⁑テディ
ほどなく、キーファーが来た。
「リューイ…大丈夫か?」
そう言って、部屋に飛び込んできた彼は…僕の姿を見た途端、大きく目を見開いて、固まってしまった。
「…テディ…」
それを見た僕の中のコアが、更に強烈に…揺らめきながら輝き出した。
「ううっ…」
その余りの強さに、僕はまた眩暈を起こした。
「…っ」
キーファーは、信じられないといった表情で…じわじわと僕ににじり寄ってきた。
「…う…あっ…」
彼が近寄れば近寄るほどに、頭の中が激しくグルグルと渦を巻いて…僕は徐々に意識を失っていってしまった。
「リューイ!…おい、しっかりしろ!」
やがて、べッドの傍に辿り着いたキーファーは、僕を支えるカイトの手から、奪うようにして、僕の両方の肩を掴んだ。
「テディ…何やってんだ、そんな所で…」
「…」
「それは、リューイの身体だぞ…」
「…」
がっくりと項垂れる僕に…既に意識は無かった。
キーファーは僕の身体を揺すりながら続けた。
「出て来い…テディ…」
「テディが…いるのか?」
「…俺にはわからん」
カイトとエルンは、その様子を…固唾を飲んで見守るしか無かった。
「テディ…!」
キーファーは、動かない僕の…顔や身体を必死に探りながら、何度もテディの名を呼んだ。
そして…ついに彼は、僕の顔を掴んだ。
「カイト…すまない…」
そう言うが早いが…キーファーは、僕に口付けた。
「…!!!」
思わず掴み掛かろうとしたカイトを、エルンが全力で止めた。
「耐えろっ…」
「…っ」
どのくらいの時間…そうしていたのだろう…
少しずつ、僕は意識が戻ってきた。
ようやく目を開いた僕の目の前に…キーファーの顔があった。
「…!!!」
彼は、ゆっくり…僕から口を離した。
「ごめん…リューイ…もう、大丈夫だ…」
「…」
「テディは…俺が貰った…」
そう言って彼は、僕の身体をベッドに横たえた。
「リューイ…」
エルンの腕を振り解いて、カイトが僕に駆け寄った。
「何が…起こったんだ?」
「…テディさんが…僕の中に入って来ちゃったみたい…なんだ…」
「…どう言う事だ?」
「俺が説明する…」
キーファーが静かに語り出した。
「その機械に使った素材は…元々はテディの武器のために作り出したものなんだ」
ああ…やっぱりね…
「二度と使うつもりは無かった…だけど、テディは…ずっとそこに、居てくれたんだな…」
「…」
「俺がまた、それを量産させた事で…あいつの魂を呼び覚ましてしまったらしい」
「…」
「それが、うっかりリューイの中に、入っちゃったんだな…」
「…」
この、偽物と言い…
リューイの身体って、そう言う異世界のものを取り込みやすい体質なのかな…
「だいぶ混沌としてたけど…何とか説得して、俺の方に入ってきてくれた」
「…そしたら…キーファーさんの身体が、大変なんじゃないですか?」
「俺は元々、リューイみたいに感受性が強くないからな…むしろ、残念ながら…何にも感じないくらいだ…」
そしてキーファーは、カイトに向かって頭を下げた。
「悪かった…カイト」
「…」
カイトは、溜息をつくように、ふっと笑った。
「いや…リューイを助けてくれて、ありがとう」
「…」
僕は改めて、目を閉じてコアを見た。
それは、いつもの僕のコアだった。もう、眩暈がしたり、頭が締め付けられる事は…無かった。
少しだけ…ほっこりした心地良さが、僕の中に芽生えていた。
それはおそらく…キーファーの中に取り込まれた、テディの余韻と思われた。
とりあえずホッとして、再び目を開けた僕は…ふと、さっきの暗闇の夢を思い出した。
あれは…一体なんだったのだろう…
夢…というには、あまりに実感が強かった。
ヒロの手の感触が、生々しく、今も残っていた。
全然…動くけどな…
僕は、ヒロに握られていた方の手を、顔の前に持ってきて…マジマジと眺めた。
「もしかしたら…テディさんに、押し出されちゃったのかな…」
僕は、ポソッと呟いた。
「えっ?」
僕は続けた。
「僕は、さっき…地球に…戻ってたのかもしれない」
「何だって!?」
「本当に?」
「テディさんが、勢いよくこの身体に飛び込んできた事で…僕の、この意識が…元の身体に戻されちゃったんじゃないのかな…」
「そんな事が…本当にあり得るんだろうか…」
エルンが言った。
「わからない…夢だったのかもしれないけどね…でも…」
僕は、両方の手で顔を押さえながら続けた。
「地球の僕の身体は…何ひとつも動かせなかった…目も、開けられなかった…」
「…」
「戻ってこれて…よかった…」
言いながら…僕の目からは、ポロポロと涙が溢れた。
「リューイ…」
カイトが、そんな僕の頭を優しく撫でた。
「あ…あのな、リューイ…いや、カイト…」
キーファーが、とても言い辛そうに切り出した。
「テディが…お詫びに、自分に今残ってる力を、リューイに全部託したいって…訴えてるんだけど…」
「…っ」
「なっ…それって…またアレかよ、」
「それしか…手段が無い…」
「とか言って、お前それを口実に、リューイにキスしたいだけなんじゃないのか!?」
「バカ言うな!」
「…お願いします…キーファーさん」
睨み合う2人を宥めるように、僕は言った。
「ごめんね、カイト…後で君にも分けるから…」
そう言って僕は、上半身を起こすと、キーファーの方を向いた。
「すまん…いくよ」
僕は頷いて、目を閉じた。
キーファーのくちびるが、ほんの少しだけ…僕のくちびるに触れた。
「…!!!」
その途端、また僕の中に…痺れるような衝撃とともに、コアが怒涛のように流れ込んできた。
キーファーはすぐに口を離した。
「大丈夫か?…また、辛くなりそうか?」
「…」
一緒、僕の身体を掻き乱したそれは…やがてジワジワと収束して…僕のコアの中に混ざり合っていった。
「…大丈夫そう」
「よかった」
キーファーは、ホッと溜息をついた。
「あー…こっちの人のダメージの方が大丈夫じゃ無さそうだけど?」
そんなエルンの声を聞いて、そっちを見ると…
カイトが、
壁に頭をもたれて…蹲るように、闇を背負っていた。




