⁑ 核(コア)って何?(2)
その球体は、大きな水晶玉のようだった。
発光しながら、見ているうちにも、次々と色を変えていった。
「…すごく…綺麗ですね…」
「うん」
エルンは、その周囲でチカチカと光る、いくつもの機械を指差した。
「これは、他所のステーションからチャージしたコアを保存したり調節したりする機械なんだ」
「…はあ」
「うちのコアは、どちらかというと戦闘向きなんだよね…だから、例えば食糧になる植物や動物を育てる力が無いんだ」
「…」
「そういうのを、他所の…まさに太陽を持ってるようなステーションから分けて貰ってる」
「…」
「もちろん、うちの戦闘力と引き換えでね」
「…」
オージービーフとか、メキシコ産のかぼちゃを貰う代わりに、自衛隊を派遣する感じか?
物々交換な、輸出入取引みたいなもんなのかな…
その球体を覆った、透明なガラスのカバーの下の機械からは、何とも複雑な配線が、床下に伸びていた。
「ここから、ステーション内に、生活に必要なコアが循環していくんだ」
ああ…ガス、水道、電力とかのイメージね。
「それとは別に、このステーションのレイスは、このコアの力を、自力で身体に取り込む能力を持っているんだ…まあ、人それぞれ、強い弱いがあるんだけど」
なるほど…治癒能力とか、まさにそれなのか。
「リューイは、それが天才的に強かった」
「…」
「まあ、今でも強い筈だよ…実際、普通の回復スピードじゃないからね」
「…」
その、超人なんとかみたいな力は、この水晶玉のせいなのか…
「治癒能力ひとつ取っても、取り込む力は人それぞれで…だからこそ、その取り込む力を上げるための、器具やら薬やらを、我々医療センターが、研究開発してるってわけ」
「…他の力も、そうなんですか?」
「戦闘能力を上げるための武器とかね」
「料理するときの火加減を調節する力とかね」
「そんなのもあるんですかー!」
「ふふっ…とりあえず、他の場所も見てみるか」
「…はい」
僕らはその部屋を出ると、またエレベーターに乗った。
そして1つ上の階で止まった。
「ここはまあ、貯蔵階みたいなもんだな」
「…」
また割とだだっ広いスペースに、大きな棚がいくつも並んでいた。
少し進んで行った先に、いくつかの扉があった。
「この中で、食用の野菜が育ってる」
「…」
「こっちは食肉用の動物…あっちは水の中の生き物」
僕は、順々に…その扉についている小窓から中を覗いていった。
「なんだアレ…」
見たこともない生き物が、部屋の中をウロウロしているのが見えた。
何ていうか…大きさは豚くらいなんだが…
太ったウサギのような感じ?
もちろん耳は、そんなに長いわけではないけど…
「あんなの…食べるんですか…?」
「美味いよ、栄養価も高いし…」
何か…イヤだなぁ…
もうひとつの部屋には、大きな水槽が見えた。
そこに泳いでいるのも、見たことのない太くて長〜い感じの魚だった。
アマゾンとかに居そうなヤツだ…
あれはもしかしたら、白身で美味いかもしれない…
野菜の部屋も覗いてみた。
広い大きなプランター的な物に、色々な植物が植えられていた。
まあ緑色だから、知ってる葉野菜に近いんだろうな…
「この部屋には、太陽のあるステーションからチャージしたコアが使われてるんだ」
「…はあ」
なるほどね…
分かったような…分かんないような…
「…ふう…」
僕は大きく溜息をついた。
「これくらいにしておこうか…流石に疲れただろう?」
エルンはそう言って、僕の肩を叩いた。
「食事は…できそう?」
「…あ、はい」
うん…確かにお腹は空いてきたな。
「ずっと点滴栄養だったからな…そろそろ口から食べてもいいだろう」
「…」
でもなー
あの変な生き物とか…あんまり食べたくないよなー
僕らはまた、エレベーターに乗った。
エルンは今度は、上の方の階のボタンを押しながら言った。
「タウンに行こう」
「…」
そして、エレベーターの扉が開いた。
「…!!」
そこはまさに…街だった。
何ていうか…
ちょっと田舎の繁華街みたいなイメージか…
高い建物は無いものの、
色々な店が軒を連ねていた。
あ、わかった…アトラクションの中の…
再現された昭和の街…みたいな感じだろうか。
もちろん…昭和って造りの建物では…無かったが。
エルンは、その街並みの中をスタスタと歩いて…
とある店の中に入っていった。
「こんにちは…」
「リューイさん!」
店の店員らしい人が、僕の顔を見て、叫んだ。
「ああーよかった、リューイさん、無事だったんですね…本当によかった…」
言いながら彼は、カウンターを飛び出して、僕に駆け寄ってきた。
「今こうして僕らが、いつものように生きていられるのは、リューイさんのおかげです!本当にありがとうございました」
彼はそう言って、深々と僕に向かって頭を下げた。
「…」
僕は、ただただポカーンとしていた。
「??」
「ごめんね、リューイちょっと、記憶が混乱しちゃって…何も覚えてないみたいなんだ…」
エルンが横からフォローしてくれた。
「そうなんですか!?」
「…うん」
「じゃあ、リューイさんの好きなの作りますね、それ食べたら思い出すかもしれないですよね!」
彼はそう言って、カウンターに戻ると、
いそいそと何かを作り始めた。
願わくば…
あの変な生き物ではありませんように…