表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/172

⁑戦いのあとの日常(1)

その日、僕は…キーファーを呼び出して、ヴィンセントの店に行った。


「大変だったな、リューイ…調子はどうだ?」

言いながらキーファーは、僕の顔を見て、ホッとした表情を見せた。


「うん、僕は大丈夫…カイトがちょっとケガしちゃったけど…」


「エールでいいですか?」

ヴィンセントが言った。


「はい…」


ケガをしているカイトを放っておいて、僕だけ乾杯するのも躊躇われたが…それでも、飲まずにはいられない気分だった。


「お疲れ様でした…」

「ヴィンセントさんも…キーファーさんも、お疲れ様でした…鉄壁の守備力、すごかったですね」


「いや…ホントに、こんな俺なんかでも、ちっとは役に立って良かったわ…」

「僕も、すごく緊張しました!」


ヴィンセントは、ポーッとした表情で続けた。


「でも…あの、自分の中のコアが引き出されて…このステーションを囲んで守ってるっていう、あの感覚…何て言うか、感無量でした!」

「そうですか…」


「僕のコアが、戦闘の役に立つなんて…」


そっか…ヴィンセントさんは転向組だったからな…

当時は劣等感に苛まれていたのかもしれない



「すいません、なので今日は、あんまり仕込みが出来てないんです」

「いや、全然構わないでください…」


僕は、苦笑しながら続けた。

「カイトやエルンを放ったらかしにして、僕だけ美味しいもの食べるわけにはいかないですから…」


「カイトの具合は、どうなんだ?」

「とりあえず、安定してるみたいですよ」


「そうか、良かった…」


「テディさんにも、すごく助けられました」

「本当か?」


「はい…」


僕は、あの黒いステーションのコアに向かう中で、何度も窮地に立たされた事を思い出しながら、語った。



「そうか…あいつも頑張ったんだ…」

キーファーは、万感の表情で呟きながら…ジョッキに残っていたエールを飲み干した。



「それにしても、そんなに大変だったんですね、リューイさん達は…」

「…でも、僕らがそこまで行けたのは、ヴィンセントさんやキーファーさんが、こっちを守ってくれたおかげですから…」

「…」


「そう思ったら…何としても、目的を果たさなきゃって…思いました…それなのに…」


僕の…ジョッキを持つ手に、勝手に力が篭った。


「目の前で…糸もたやすくコアを横取りされてしまった…しかもカイトに、あんな怪我をさせて…」


僕は、一気にエールを飲み干した。



「なるほどな…」


そんな僕を見て…キーファーは、僕がカイトを放ってでも、ここへ来た理由が分かった気がした。



そんな僕の凹む様子を見て…エールのおかわりを出しながら、ヴィンセントは言い出した。


「今回、僕は初めて…自分のコアを、こんなに感じられたんです…」


彼は、自分の胸のメダルを、ギュッと抱きしめた。


「もし、僕もキーファーさんの道具をもらって、リューイさんの音を聞いたら…きっと…もっと力を出せるようになると思うんですよ…」


「あーそうだな…今回、戦闘部隊分しか間に合わなかったからな…」


「次までには、僕も…もっと強くなります」

「…っ」



…そうか…そうだよな…


これで終わりじゃない

ましてや、これが僕らの限界なんかじゃない…


ヴィンセントさんが強くなるように…

僕も、もっともっと強くなる!



自分ひとりの力でも…

あのレベルのステーションを一撃で倒せるくらいに


そりゃー…さすがに無理か…


「ふふっ…」


自分で思いながら…僕は笑った。



「はい、どうぞ」

そしてヴィンセントは…幾つかの小皿を出した。


「これも…もしかしたら、あれが合うかな…」


彼は、同じものをキーファーの前にも出しながら続けた。


「キーファーさん秘蔵の…」

「日本酒ですね!」


僕はその小皿を、まじまじと見た。


茶色い四角いものが、例の変な魚と一緒に煮てあるものと…黒い細長く切ったものに、ゴマがかかったもの…

あとは、薄茶色の細長いものが、生野菜と一緒に和えてあるもの…だった。


「…これも地球の食べ物か?」

先にキーファーが言った。


「…はい…僕の記憶が正しければ…高野豆腐に、昆布に…切干大根ですね…」

「今日は、あるもので作るしか無かったから…」


「乾物ですね!」

「かんぶつ…?」


「これも…あのステーションから仕入れたんですか?」

「そうです…カチカチに固まってるので、長持ちするんですよ…こういう日のための、非常食ですね」


「やっぱり乾物だ…まさに、そう言う目的で作られた、昔の人の知恵が詰まった食べ物です」



そして僕は、キーファーの方を見た。


「あれ…頂いてもいいですか?」

「…しょうがないなー…もうリューイにはバレちゃってるからなー」


それを聞いて、僕はニヤッと笑うと…

すぐに、日本酒を()()()()()



僕らは再び、日本酒で乾杯した。


懐かしい食感の高野豆腐には、変な魚の味も加わったダシ汁が浸みていた。


ゴマと醤油の薄味の切り昆布も、懐かしい海の味がした。

サラダ風の切干大根も美味しかった。


日本酒と一緒にそれらを摘みながら…

僕の目から、また涙が溢れた。


「何だよ…また地球に帰りたくなっちゃったのか?」


キーファーがそれを見て、からかうように言った。


「…いえ」

僕は大きく首を横に振った。



「この、懐かしい味の場所から…僕は、リューイに呼ばれてここに来たんだなって…改めて思いました…」


僕は、涙を拭きながら続けた。


「帰らなくていい…むしろ…感謝しか無いです」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ