⁑地球に戻る?
僕は、暗闇の中にいた。
仰向けに寝かされているっていうのは、何となく分かった。
目を閉じているのも分かった。
それでも…目を開ける事が出来なかった。
目を開けるどころか…身体の、どこも、何ひとつも…動かす事が出来なかった。
「…ーイ…」
微かに誰かの声が聞こえていた。
僕の名を…呼んでいる声だった。
「…うい…」
…ん?
ひょうい…って、言った?
リューイじゃなくて?
ほどなく…誰かの手が、僕の手を握った。
…この手は…カイト?
いや、違う…カイトじゃない…
ヒロ?
それは、ギタリストの手だった。
指が細くて長い…そして指先の硬い…
間違いなく、ヒロの手だった。
暗闇の中で…握り返す事すら出来ない、その手の感触だけが…今の僕の世界の全てだった。
何なの?
これは…夢なの?
僕は必死に、身体中に力を込めて…どこか動かせる場所が無いか、必死にもがいた。
しかしそれは…無駄な労力に終わった。
何ひとつ…指先ひとつも、動かす事が出来なかった。
やっぱりこれは…夢なんだ…
それでも、ヒロの手の感触は…とても心地が良かった。
他に何ひとつ無い暗闇の中で、僕はその手のぬくもりに…ただ、ただ…浸っていた。
「リューイ!!!」
「…っ」
カイトに大声で呼ばれて、僕はハッと目が覚めた。
「リューイ…大丈夫か?…俺が、分かるか??」
目の前に、今にも泣き出しそうなカイトの顔があった。
「…」
僕は小さく…でも、しっかり頷いた。
「あああ…よかった…」
崩れるように、カイトは僕の上に覆いかぶさった。
「気が付いたか…」
カイトの後ろから、エルンが覗き込んできた。
そして、テキパキと、僕の腕に…見覚えの無い機械を巻き付けた。
「記憶は…ある?」
「…はい」
僕は、力無く答えた。
「どっちの記憶?」
「あ…たぶん…偽物の…方…」
それを聞いて、エルンはホッとしたように溜息をついた。
「そうか…よかった…」
カイトは、僕の顔をしっかり両手で押さえると…人目も憚らずに、自分の頬を擦り寄せてきた。
「また…お前を失うかと思った…」
「うん…脈拍は弱いけど、コアの数値は…おそらく問題無いんじゃないかな…」
エルンは、その機械を見ながら…若干、自信が無さそうに言った。
「おそらくって?」
カイトが振り向いて言った。
「いや…こんな高い数値…見るの初めてだからさ…」
「…」
それを聞いて…カイトもその機械を覗き込んだ。
「えっ…」
「…ね?」
エルンは溜息をつきながら続けた。
「前の機械は振り切っちゃってたから、測定不可能だったんだけどね…まさか、ここまで跳ね上がってるとはね…」
「…」
その数値の…どれくらいが、どんだけスゴいのか…残念ながら僕にはサッパリ分からなかった。
ただ…さっきの暗闇とは真逆に、頭の中のコアが…妙に光を帯びているのは実感していた。
むしろそれのせいで…眩暈を感じるくらいだった。
「それにしても…一体何が起こったんだろう…リューイ、倒れる前の事…覚えてる?」
僕は必死に記憶を手繰り寄せた。
「…何か、急に…ビリビリッてなったんです…」
「何のきっかけで?」
「えーと…キーファーさんが何か言ったあとに…」
「他には?…何かにぶつかったとか…」
「特に何も無かったと思います…あ、でも…」
僕は、耳に手をあてた。
既にイヤホンは外されていた。
「あの…イヤホンが合わなかったのかな…」
「イヤホン?」
「カイトは…付けてて何とも無かった?」
「ああ…なーんにも…」
「…」
僕は思い巡らせた。
そうだ、武器にも使った素材だって…言ってたよな…
もしかして、テディさんって人のために作ったのが、それだったのか…
もしかして、素材に残っていたテディさんの怨念が…キーファーさんの言葉に反応しちゃったのかな…
怨念って言うか…
愛…なんだろうけどな…
僕はゆっくり目を閉じて…自分の中のコアを確認した。
色合いも輝きも…見慣れたいつもの自分のコアとは、明らかに違って見えた。
キーファーさんの言葉に呼び覚まされた彼のコアが、ここに融合してしまったんだろうか…
何で僕に…?
だったら、キーファーさんの所に行けばいいのに…
「…うっ」
と…急に、頭が締め付けられるような感覚が走って、僕は自分の頭を押さえた。
「どうした!?」
「…頭が…痛い…」
それは…僕の中で、テディのコアが…悲しみにもだえ、足掻いているような感覚だった。
何か…面倒な事に、なっちゃったな…
うっかりそんな風に思ってしまった…
僕の頭は、より一層締め付けられた。
「ううっ…痛っ…」
「大丈夫か?」
「ごめん…キーファーさんを、呼んでくれる?」
「えっ?」
キーファーさんなら…この、僕の中のテディさんを、きっと何とかしてくれるに違いない…
漠然と…僕はそう確信していた。
若干腑に落ちない表情のカイトは…致し方なく、言われた通りにフォーンの所へ行って、キーファーを呼び出した。
「頭…痛いの?」
エルンが心配そうに、僕を見下ろした。
「どうしちゃったんだろう…」
「何か…取り憑かれちゃったみたい…痛たた…」
僕の頭は、また一層グリグリと締め付けられた。
「すぐこっちに来るって…」
そう言って戻ってきたカイトに向かって…僕は、痛みに耐えながら言った。
「…あのさ…カイト…」
「うん…何?」
彼は心配そうに、僕の手を握りながら言った。
「…キーファーさんが来たら…」
「…」
「キーファーさんと…チューするかも…しれない」
「はあ?」




