あなたの帰りを待つ
軍事国家グラディウス帝国の【四公】ウィシュターニア公、ウィズ・アルベルトの妻であるクレアは、浮かない顔をして、窓の外を見ていた。ここは、クレアの実家であるフェルナンテ侯爵家の屋敷である。「大公殿が心配か?クレア」クレアのテーブルの前で、紅茶を飲んでいた老年の男が、クレアにそう話しかけた。帝国において四公に次ぐ貴族位第2位の名家であり、クレアの父であるガルバトロン・フォン・フェルナンテ侯爵は、戦場に行った夫ウィズを思う娘クレアに、優し気な口調で声をかける。「大公殿は歴戦の猛者だ。心配はいらないよ」
「ええ、それはわかっていますわ。でも……お父様……もしもあの人に何かあったら。私……この子が可哀想になってしまって」クレアは、自分のお腹を愛おしそうに撫でる。「この子が……あの人の忘れ形見になってしまったら、私……」クレアは悲し気に目を伏せる。そんな娘の様子を見て、ガルバトロンは席を立ち、クレアの側に寄ると優しくその肩を抱いた。「私は、軍人ではない……だから先程軽はずみで心配いらないなどと言って、すまなかったねクレア」「そんな……お父様は何も間違ったことは言っていないわ。旦那様ならきっと無事に帰ってらっしゃる」「ああ、そうだな……帝国にとって、彼は無くては成らない人物だ。それに、神聖国と和平が結ばれた。もう、長い両国間の戦争は、終わったんだ」
「そう……ですわね。そう信じます」
「ああ、そうだろう」「「「…………」」」ガルバトロンとクレアの間に、沈黙が流れる。すると、扉の外が騒がしくなってくる。「何でしょうか?」「ああ、この声は」ガルバトロンが何かに気づいたかのように、顔を上げる。次の瞬間、部屋の扉が大きく開かれる。「大変です!父上」部屋に入ってきたのは、ガルバトロンの息子にしてクレアの兄であるラムザ・フェルナンテだった。
「今しがた、神聖国よりリターニア公女アリア様の使者が帝城に入られ、イルマ摂政陛下に謁見されたのこと。神聖国内で異変が起きたとのことです!」「なに?」ラムザの言葉に、ガルバトロンが思わず椅子から立ち上がり、ラムザに向き直る。「異変……とは?」「はい。何でも神聖国内で帝国との和平反対派によるクーデターが起き神聖国側の主だった者が拘束されたとか……」「兄上それならば、旦那様……ウィズ様は……」
「報告によれば、ガルム参謀総長や神聖国に駐留していた帝国関係者も捕縛され……ウィシュターニア公爵も含まれているようだ……」「そんな……」ラムザの報告にクレアは絶句する。「……お父様」「大丈夫だ、クレア。仮にも彼は帝国が誇る英雄。いくらなんでも、クーデター如きで討たれるような人物ではないさ」「でも……」「父上。イルマ摂政陛下より登城するよう言付かりました」
「わかった。すぐに行く。クレアすまないが、失礼するよ」「はい……」ガルバトロンとラムザ父子は、足早に部屋を出ていった。
静寂に包まれた部屋で夫の事を考えクレアは、不安で心が押しつぶされそうになっていた。「ウィズ様……どうかご無事で」
ルビーの様に赤い瞳から涙が流れ自分のお腹を見つめながらクレアは、夫の安否をった。
すると不思議なことが起きた。
まだ動くはずのないお腹が動いたののだった。




