⁑商品完成
数日後…いや、数十時間後…
例のカウントダウンが、まだギリギリ3桁を保っているうちに…例のキーファー社製商品が、ついに量産体制に漕ぎ着けた。
差し当たり、僕のあのメロディーを戦闘部隊の皆に聴かせるのが最速な目的なので…既にメロディーを録音した本体部分と、耳に付けるワイヤレスイヤホン的なものが、部隊員の数分、作られる事になった。
「あーあ…いっぱい出来ちゃったな…」
ファクトリー階で、それが着々と量産されていく光景を見学しながら…キーファーが呟いた。
「ポリシーに反する事になってしまって、ホントにすいませんでした」
「いや、そんな事に固執する必要は無かったんだ…」
彼は笑いながら、首を横に振った。
「こんなに…やり甲斐のある仕事は、久しぶりだった…むしろ、ありがとう」
「どーよ、うちのファクトリーのクオリティーは」
リドリーが、出来上がった幾つかを箱に入れて持ってきてくれた。
「スゴいですね!ちゃんと同じものがいっぱい出来てますね!」
僕とキーファーは、そのワイヤレスイヤホンを手に取ると…早速、耳に装着してみた。
それは、スッと耳に馴染んだ。
全く外れる気がしなかった。
「何でこんなにフィットするんですか?」
「それも、この本体と同じ素材を使ってるからな」
「これだったら、訓練で激しく動き回っても、落っことす心配無いですね」
「だろ?」
そして僕は…今度は本体を手に取って、再生の方に指を翳してみた。
両方の耳から…頭の中いっぱいに広がるように、あのメロディーが響き渡った。
「すごく…良い音ですね…本物の、録音した時よりずっと洗練された音になってる…」
「余計な要らない音は消しておいたからな…」
「そんな事も出来るんですか!?」
「この後に、これ使って録音していくものは知らんけど…とりあえず今回は、ちょっと加工しておいた…大勢が聞く音だからな」
「この後に録った音も…キーファーさんにお願いしたら、加工してもらえるんですか?」
「うん…まあ…出来ると思う」
「すごいなあー」
リドリーも、試しに装着していた。
「うん…問題無いね」
自分が作った量産システムに、彼はとても自己満足な様子だった。
「俺も…これを聞きながらだったら、もっと出来る事が増えるかもしれないな…」
「そう言う事…」
「実は…戦闘部隊以外の皆が、身を守るための装備を開発中なんだが…どうにもアイデアが出ないんだよね…」
リドリーは、唸るように言った。
それを聞いて…僕はふと思い出して、言った。
「エルンに相談したらどうですか?」
「エルン?」
「確か…僕ら用に、攻撃されても大丈夫な道具を…作ってくれた事が…ありましたよ」
「…なるほど、そうか…」
彼はしばらく考えてから、続けた。
「そうだな…何なら、彼らが担ってる治癒能力を、道具に落とし込む事が出来れば…」
リドリーは、少しスッキリしたような表情で続けた。
「ありがとう、リューイ…早速あとで医療センターに行ってみる」
「いいえ…こちらこそ、色々とお世話になりました」
「これ、全部出来たら、そっちへ送っておく」
「わかりました、よろしくお願いします」
そして、僕とキーファーは、デベロッパー階を後にして…エレベーターに向かった。
ちょうどそこへ…訓練を終えたカイトが、エレベーターから出てきた。
「どうだった?」
「うん、スゴい…ちゃんといっぱい出来てて、何か感動した…」
「あははは、そりゃそうだな…」
それから僕らは、改めてエレベーターに乗り込むと…以前行った、外に続く最上階の…ひとつ下の階を目指した。
そこは、まだ僕が行った事の無い場所だった。
Presidentと書いてあるそこは…総リーダーである、ウィルフリードの部屋がある階だった。
彼らに続いて、僕は恐る恐る…エレベーターを降りた。そして、辺りを見渡した。
「…」
ビックリするほどに、そこは静かだった。
長い廊下に…僕ら3人の足音が、妙に響いた。
「ここには…あの人の部屋の他には何があるの?」
僕は、カイトに訊いた。
「このステーション内を監視する、モニタールームがある…各階で何か起これば、すぐにここに伝わるようになっている」
「あの人以外にも、誰か居るの?」
「ああ…」
「それにしても…静かだね…」
そうこうしているうちに、僕らは廊下の突き当たりの、大きな扉の前に着いた。
カイトが、横に付いているボタンに手を翳して言った。
「リューイとキーファーを連れて来た」
「…」
ほどなく、扉がシュッと開いた。
開いたその先に…初めて見る人物が立っていた。
「久しぶりだね、カイト…リューイも…調子良さそうだね」
「ああ…」
2人は、軽く手を握り合った。
そしてカイトは、僕に向かって言った。
「彼はマテル…ウィルフリードの…助手って言うか、付き人って言うか…」
あーもしかして…
そう言う間柄の人…なのかな?
マテルと呼ばれた、細身の髪の長い…一見女の人のような人物は、僕に向かって手を差し出した。
「色々と大変だったみたいだね、リューイ…僕の事も覚えてない?」
「…はい…すいません」
僕は、彼の手を握り返しながら答えた。
「じゃあ、これからよろしくね…」
そして彼は、キーファーにも手を差し出した。
「キーファーも久しぶりだね…ウィルフリードがこの階に来て以来、初めてじゃない?ここに来るのは…」
「ああ…そうだったな」
キーファーも答えながら、彼の手を握り返した。
「元気そうで安心したよ…」
「おかげ様で、色んな事があったからな…」
「ウィルフリードが待ってる…行こう」
僕らは彼の後について、更に奥の扉を目指した。
「マテルは元々は、エルンと同じ…医療センターに居たんだ」
カイトが僕に教えてくれた。
「昔のウィルフリードは、しょっちゅう無茶をして、ケガが耐えなかったからね…」
マテルがふふっと笑いながら言った。
あーそっか…なるほど…
入院先の看護士さんと…っていうパターンか…
僕は心の中で…深く納得した。




