡は、映した人間の欲望を見せると言い伝えられています」「それだけですか?」メアが聞く。「いえ……その名の通り……魔に心を売り幻を見せその代償に……その者は死に至る」
「よくも、そんな危ない物を秘宝に……」メアが呟く。「はい……だから、その鏡は厳重に管理され普段は誰も入ることはありません。ですが、今スイメイはその鏡の前で何やら邪悪な儀式を執り行うつもりのようです」
「その鏡に一体何が映っているのですか?」今度はウィズが聞く。
「……わかりません、私は少し覗いたことがあるだけでなので……」ミカヅキが答える。
「多分……それは邪神に関わるものだと思います」後ろの方からスズの声がする。
「邪神……?」「ええ、かつてのアトランティスには海を支配している凶悪な邪神がいて、民はその邪神を信仰していました。スイメイ大臣が言っていたアトランティスの神です」
「なるほど……それが今、復活しかけていると……」「多分そうです。スイメイ大臣は心を惑わされている」
「でもどうしてスイメイ大臣はそんなことをしようとしているのですか?」アリエルが聞く。
「わかりません……」ミカヅキが答える。
「まぁ行ってみればわかるってことでしょう!まずはそこに向かうのです」ウィズが言う。
そして一行は走った。
ミカヅキは広間の前まで来ると足を止める。
「ここが、鏡の間?」アリエルが聞く。「そうです……」
そしてミカヅキはドアを開け、中に入る。それに続く一行。
中には祭壇のようなものがあり、その真ん中に台に乗せられた巨大な鏡があった。そしてスイメイ大臣がその前に立っている。
「スイメイ大臣!あなた一体何をしているのですか!」とミカヅキが言う。
スイメイはゆっくりと振り返る。その顔には不気味な笑みが浮かんでいる。
「おお、これはこれは……。皆さんお揃いで」
「スイメイ!今すぐ儀式をやめなさい!」ミカヅキが言う。「それは無理ですな」
「なぜ?」スイメイが答える。
「もう……遅いですから」そして鏡の方を見る。
その時だった。突然まばゆい光が辺りを包み込み、部屋の中に巨大な影が映ったかと思うと、次にはその影から黒い霧のようなものが噴き出す。そしてその霧は鏡に吸い込まれるかのように消えていった。
アリエルはその様子を呆然と見つめていた。
「一体何が……」ミカヅキが言う。
スイメイは高笑いをする。「ふははは!ついに復活させましたぞ!我が邪神を!」
「あれが、邪神……なんですか?」スズがウィズに聞く。「わかりませんが、何か禍々しい気配は感じます」
そして鏡の中から巨大な腕が伸びたかと思うとスイメイを捕らえた。そしてその腕にスイメイを握りつぶそうと力が込められていく。
「ぐわぁぁぁぁあ!」絶叫を上げながら苦しむ。そして、スイメイは吸収される。「スイメイ!」ミカヅキが叫ぶ。
「このままでは、この国は……」ミカヅキが言う。
その声を聞いているのかいないのか、邪神は鏡の中から上半身を出したかと思うと今度は完全に鏡の外に這い出て来た。巨大な体と羽を持つそれはまさに異形の存在だった。そして邪神はその大きな口から音のない咆哮を放つ。その衝撃だけで部屋が大きく揺れた気がした。
「くっ!どうすれば!」とウィズが叫ぶ。衝撃に部屋の天井が崩れ落ちる。
「きゃあ!」悲鳴を上げてうずくまるアリエル。
ミカヅキは急いで皆を安全なところに誘導する。「とりあえず、ここから逃げましょう!」ミカヅキが言う。「ウィズ殿!あの鏡を何とかして割ってください!」
「わかりましたよ」ウィズは頷くとその異形の邪神に向かって駆けだしていった。
だが、邪神はその巨体からは想像もつかないほどの素早さで動くと、一瞬にして距離を詰めるとその手から黒い稲妻のような光を放った。それがウィズの体を貫く。
「ぐわあああああっ!!」絶叫を上げながらその場に倒れ込むウィズ。そこに追い打ちをかけるかのように次々と攻撃を繰り出す。
「このままじゃ、兄さんが死んでしまいます!」とメアが言う。
「でも、私達には何も……」ミカヅキが言う。
そして邪神は手を上にかざすと、巨大な黒球がそこに現れる。そしてそれをゆっくりと握りつぶすかのように力を込めていく。その度にすさまじい衝撃波が発生し、部屋の中のものが吹き飛んでいく。そしてその手が振り下ろされる瞬間……「鏡よ!割れろ!」ミカヅキが叫ぶと同時に邪神の手から放たれたエネルギーの塊は、大きな音と共に鏡にぶつかった。「やったか!」ミカヅキが叫ぶ。
だが、邪神の放ったそのエネルギーは鏡から漏れ出す光の壁に阻まれてしまった。「そんな……」ミカヅキが絶望の表情を見せる。
邪神は怒り狂っているかのように暴れまわると、再び手を上にかざすと黒い球体を作り出す。そしてそれを大きく膨らませると一気に解き放つように叩きつけてきた。それは部屋の中を破壊しつくすと、壁に激突すると凄まじい音を立てて爆発した。部屋の中にいた者達はその衝撃で吹き飛ばされる。ミカヅキは壁に叩きつけられてその場に倒れ込んだ。
邪神はそれを気にする様子もなく暴れ続けていた。そして今度は鏡に光線を放つ。鏡の表面に亀裂が入ったかと思うと粉々に砕け散ってしまった。「あ……ああ……」ミカヅキが絶望の表情を浮かべるとその場に崩れ落ちる。「まずい……このままだとこの国が……」そう呟くミカヅキだったが、もはやどうすることもできなかった。
そんな時、目の前に人影が現れる。「天地統べる者即ち……【天地人】」それは剣を構えたウィズだった。




