⁑前前夜(1)
その日の訓練後…
僕らは珍しく、ヨハンの店にいった。
キーファーと、リカルドにリドリー、エルンも一緒だった。
要は、ヴィンセントの店には入り切れなかったのだ。
「あとでヴィンセントが、料理を届けてくれるそうだ」
人数分のエールを出しながら、ヨハンが言った。
「ヨハンさんは料理はやらないんですか?」
僕が訊いた。
「あー俺は、残念ながら、そっちの才能は無いんだ」
「…そうなんですねー?」
せっかくこんな良いお店なのに、もったいないな…
少しだけそんな事を思いながら…僕は彼らと一緒に乾杯した。
「いやーでも、めっちゃ色々進化したよなー」
やっぱりチャラ男くんな感じで、リカルドが言った。
「リドリー大活躍だったな」
エルンが彼の肩を叩きながら言った。
「いやホントに…こんなに次々と、しかも難しい仕事をしたのは初めてだよ…」
リドリーは、溜息混じりに…それでも、とても満足そうな表情で言いながら…エールをゴクゴクと飲んだ。
「キーファーさんもお疲れ様でした、まさか、あんなに早く完成するとは思ってませんでした」
僕は、隣のキーファーに向かって言った。
「だよねー俺もビックリしたー」
「リューイが、具体的なアイデアを出してくれたからね…ちなみに、どうだった?」
「もうね、バッチリよー自分でもビックリするくらい、全員のデータが全部把握できた!!」
「そうか…それは良かった」
「しっかりチーム分けもしたからね、明日…チーム毎に特化した訓練をしてもらったら、相当強力な体制を整えられると思うよ」
「うん…リカルドの言う通りだ…」
カイトも大きく頷いた。
「戦闘部隊員それぞれのレベルも、戦闘体制のレベルも…前回とは比べ物にならないくらい上がった」
「…それもこれも…全部、偽物リューイのおかげだね」
エルンがそう言って、僕の方を見た。
「…っ…そんな事無いです…」
「いや…だって、偽物が…あんなワケの分からない物を、俺に作らせたりしなかったら…こうはなって無かった」
キーファーが言った。
ああ…この世界初の楽器ね…
「やっぱり…俺の持論が正しいんじゃないか?」
カイトがニヤッと笑って、僕の耳元で囁くように言った。
「何その…カイト持論ってー?」
耳聡く聞いていたリカルドが突っ込んだ。
「内緒」
「えー何だよー」
「あはははっ…」
「お待たせ、料理が届いたよ」
ヨハンが、大皿を2つ…僕らのテーブルにドーンと置いた。
それは、以前…エルンがキーファーの所で宅配してもらったのと同じような、いやあのときよりももっと大きくて種類も多い、オードブルセットだった。
「うっわー美味そうー!」
「いただきまーす!」
僕の好きな魚のフライと、カイトの好きな辛い炒め物はもちろん…
肉を唐揚げにしたようなもの、グリルしたもの…
色のついたピラフ風のごはん、パスタにサラダ…
先日の中華シリーズの、酢豚とよだれ鶏も入っていた。
「ああーホントに美味しい…」
僕は、しみじみ呟きながら、バクバクと食べ進めた。
「そうだ、あの…何とかって酒はないの?」
キーファーが言い出した。
「ほら、あの…これに合うやつ」
「ああ、紹興酒ですね」
「それそれ…なあヨハン、紹興酒ってのある?」
「は?」
いや、紹興酒って言っても通じないと思います…
僕は丁寧に言い直した。
「えーと、お米から作ったお酒で…茶色くて、ちょっと甘い感じの…ありますか?」
「あーアレの事かな…」
少し考えた彼は、ほどなく、茶色い瓶を取り出してきた。
「そうそう、それです!」
「えー何それー?」
「初めて見るな…」
「紹興酒って言うんだ」
キーファーが、ドヤ顔で言った。
ヨハンはそれを、自分も含めた人数分のグラスに注いでいった。
「コレとか…コレに、すごく合うと思います」
僕は、酢豚とよだれ鶏を指差しながら言った。
「へえー」
「いただきます…」
「んっ…美味い!」
「本当だ…すごく美味しいし、確かに合うね」
ご賛同頂けたようだった。
「俺はワインも欲しいな…」
酔っ払いエルンが言い出した。
「俺もワイン飲みたーい!」
「はいはい、わかりました」
しょうがないなーって言う表情で笑いながら…ヨハンは、ワインも出してくれた。しかも、赤白両方とも!
「今日お揃いの皆さまには、俺たちは、本当に頭が上がらないからね…」
言いながらヨハンは、それらを次々とグラスに注いでいった。
「俺たちには…労う事くらいしか出来ないからな」
「いや、それ…ものすごく重要ですよ!!」
僕は思わず声を上げた。
「こうして、ヨハンさんやヴィンセントさんに、美味しいものをいっぱい頂いているからこそ、また頑張ろうって思えるんです!!」
「リューイの言う通りだ…」
カイトも静かに続けた。
「しかも…今回は、あれだろ?…ヨハンもヴィンセントも…一緒に戦ってくれるんだろ?」
そう言いながらカイトは…
ヨハンの胸元をチラッと見た。
「…!」
カイトにそう言われて、
ヨハンはとても嬉しそうに笑った。
彼の胸にも…例のメダルが光っていた。




