指揮官の責任
その頃、帝国では、「そうか、なるほどな」と帝国軍最高司令官ガルム参謀総長が納得するように頷く。「つまりはベルモット一派を潰す為に神聖国と手を結べと言う事だな?」
「はい。その通りです」ウィズがガルム参謀総長に事の顛末を話し頭を下げる。「わかった。その提案飲もう」
「ありがとうございます」
そして、ウィズは神聖国軍陣営に使者として出向く事になった。
使者に選ばれたのは、スノー。護衛としてウィシュターニア公家騎士団長ジークフリート将軍が向かった。「これは、ウィズ・ウィシュターニア公。お待ちしておりました」神聖国軍陣営では、アルキメデウスとフリューゲンが出迎える。「お初にお目にかかります。ウィズ・フォン・アルベルト・ウィシュターニアでございます」
「こちらこそ初めまして、私はユスタリス神聖国聖十字軍参謀を務めさせていただいていますフリューゲン・ラインバッハと申します」「ご丁寧にありがとうございます」フリューゲンが優雅に頭を下げる。
「はい、まずは帝国と神聖国のこの不毛な戦いを終わらせ我らと同盟を組んでいただきたい」「その事はこちらでも協議され、全ての元凶であるベルモット・ワイズ打倒の為に帝国との和平、同盟に我々は賛成なのですが……神聖国も一枚岩ではないのです」フリューゲンは、悲しい顔をする。「それは、何故ですか参謀殿」「それについては、私から話そうウィシュターニア公」アルキメデウスが話し出す。「神聖国軍最高指揮官のヴァルキリー将軍と一部の将官達は、両国間の和平、同盟に反対し現在帝国と手を結ぶ事を反対する勢力が、神聖国軍内に存在します」「なるほど、つまりはベルモット一派に操られているのですね?」「はい。その通りです」
「では、その者達を説得すればいいのですか?それとも……」ウィズの言葉にフリューゲンは首を横に振る。「神聖国軍最高指揮官であるヴァルキリー将軍は、違います。あの方は、本心で反対されているのではありません。死んで逝った者達に申し訳ないと仰ておられました。本当はこの戦争が何も意味のないことをわかっていても……。指揮官としての責務があります。ウィシュターニア公ならおわかりでしょ?。現在レイシャが最後の説得をおこなっています」
ウィズは、ため息を吐く。「そのヴァルキリー将軍とやらは、根っからの軍人のようだ。戦争とは勝敗に関係なく誰かが責任を取らなくてはならない……将軍は死ぬつもりなのかもしれんの」ジーク将軍が呟く。「それは、断じて許される事ではない。ヴァルキリー将軍は、神聖国軍に多くの支持者がいる人格者だ。軍だけではなく国も乱れる」アルキメデウスが嘆きつつウィズを見る。
「何もかも貴公に押し付けてしまうかもしれん。どうかヴァルキリー将軍を説き伏せてくださらないか」「わかりました、尽力しましょう。ただ、説得に成功したとしても帝国との和平に反対されては意味がありません」
「無論だ。説得の成功で帝国との和平を容認していただければ同盟も受け入れられます」フリューゲンの言葉にウィズは頷く。
こうしてウィズは神聖国軍陣営の味方を得るのだった。
ウィズ達は、ヴァルキリー将軍のいる陣に向かう。陣幕は、男女の言い争う声が聞こえてくる。「どうか、ご再考を将軍!」「諄い!貴殿がいくら聖十字軍の隊長であっても最高指揮官である私の意志までは決めれん!」そこにウィズが入ってくる。「ウィズ殿!」そこにいたのはレイシャとヴァルキリー将軍だった。「これは、帝国の死神。ウィシュターニア公とお見受けする。今回はどうされましたか?」ヴァルキリー将軍は、ウィズを見て頭を下げる。「本日は、講和の件で参りました」「そうですか。今我々は帝国との和平や同盟に反対の立場を取っているのです」
ウィズはフリューゲンから聞いた情報を話す。
ヴァルキリー将軍は頷く。「なるほど……わかりました。私はこの戦争を早く終わらせるべきだと感じていましたが、その事で多くの同胞が死んで逝きました。これは軍を指揮する者の責任です。貴公ならわかるでしょ」「……」ウィズには何も言えない。「私は、この戦争で多くの部下を失いました。それが正しい選択だったのかどうかはわかりません。ただ、もし……その選択を私が選んでいれば戦友達は死ななかったかもしれない。だからこそ帝国のベルモット・ワイズに怒りを覚えているのです。しかし我が国にも相違というものがあります。誰が受け皿にならなくてはならない」「……」ウィズは黙ったままだ。
「それは、帝国と戦うということですか?」「無論その覚悟はあります。元よりそのつもりで軍を率いて貴国に攻めて来ているのですから」
2人の間に剣呑な空気が流れる。
「これ以上の戦いは無益ですヴァルキリー将軍」「講和を結ぶにしろ同盟を結ぶにしろ代償を払わなくてはいけません」「代償とは……」
ヴァルキリーは目を閉じ覚悟ある声で答えた。「今回の帝国への侵攻は、私ヴァルキリー・フォン・エルナリーゼの独断ということにしてくれませんか?」「死ぬおつもりか……」「どうか、貴公の帝国の力で操られた人々をお救いください」ヴァルキリーは、短剣を抜き覚悟を決めた。




