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ウィシュターニア公戦記  作者: 上西日向守
帝国編(ベルモット・ワイズ)
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快楽殺人

月明かり照らす夜。街に悲鳴が響く誰かが悲鳴を上げる。

誰かが助けを求める。

「うぅぅぅぅがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

だが誰も助けようとしない。

何故ならそこにいるのは人ではなく、人の皮を被った化物だからだ。

人は皆、化物から逃げるように走る。そしてそこにいるのは己と己の大事なものを守る為に武器を持つ男達だ。

だが武器を振るう者はない。ただ逃げるのだ。それが悪いわけではない、自分の命を大事にするのは人間として当然だ、だがその結果がこれだ。

男は逃げる女性の背後から剣を突き刺し、女は胸を貫かれて悲鳴をあげる。そして刺された女性も自分に剣を刺した男を泣きながら睨み返す。だが刺された女性はすぐに虚ろな目に変わり、男は突き刺した剣を抜くと今度は別の女性に斬りかかる。

「やめろぉぉぉぉぉ!」

だが男は止まらない。斬った女を捨てて次の女を殺しにかかる。その眼は正気ではなく狂気に満ち溢れている。そして振るわれる剣に迷いはない。

そんな光景を目の当たりにして怒りの声を上げる若者が一人いた。しかしすぐに肉塊に変わった。若者だったものは肉塊となり、道に転がる。

「やめろ……もうやめてくれぇぇぇ!」

悲痛な叫び声があがる。だが化物は止まらない。まるで殺戮の楽しさに酔いしれるように剣を振るう。

血に染まった通りを悲鳴と呻き声がこだまする。

そんな地獄の中で一人の青年が逃げる事もせず、ただ立ち尽くし、目の前の光景を見据えていた。

その瞳に映るのは恐怖ではない、怒りだ。

「何が望みなんだ……お前は」

「死への探究心かな」その青年の呟きに答えるように声がした。その声は目の前で剣をふるっている男のすぐ背後から聞こえた。

「な!?お前……」

一瞬、青年は何が起こっているのか理解できなかった。だがすぐに理解する、この光景を作り出した張本人が目の前にいることに。人の皮を被った化物が笑みを浮かべて立っていることに。そしてその顔は人間のそれではない異形のものだというこに……。

「お前は一体何者なんだ」

震える声で青年はそう尋ねる。その問いに化物は考える素振りをすると自分なりの考え語りだす。

「何者……か、そうだね私はこの世界の人間ではないのかもしれないね。姿形は確かに君達と同じだけれど、中身は全く違う存在なのかもしれない」

「何を言っているんだお前は……」

化物は笑いながら答えると剣を構えて青年に襲いかかって来た。その動きは信じられないほど早く、普通の人間が目で追える速度ではなかった。だが青年はその化物の攻撃をかわした。かわす際に風圧で地面に大きな跡が付くほどの攻撃を……だ。

「ほう、ただの馬鹿ではないようだね」

「お前は本当に何なんだ……何が目的でこんな……」

「言っただろう、死への探究心。ただそれだけだよ」

化物はそう言うと剣を素早く振るう、そして剣が青年の左肩に刺さる。青年はその痛みに苦悶の表情を浮かべると苦痛に歪む顔で化物を睨みつける。

だがすぐにニヤリと笑うと……剣を両手で掴み右肩まで一気に引き裂いた。血飛沫があがり、化物の顔に血が付着する。同時に青年が蹴りを繰り出し、足が消える。消えた足は地面に転がり血しぶきが飛ぶ。だが化物は止まらない、青年は死んだ、だが化物は止まらない。今度はその隣にいた男に剣を振るう。男はそれに反応するが剣で受けることはできずに命を絶つ。その後も止まることなく、目につく人間全てに斬りかかった。

「ふぅ……美しい光景だね」

血に染まる地獄の中で一人佇む存在がいた。それは先ほどまで人間だったものだ。大量の返り血を浴びて真っ赤に濡れるその姿は人間の姿でありながら、まったく別のものに見えるほどだった。

「さて次はどこにいこうかな」

「お前!」

突然、女の声が響いた。声のする方向を見るとそこには少女が一人立っていた。女は恐怖と絶望の入り混じった顔をしながら、それでも強い意志で化物を睨みつけていた。その鋭い視線は目の前にいる化物に対して怯むことなく抵抗の意志を見せるものだった。そんな女に対し、化物はニヤリと笑い剣を構える。

「お前は何者だ!」

女はそう叫ぶが化物は何も答えない、ただ笑みを浮かべながらゆっくりと少女に近づいていく。女は後ろに後退りながらも必死に逃げようとするに後退りながらも必死に逃げようとするが足が震えて思うように動けない。女は恐怖に怯えながらも剣を構えた。そして「はぁ!」という掛け声と共に、剣を化物に向かって振るった。

だが女の剣は空を切るだけだった。かわされたわけではない、そもそも当たる距離まで近づいていなかったのだ。そのはずだったが剣を持つ腕は別の腕に捕まれていた。化物の腕によって……だ。

「君では私には敵わないよ」

その言葉と同時に女の視界が一変する。目の前の景色が一瞬にして変わり、次に見えてきたのは建物の天井だった。何が起こったのか理解できず、混乱していると目の前に化物が現れる。

「君はもう逃げられない」

そう言うと化物は女の顔を掴んだ。少女は恐怖に震え、叫び声を上げるがすぐにその声は止み、代わりに「うぅぅ……うぁ」という小さなうめき声だけが聞こえるようになった。

化物……彼の名は『ベルモット・ワイズ』人を殺すことに無常の喜びを感じる。殺人鬼である。

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[気になる点] 数話先まで読み進めましたが 「あれ?」と思い ここまで戻ってきました。 この回から突然話の内容が変わったような気がします。 この回の先頭に説明文を入れてもらえたらうれしいです。 …
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