⁑日本酒再び(2)
「こーれは、美味しいですねー」
「だろ?」
「こんなの、ファクトリーでは作って無いですよね…どこで手に入れたんですか?」
「いつぞやの交流のときに、コッソリ掠めてきたらしい」
「物騒な事言うなって…ちゃんと円満取引で仕入れてきたんだ!」
「ああ…もしかして、色々な食品加工技術を持っていたステーションですかね…あそことの交流の度に、新しい調味料やら料理法やらが入って来るから…僕らにとっては、すごく楽しみでした」
「そうなのか?」
「今日使ってる調味料も、ほとんどそこから出回った物ですよ」
「へえーそうなんだ…」
「コレとか…」
言いながらヴィンセントは…茶色い液体の入った瓶を取り出した。
「お醤油ですか!」
「うーん…ソイソースって呼ばれてるけど…」
やっぱり醤油だ…
「そうか…皆、あのステーションに纏わる味なんだな…だから、この酒に合うのか…」
キーファーが、妙に納得したように呟いた。
豆腐にお浸しにがんも…そして照り焼き…
それらをつまみに日本酒を飲みながら…僕はまた、泣きそうになってしまった。
出来る事なら、帰りたかった。
帰れないなら、せめて…まるで日本のような文化を持つ、そのステーションと交流してみたかった…
そのステーションは、もう無いのだ…
「…っ」
そして僕は…さっきの話を思い出してしまった。
僕は隣のカイトを見た。
彼は、黙々と…飲み続けていた。
「カイト、美味しい?」
「ん?…ああ…うん」
「カイトさん、今日はホントに元気無いですね」
ヴィンセントが、心配そうに言った。
「そーだ、例の実証実験は、どうなったんだ?上手くいったのか?」
カイトの気持ちを盛り上げようと思ったか、キーファーが言い出した。
カイトは、ハッと思い出したように顔を上げた。
「キーファー、頼みがある」
「…な、何だよ」
「アレを出来るようになってくれ!」
「は?」
あーもう、何ちゅう頼み方よー
「リューイみたいに、あの音を出せるようになってくれ!」
「えええっ…そんなの無理だ…」
「リューイ1人じゃ足らないんだよ、全員にアレを効率良く聞かせるには…」
「ちょ…ちょっと待て…カイト」
前のめりに、キーファーに詰め寄るカイトの、両肩を掴んで抑えながら…彼は言った。
「とりあえず…効果はあったのか?」
「大ありだ!」
「それは良かった…そしたら…問題点と、こうなって欲しい点を、具体的に説明してくれないか?」
「…えーと…」
酔っ払いで、思考が雑になっているらしいカイトは、僕の方を振り向いた。
「お前、説明して」
「…っ」
ホントに面倒臭いオッサンだな…
思いながらも…僕は説明した。
ルイスにも効き目があったこと…
その日、部屋でじっくり集中した子にも、かなりの効果があったこと…
朝礼で全員に聞いてもらうだけでも、そこそこの効果が見られること…
「それでもやっぱり、個々に聞きながら集中するってのが、いちばん効果的なんです」
「…なるほどね…それで、リューイの他にも、アレを鳴らせる人材があったらいいワケだ」
「そうなんですけど…出来ればもっと効率を上げられないかと思うんです」
「…」
「あの…ピーッみたいな報知音を出す技術は、あるんですよね?」
「あ、ああ…」
「それと同じような原理で…アレと同じ音を出す道具とかって…難しいですか?」
「…」
キーファーは、訝しげな表情になってしまった。
僕は、更に続けた。
「そうだ、キーファーさんは、一度聞いた事を、完全に再現出来るじゃないですか!」
「あーんーまあね…」
「放置音が無理でも、キーファーさんと同じ能力を持つ道具とか…作れませんか?アレを録音して、いつでも再生して聴けるような…」
「…」
「そんな機械があって…それを戦闘部隊の全員…いや、何ならこのステーションにいる誰もが、いつでも聴く事が出来るようになったら…」
僕は、カイトに向かって言った。
「…そしたら…もしかしたら…望みがあるんじゃないですか?」
「…」
カイトは、真剣な表情で頷くと、キーファーの方を見て言った。
「そういう事だ…」
しばらく黙って考えていたキーファーは、日本酒をグイッと飲みながら、静かに言った。
「…俺は、機械は作らん…」
「…」
やっぱりな…
「…そうですよね…それは、キーファーさんの職人ポリシーに反しますよね…」
僕は、溜息をつきながら言った。
「…」
「でも…僕は…欲しいなぁ…」
ヴィンセントが、口を挟んできた。
「えっ?」
「その…難しい事は分かりませんし、訓練とは関係ないかもしれませんけど…」
ヴィンセントは、若干恐縮した感じで…でも、キッパリと言った。
「リューイさんが出す音は、とてもステキじゃないですか…単純に、あれをいつでもどこでも聞く事が出来たら…どんなに良いだろうなーって、思います!」
「…」
それを聞いたキーファーは…黙って考え込んでしまった。
「余計な口出ししてスイマセン…」
ヴィンセントは、少し慌てた様子で、続けた。
「まあ、その話はそれくらいにしときませんか?…キーファーさんの、その美味しいお酒に合いそうな物が、もう少し出る予定ですから…」
「そうだな…面倒な事言って、悪かった…とりあえず、気にしないでくれ」
カイトはキーファーに向かって、そう言った。
「分かった…とりあえず、持ち帰って検討はさせてもらうよ」
「本当か…それで十分だ…ありがとう」
そう言いながら…2人は改めて乾杯した。
「…無くなっちゃいましたね…」
カラになった日本酒の瓶を持ち上げて、ヴィンセントが言った。
「ええー?」
カイトとキーファーは、残念そうに声を上げた。
「もう1本、持って来ましょう」
しれっとそう言って、僕はまた…例の倉庫から、日本酒をもう1本…今度はとても楽チンな感じに、ポンッと出した。
「おいおいリューイ…勝手に持ってきちゃダメじゃないか」
そう言うキーファーに向かって、僕は言った。
「え、何言ってんですか…僕だけの力じゃ持って来れませんよ」
「…」
「持ってきて欲しいーって、イチバン思ってたじゃないですか…キーファーさんが!」
「…」
彼は何も言い返せず…テヘッて感じに笑った。




