⁑戦いのあとの日常(2)
「差し当たり、俺もあの機械を改良するかな…」
「そうですよ、キーファーさん…早く僕も聞けるようにしてください」
僕は、ハッと思い出して言った。
「そうだ…いくつかの音を、別々に録音して、ミックス出来るようになりませんか?」
「うーん…??」
イマイチ意味が分からないような表情のキーファーに向かって、僕は続けた。
「要は…あの楽器の音を先に録って…あとからそれに、声とか、他のを重ねて録って…最後に、音量バランスを調整する…みたいな?」
「…」
「ついでに、その…こないだみたいに、余計な雑音は消したり…リバーブとかをかけられたりしたら…もっと良いんですけど…」
あのイヤホンから流れる音も、とてもクリアに仕上げられていたからな…
きっとキーファーさんなら、出来るんじゃないかな…
「ちょっとよく分かんないけど…そうしようと思ったら…あの大きさじゃ収まらないな…また別の形にしないと」
「もちろん…それは別に持ち運ぶわけじゃないので、もっと大きくて全然いいです」
「うーん…」
「最終的にミックス出来た音を…あの機械で聞ければいいんです!」
「……」
キーファーは、目を閉じて熟考態勢に入ってしまった。
「…なるほど、完成されたものを、僕らが聴けるようになるわけですね!」
ヴィンセントの方が、先に理解したようだ。
「そーれはキーファーさん、是非お願いします」
「全く…他人事だと思って、無理難題ばっかり言いやがって…」
目を開けて、呆れたように笑いながら…
キーファーはまた、日本酒のグラスを手に取った。
「ま、ボチボチやってみるか」
「はい、ボチボチでお願いします」
そして僕らは、また乾杯した。
すっかり飲み進んで、そろそろ帰るかって頃になって…キーファーが僕に訊いた。
「部屋に…帰るのか?」
「いや…医療センターに行きます」
「カイトんとこ?」
「はい…」
「そんな酔っ払いで…入れてもらえんのか?」
「ドア通らないで、コッソリ行きますから」
「あはははっ…そうだったな」
それから僕は、ヴィンセントにお礼を言って…キーファーに手を振りながら…シュッとカイトの元へ飛んだ。
「…全く…偽物は、面白いな…」
ふふっと笑いながら、キーファーは呟いた。
「そうですね…」
ヴィンセントは、僕の居なくなったテーブルの上の食器を片付けながら、続けた。
「僕は…大好きですけどね」
「まあな…何だかんだ言って…俺もだ」
2人は穏やかに、微笑み合った。
そして僕は、カイトの枕元に立った。
彼はスースーと寝息を立てていた。
「ごめんね…カイト…」
言いながら僕は…
彼の寝ているベッドの横の椅子に座った。
そっとカイトの手を握った僕は…だいぶ酔っていた事もあり…そのまま、彼のベッドに倒れ込んで、眠ってしまった。
「おーい、リューイ…いつの間に来たんだ?」
「…うーん…」
エルンに揺り起こされて…僕が目を覚ましたときには、既にいわゆる朝の時間だった。
「大丈夫か?お前も疲れてんだろうに…」
「大丈夫です…」
僕はカイトを見た。
彼はまだ、眠っているようだった。
「あ…もう行かなくちゃいけない時間ですね…」
僕は椅子から立ち上がった。
「そうだな…俺も後から行くかな…ウィルフリードも来るんだろうから」
「カイトは…起きても引き止めてくださいね」
そう言った僕に…
エルンは肩をすくめながら続けた。
「努力はしてみるが…果たして、大人しく言う事きくかどうかは…わからんよ?」
「あはははっ…」
そして僕は、シュッと体育館に移動した。
こんないっつも飛んでばっかりいたら…そのうち運動不足になりそうだな…
そんな事を考えながら…
僕は、皆が集まっている中へと歩いていった。
「あ、リューイ!おはよう」
「大変だったね…ケガは無い?」
「あの音のおかげで、スゴく頑張れたよ」
「カイトの調子はどう?」
皆が口々に僕に声をかけてくれた。
「お疲れ様でした、ありがとうございます…カイトも落ち着いてるみたいです」
そこへ、ウィルフリードとリカルドがやってきた。
そう言えばウィルフリードさんって、あんなに強力な移動能力持ってるくせに、いつも歩いて来るよな…
「…」
もしかしたら、すぐそこの廊下まで、シュッと飛んで来てたりして…
そんな事を妄想しながら、僕はふっと笑ってしまった。
いつものカイトに代わって、リカルドが皆を整列させてから…ウィルフリードの訓示が始まった。
「皆、昨日は本当にありがとう…」
「…」
彼は、僕らが恐縮するくらいに、深々と頭を下げた。
「差し当たりの次の目標は、ただひとつ…昨日、あの黒いステーションにトドメを刺した相手から、我々のこのステーションのコアを守る事だ…」
「…」
「……っ」
それを聞く面々の表情は、それぞれだった。
緊張や脅威…そして、決意…
「この短期間で、ここまで強くなれた君たちなら…決して不可能な事では無い」
ウィルフリードは、自分にも言い聞かせるように続けた。
「共に…更なる高みを目指そう」
その場にいる全員が…彼のその言葉に大きく頷いた。
もちろん…僕も。
「それにしても…リューイが考えた、あの道具は素晴らしいな」
ウィルフリードが、僕の方を向いて言った。
「いやホントに!言ったら何もかも、リューイのおかげだよねー」
リカルドも続けた。
僕は、顔を赤くして…両手を身体の前でブンブン振りながら言った。
「そ、そんな事は無いですよ…実際作ったのはキーファーさんだし…それに…」
僕は、そこにいる面々を見渡しながら続けた。
「道具があるからって、誰でも進化出来るってわけじゃ無いです…個々それぞれが、道具を信頼して、それぞれ真剣に努力をしてくれたからこそ…皆が強くなれたんです!」
それは…そのときたまたま思い付いて、口から出た言葉だったが…まさにそれが、現実であり…僕の本心でもあった。
僕は改めて、皆に向かって頭を下げた。
「僕の方こそ…お礼を言いたいです…皆さん、本当にありがとうございました」
「こちらこそだよ、リューイ!」
「リューイ…ありがとう!」
パチパチ…
パチパチパチパチ…
僕に向けられた言葉と一緒に、誰からともなく拍手が起こった。
それはやがて…
体育館全体に響き渡るほどに大きくなっていった。
いやまあ…本当は…
体育館って名前じゃあ無いんだろな…
未だにそう言うのが、まだまだいっぱいあるなー




