⁑日本酒再び(3)
その後ヴィンセントは、野菜の天ぷらのような物と…炊込みご飯のような物を出してくれた。
米はタイ米だったが、味はまさに僕が知ってる五目ご飯だった。
「これも一緒にどうぞ…」
そう言って出された小鉢には、漬け物に近い、酢しょっぱく味付けられた野菜が乗っていた。
もうまさに…
パーフェクトな会席コース料理だった…
「ヴィンセントさんは、本当に料理が上手ですね…」
僕は、それらをしみじみ味わいながら…郷愁の念に駆られずにはいられなかった。
帰れたらなあ…
そんな面倒な争い事にも関わらなくて済むのに…
僕はまた…ウルウルしてきてしまった。
「こんな美味いもんがいつも食べられるんなら…俺も、リューイの言うその、地球って所に行きたいわ」
僕の様子を見て、キーファーが少し笑いながら言った。
「僕も気になります!」
ヴィンセントとキーファーは、未知の地球って所について、色々と言い合いながら妄想を膨らませていた。
「カイト、おい…カイト…」
黙々と…飲み続けていたいたカイトが、突然パタッとカウンターに突っ伏してしまった。
「おい…ここで寝るなよー」
キーファーは、彼の肩を揺さぶった。
「うーん…大丈夫大丈夫…」
カイトは、目を閉じたまま…呟くように言った。
うわー
この期に及んで大丈夫とか言うか…
「カイトさんがこんなになるのは、久しぶりですね…」
ヴィンセントが言った。
久しぶりって事は…
割とちょくちょくこうなるって事か…
「あの日も…リューイさんが、こんな風に寝ちゃったカイトさんを、部屋にスッと移動させたんですよね…」
「…あの日って…?」
「あ、すいません…リューイさんが記憶を失くす前です…」
「へえー」
「って言うか…言ったら、あれが最後でした…前のリューイさんが、ここに来たのは…」
「…」
それを聞いた僕は…今日、カイトが飲み過ぎた理由が…少し分かったような気がしてしまった。
「よかったなぁ…リューイの移動能力が回復してて」
キーファーがホッとしたように言った。
「ホントだ…それが出来なかったら、背負って帰んなきゃならない所だった…」
僕は、笑いながら言った。
「酔っ払いのオッサンは、サッサと帰って寝てもらうか…」
ボヤきながら…
僕は、カイトに向かって両手を翳した。
一応ちょっと心配だから…僕の部屋にしとこう…
そして僕は、カイトの身体を…僕の部屋のベッドへと…持って行った。
何なくカイトの姿が消えていったのを見て、ヴィンセントは、ほうーっとしながら言った。
「本当に…あの日と同じです。リューイさんの記憶が無いなんて信じられません」
僕はふふっと笑った。
「でも、僕は…正真正銘の偽物です」
「そうだよなー」
キーファーが口を挟んだ。
「本物は、地球がどうとかこうとか言って、いちいち泣いたりしなかったもんなー」
「…」
何の悪気も無い、彼のその言葉に…僕はハッとした。
帰りたい…
帰りたいって思う気持ちはすごくあるけど…もし本当に帰ったら、どうなっちゃうんだろう?
この世界は…このステーションの未来は、どうなるんだろう?
僕がいなくても、攻略を止められるんだろうか…
カイトは、大丈夫なんだろうか…
カイトは…
「…!!」
更に僕は、大変な事に気付いた。
帰ったら…
もうカイトに会えなくなってしまう…!
「ごめん、リューイ…俺、言い過ぎた?」
固まって黙ってしまった僕を見て、キーファーは申し訳無さそうな表情で言った。
「あっ…いえいえ…大丈夫です…」
僕は、首を大きく横に振った。
「…ちょっと、余計な事を考えてしまいました…」
言いながら僕は、キーファーを見た。そしてヴィンセントを見た。
この2人にも…会えなくなっちゃうんだ…
もちろん、ルイスさんや…エルンにも…
「…」
僕は、グラスに残っていた日本酒を飲みながら…小さい声で言った。
「…地球に…帰れなくても…いいのかな…」
「うん?」
「僕は…この世界が…このステーションが…好きなのかもしれません…何より、ここの人たちが…」
「…」
そんな僕の言葉を聞いて、ウルウルしてきたのは、キーファーの方だった。
「リューイ…そうだよ、皆…お前の事が好きだ…偽物のリューイの事が!」
ヴィンセントも続けた。
「僕も…もちろん前のリューイさんも好きだったけど…今のリューイさんも、大好きですよ」
「カイトだってそうだ…」
「うんうん…カイトさん、今のリューイさんに、ベタ惚れですもんね」
「…っ」
僕は、うっかり顔を赤らめた。
確かに…カイトが僕の事を好きでいてくれるのは、すごく伝わってくる…
僕がこの世界に来たばっかりのときから、それは物凄く感じていた。
「ありがとうございます…」
僕は穏やかに、微笑みながら続けた。
「ここに…骨を埋めるつもりで、このステーションの未来のために、僕に出来る限りの事を…していこうと、思います」
「…」
それを聞いたキーファーは、頷きながら、僕の肩をポンポンと叩いた。
ヴィンセントほ、それぞれのグラスに日本酒を注ぎ足しながら言った。
「リューイさんがそう言ってくれてるんだから…キーファーさんも、自分の殻を抜け出さないといけないんじゃないですか?」
「…えっ」
キーファーは、ギョッとしたような顔になった。
「機械を…作ってください」
「…」
「機械だって、武器だって…本当は作れるんでしょう?」
「…っ」
「リューイさんのために…このステーションのために…キーファーさんの力が必要なんですよ!」
ヴィンセントに懇々と言い含められて…
キーファーはすっかり黙り込んでしまった。




