⁑総リーダーの素顔?
「これがその…例の、何とかって言う音なのか?」
今日僕らは…他でも無い…出来立てホヤホヤの、キーファー社製海賊版の実物を、ウィルフリードに体感してもらうために、ここへやってきたのだった。
「…っ」
流石のウィルフリードも…自分の耳に装着したイヤホンから流れるそのメロディーに、驚きを隠せない様子だった。
「何だか…とても心地の良い音だね」
同じく、イヤホンを付けたマテルも…目を閉じて、そのメロディーに聞き入っていた。
「身体の中のコアが、ホカホカと熱を帯びてくる感じがする…」
「実際、強くなるんだ」
「本当に?」
前のめり気味に言うキーファーに、ウィルフリードは、疑い深そうに聞き返した。
「既に何人もが…それを体感してるんだ」
「…」
「どうして、そんな事が発覚したんだ?」
「それは…僕が…」
僕は…このメロディーの経緯を、丁寧に説明した。
「あるとき勝手に…頭の中に、このメロディーが流れてきたんです、教習機関で訓練しているときに…」
「…」
「それ以来…このメロディーを思い浮かべる事によって、僕のコアの力は、驚くほどに強くなっていきました」
「…」
「それが…僕だけじゃなくて、カイトや…キーファーさんにも、効果があったんです」
「だいたい…その効果のおかげで、コレを作る事が出来たんだからな…」
「エルンや、リドリーさん…教習機関の訓練生の中でも、効果が実証されてます」
まあ、エルンは…
ワインを出しちゃっただけだけどな…
「うん…確かに、いつもより強い力を出せそうな気がする…ね、貴方もそう思わない?」
そう言うマテルに向かって…ウィルフリードは、そっと手を翳した。
…と、その瞬間…
シュッとマテルの姿がその場から消えた。
えっ!?
僕は目を丸くして…キョロキョロと辺りを見回した。
しばらくして、ウィルフリードは…今度は、さっきまでマテルが立っていたとのは違う場所に向かって…再び、手を翳した。
「…!」
また、シュッとマテルが現れた。
「もうー何で、僕で実験するのー!」
彼は、ちょっとプンプンしていた。
ええーっ?
聡明な…気取った美青年かと思ってたのにな…
この人、こんな表情もするんだ…
「ふふっ…コアの力が強くなるっていうのは…嘘ではないみたいだな…」
言いながら、ウィルフリードは笑って、むーっとしたマテルの髪を撫でた。
「…悪かった…どうだった?」
「ああ…確かに、何の抵抗感も無かったよ」
ブスッとしながら彼は答えた。
確かに、僕がカイトを飛ばすときとは、勢いというか…キレが全く違った。
ユラユラとしたものも出なかったし…
「それにしたって酷いよね…他所のステーションまで飛ばすなんて…」
「えええー!?」
「ホントか!?」
呆れたような、諦めたような表情で…マテルは片手に持っていたものを、皆の前に差し出した。
「…何だこれ…」
「…桜の仲間か?」
途中で折られた跡のあるそれに…
僕はとても見覚えがあった。
「薔薇だ!」
「へえ…」
マテルは、目を丸くした。
「リューイに謎の記憶があるっていうのは、本当なんだね」
ウィルフリードも、頷きながら続けた。
「このステーションには、基本、植物が生えない」
あー確かに…
あの地下の、野菜作ってる所でしか見た事が無いな…
「当然、リューイも、花なんて見た事が無い筈だ…ましてや、この花の名前なんて、俺ですら知らない」
「ばら…って言うの?」
「そうです、薔薇です」
「あのステーションには、この花が、とてもたくさん咲いてるんだよね…」
「ああ…あのステーションとは、久しく交流していない」
「…」
「太陽もあって、澄んだ水に溢れていて…とても美しい建物が並んでいるんだ」
ヨーロッパみたいなイメージかな…
「交流したときに、その街並みを…ウィルフリードと一緒に歩いたんだ…」
「また行きたいって…よく言ってただろう?」
「それにしたって酷いー」
マテルはまた、思い出したように頬を膨らませた。
「…っ」
そんな…お茶目でほのぼのした2人の様子を見て…
何だか僕はスッカリ気が抜けてしまった。
ウィルフリードさんって、もっと厳格で怖いイメージだったんだけどな…
うちのカイトと大差無いじゃん
「皆の前では、去勢張って偉そうにしてるけどな…本当はこんな奴なんだよ…」
半ば唖然としている僕の耳元で…
カイトがポソッと囁いた。
「…」
そうなんですねー
ま、要は所詮、看護士さんに手を出しちゃった、エロ親父って事ですね…
「明日の訓練から使えるのか?」
急にまた、偉そうな人に戻ったウィルフリードが、カイトに訊いた。
「ああ…その予定だ」
「そうか…そしたら、リカルドをそっちに行かせる」
えーと…あのチャラ男くんは、どこで何の仕事をしてるんだったかな…
僕が思い出すより先に、彼は続けた。
「例の2つのステーションの分析が、多少は進んでいる筈だ…戦闘部隊の攻撃力と併せて、今回こそ、更なる入念な対策を練ろう」
「…」
カイトは、黙ってくちびるをギュッと噛み締めた。
そして、僕の手を握った。
「…?」
何も言わないカイトの代わりに…
キーファーが口を開いた。
「大事なものを、絶対に手離すんじゃ無いぞ…」
そのとき…
今までに感じた事のない…痛みとも痺れともつかない強い衝撃が…僕の身体を閃光の様に撃ち抜いていった。
「ぅあっ…」
思わず僕は…その場に、蹲るように倒れた。
「リューイ!?」
な…なに…今の…?
「リューイ!…どうした、リューイ!!」
僕を呼ぶカイトの声が…段々と小さくなっていった。
自分の身に、何が起こったのか分からないまま…
僕はそのまま…意識を失ってしまった。




