寝て起きたら学生に戻ってセーラー服を着ていた私。
「はあ~…今日はめっちゃ疲れた」
仕事から帰ってきてお風呂や食事などを済ませると、私はすぐに寝室へと向かった。今日は仕事がいつもより忙しかったので、早くベッドに入りたかった。
「とうっ!」
寝室に入ると、ベッドにダイブする。
「あ~…ベッド最高!」
ふかふかの寝床に顔をすりすりしていると、睡魔が一気に襲ってきた。
「あっ…明日の準備するの忘れてた…ま、いいか───」
やらなければいけないこと、色んなことが意識とともにベッドに溶けていく。
夢に、落ちていく──────
♘
─────キーンコーンカーンコーン………
なつかしい、学校のチャイムの音。
(…ん?)
もぞっと体を動かす。なんか、おかしい。体勢が変というか。
たしかにベッドで眠ったはずなのに、横たわってるというより、机かテーブルに俯せているような感じ。それに、ちょっと湿気を含んだ木の香りが、鼻のそばでする。
この懐かしい香り…もしかして。
ゆっくりと顔をあげると、そこは。
「…え?がっ…こう?」
誰もいない教室。
夕日の朱が注ぐ、窓際の席に私はいた。…中学の頃のセーラーの冬服を着て。
「うわっ、この制服なっつかし。そういえば昔『冬服似合うね』ってクラスの男子に言われたっけ?…そうなのかな?」
胸元のネクタイを触りながら、そんなどうでもいい思い出を思い出し、窓の方を見る。窓には、まだ肌がつやつやだった中学生の頃の私が映っていた。
「わ~…私若~い(笑)ていうか~…何で中学生に戻っちゃってるの?」
でも…と、辺りを見回す。たしかに制服や私の顔は中学生の頃のまんまだけど、教室が私の通っていた学校とはちょっと違っていた。
「まあ~…夢だったらちょっと違ったりするのはよくあることだけど、それにしても…」
机や椅子の木の香りに、磨り減ってぐらぐらする足。
机のらくがきに、誰かがコンパスで開けただろう穴。
窓からそよぐ風に揺らめくカーテン。
夕日の朱揺れる教室。
遠くから聞こえる、部活動生の活気溢れる声。
妙にリアルで、まるで本当にそこにいるような気分になる。
身体はベッドで寝ているはずだろうに…
ガタッと、椅子から立ち上がり、黒板の方に行く。ふわふわと揺れるスカート。普段、スカートなんて穿かないから、すーすーしてなんとも言えない気持ちになる。
「わ~、チョークなんてなん十年ぶりに触ったかな?」
粉受に置かれていた小さくなったチョークを手に持つ。夢にしては指に触れるチョークの粉っぽさがリアル。
カッカッ…と「アオハル~」や「若返りバンザイ!」など、黒板にしようもないらくがきをすると。
「……」
カッカッ……カチャ。
桃色のチョークでハートを描き、その下に矢印のような傘の絵を描くと、傘の下に自分の名前とそして…好きな人の名前を書く。
「ぎゃーーーー!!!はっずかしっ!!!!」
自分で書いたくせに、顔から火が出るほど恥ずかしくなり、黒板消しでざっざと書いたもの全てを消した。
「…はあ。さあ~て、どうしようかな~?」
手についたチョークの粉をぱんぱんと払い、スカートをふわりとさせながら教室の入り口の方に体を向ける。
「とりあえず、廊下出よっかな♪」
ガラッと教室の扉を開け、廊下に出る。校舎の外から聞こえてくる部活動生の活気溢れる声が教室にいる時よりよく聞こえた。
「夢なのにそれぞれの声の違いとかリアルに聞こえる~。さすが私の夢(?)」
そう思いながら、窓の外のグラウンドを見て驚いた。
「え…?誰もいない…」
たしかにグラウンドから、活気溢れる声や走る音などが聞こえるのに、誰ひとりとしていない。
「え~…何これホラーじゃん(笑)」
そう呟くと、廊下を歩き出す。
外とは違い、校舎内はしん…と静まり返っていて静かで。人の気配をまったく感じない。
「この感じだと誰もいないのかな~」
てくてくと歩いていた足を、だんだん早足に。そして、早足からたたたたたと走る。
誰もいない(多分)のを、「廊下を走るな!」っていう先生もいない(多分)のをいいことに、バタバタと廊下を爆走する。
「はあっ、はあっ、はあっ…一度学校の廊下を爆走するのが夢だったんだよね~。夢が叶ったわ、夢だけに(?)」
廊下を思いきり走ると、息を切らしながら笑う。
1階に降りて職員室を見つけて覗くが、コーヒーの香りはするけど、やはり誰もいない。
「誰もいないな~本当に私ひとりなのかな?」
ふんふふ~ん♪と鼻歌を歌いながら、へたくそなスキップをしていると。
「えっ!」
ドンッ!!
曲がり角から誰かが出てきて、ぶつかった。
「いたた…あっ!ご、ごめんなさ…い…」
ぶつかったその人に慌てて謝ると、その人は。
「あ、いや、こちらこそすみませ…ん」
彼の声が鼓膜に響く。
顔がぼんやりとしていてわからないけど、彼だ。
…私の好きな人。
彼もまた学生に戻っているようで、学ランを着ていた。
「あ…の…その私……いえ、私と一緒に学校内を歩いてくれませんか?」
ついとっさに彼に告白しようとして、それを誤魔化すようにそう言った。声も裏返って変な声になってしまい、恥ずかしくて消えたくなった。
けど。
「…うん、いいよ」
顔に霧がかかっているようで、顔はよく見えないけどでも、優しく微笑んでいるのがわかる。
嬉しくて嬉しくて「やったー!」と私は、内心で声をあげ、心音をあげながら。
「…ありがとうございますっ!」
と、めいっぱい微笑み、彼と並んで歩こうとして────
「───────はっ…」
いつものアラームの音で現実世界に引き戻されるのだった。
ガックシ(笑)