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⁑それぞれの夜(1)

その日は、カイトが病み上がりだという事もあり…タウンに行くという誘いを断って、僕ら2人は早々にカイトの部屋へ戻った。



「また便利機能を使わせてもらおう…」


そして僕らは、ヴィンセントの店の宅配を頼んでの…カイトの部屋のキッチンで、エールで乾杯した。


「…エールなんか飲んで大丈夫なの?」

「大丈夫だろ、全然…」


「もう、どこも痛くない?」

「ああ…」


「…よかった」


僕は微笑みながら、大きく溜息をついた。



「お前に辛い思いをさせて…すまなかったな…」

「ううん…結果、良い体験をさせてもらったと思う」


僕は、エールをゴクゴクと飲みながら続けた。


「色々な事が、よく分かった…この世界の事も…」

「…?」


「偽物カイトが、教えてくれた」

「そうだ、結局何者だったんだ?…その、俺の偽物ってヤツは…?」


ジョッキをカタッとテーブルに置いたカイトは、身を乗り出して、僕に向かって言った。



「信じてもらえるかどうか、わかんないけどね…」


僕は…ゆっくりとした口調で話し始めた。


「地球の…僕の友だち…だったんだ」

「…俺の偽物が?」


「うん…それでね…もしかしたらって思ってたんだけど…やっぱりこの世界は…その人が創ったんだって」

「はあ?」


カイトは、胡散臭そうに、片方の眉毛を上げた。


そりゃそうだ…

ずっとこの世界で生きてきた彼にとっては…そんな事言われたって納得できる筈も無いだろう。



「ま、それは…どうでもいい話なんだけどね…」


だからといって結末が決まっているわけでもないこの世界で生きていく上で…僕にとっても、そんな事は、既にどうでもよかった。



「僕がここに来るちょっと前の彼がね…カイトの身体に入ってきたんだ」

「…???」


カイトは、もはや完全に理解不能な表情だった。


「あのとき…行方不明になってた彼が…まさか、カイトの所に行ってたなんて…しかも未来の…」



僕は、ポカーンと固まってしまったカイトを置き去りにして続けた。


「でも、ようやく繋がった…なるほど、そういう事だったんだなって…何て言うか、腑に落ちた」

「…???」


カイトは、自分のエールを飲み干しながら、溜息をつくように言った。


「何がなんだか…サッパリわからん…」

「あははは…ごめんね、そうだよね…」


「ま、でも…お前は、腑に落ちてよかったんだろ?」

「…うん」


「自分が偽物に乗っ取られたってのは…正直、納得いかないけどな…」

「僕も、どうしようかと思った…」


「結果、お前がよかったんなら…それでいい」

「…ありがとう」



2杯目のエールを注文して…僕は、続けた。


「改めてカイトに感謝してる…」

「何で?」


「偽物に入れ替わってしまった僕を…受け入れてくれた事を…」

「…」


「だって、僕は耐えられなかった…身体はカイトなのに、中身がカイトじゃ無いって事を…これっぽっちも受け入れられなかった…例えそれが、知ってる人だったとしても」


「…そうか」


カイトは、少し嬉しそうに…顔を赤らめた。


「カイトは…中身が違っても、俺のリューイだって、言ってくれてたのに…」

僕はおかわりエールをゴクゴク飲みながら続けた。


「僕は…偽物を…受け入れられなかった」



「…それでいいよ…」

自分を責める感じで俯く僕の手を…そっと握りながらカイトは、畳み込むように続けた。


「その方が…俺はとても嬉しい…」

「…」


「俺があのとき、お前を受け入れられたのは…たぶん、本物の強い意思が働いてたんだと思う…」

「…」


「今となっては、それに感謝してるけどな…」

「…」


「俺は…今のお前が好きだ…そこに、何かが作用してるのかどうか、わからんけどな」

「ふふっ…」


僕は、顔を上げて…カイトを見つめた。



ま、ヒロの意思は働いてんだろうけどな…


僕がこんなにも、カイトを想って止まない気持ちも…おそらくはヒロが創った思考回路に追従してるんだろう


それでも、それが…今の自分の全てである事は、紛う事なき現実だった。



僕は、カイトの手をギュッと握り返した。


そして僕らは…吸い寄せられるようにして、どちらからともなく口付け合った。





「いやー本当に、素晴らしかったんだよ!!」


いつものようにヴィンセントの店で…酔っ払いエルンが、リカルドと…呼び出したキーファーに向かって力説していた。


「早くあれを、皆に聞かせたくてしょうがない…頼むからキーファー、早くあの機械の音を、大音量で聞ける道具を作ってくれ〜!」


「…わ、わかったわかった…」

キーファーは、若干面倒臭さそうに返した。


「そんなに良かったんですか?…その…カイトさんの偽物さんが出す音は…」

ヴィンセントが、取りなすように言った。



酔っ払いエルンは、よくぞ聞いてくれたとばかりに、再び力強く…芝居がかった口調で続けた。


「リューイのあの声を、初めて聞いたときも衝撃だったけどな…いやもう、あの2人でやったときはな、それの何倍も!素晴らしかったんだよ…」



「そんな言われてもねー聞いてみないとわかんないよねー」

「だから、早く作ってくれって!」

「あーはいはい…」

「完成したら、すぐ持ってきてくださいね!」



そんな感じで、こちらの酔っ払いおっさん達の長い夜は…まだまだ終わりそうになかった。



「それにしても…カイトまで偽物になるとはな…」

キーファーが呟いた。


「俺も…偽物に乗っ取られたらどうしよう…」


(……)


彼の身体の中で、

青い光が…呆れて笑うように飛び散った。




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