⁑日本酒再び(1)
すっかり気が重くなってしまった僕らは…リサーチ階を後にして、タウンに向かった。
「今日はキーファーも来るから」
「…そうなんだ」
カイトは、少し考えてから、続けた。
「ちょうどいいな、キーファーに相談してみるか…」
「何を?」
「実証実験では、一応成功だったんだろ?」
「んーまあ…」
「戦闘部隊、全員パワー底上げプロジェクト…あいつなら、何か良い道具を作ってくれるかもしれない」
アイポッドとかあると良いんですけどね…
それか、せめて…ラジカセでもいいから…録音再生機能があるやつ…
でも…あの人基本、一点物が専門ぽいからな…
大量生産は…例え出来たとしても、好んで作ってはくれないかもしれないよなー
そんな事を考えているうちに…僕らは、ヴィンセントの店に着いた。
「お疲れ様です!」
いつものように、ヴィンセントが元気な声で、僕らを迎えてくれた。
カウンターに…既にキーファーが座って、エールを飲んでいた。
「あ、もう来てたのか…」
「お疲れーどうよ、調子は」
「最悪だ…」
溜息をつきながら…カイトは彼の隣に座った。
僕も、その隣に腰掛けた。
「エールでいいですか?」
「うん…」
ヴィンセントは、すぐにエールを2つ出してくれた。
とりあえず乾杯すると…カイトは、それをゴクゴクと…ジョッキ1杯を、ほぼ一気に飲み干した。
「何が最悪なんだ?」
「…それは…まだ言えない」
あ、何…まだ言っちゃダメなのねー
「今日はキーファーさんが来るって言うんで、これを用意しました」
そう言いながら、ヴィンセントは…小皿に乗った、白い四角い物を出してきた。
「…!!」
僕は、それにも…とても見覚えがあった。
「お豆腐ですか!?」
「おとうふ…?」
「そうそう、偽物リューイはね、こっち系の食い物に妙に詳しいんだよな」
キーファーが笑いながら言った。
「その、おとうふかどうかは分かりませんけど…大豆を茹でて潰して…固めた物です」
「…」
僕はそれをひと口食べてみた。
「…美味しい」
やっぱり豆腐だった。
しかも手作りなもんだから…それはそれは、濃厚で美味しい豆腐だった。
「ヴィンセントさんスゴいです…こんなに美味しい豆腐は、地球でも食べた事がないです!」
「…ちきゅう…?」
「偽物リューイが、前に住んでた星らしい…」
カイトが投げやりな口調で言った。
ペース早めの彼は、既に酔っ払ったらしい
続いて、青菜をお浸しにしたような物と、がんもと大根を煮たような物が出てきた。
「魚も…今日はこんな感じにしてみました」
「…っ」
おそらくは、あの魚なんだろうけど…それはまるで、鰤の照り焼きのように、茶色く照り照りに焼かれていた。
「今日は…完全に和食ですね…」
僕は、目をキラキラと輝かせながら言った。
「わしょく?」
ヴィンセントは、またも目を点にさせて聞き返した。
「あっ…そうだ、キーファーさん、こないだの日本酒…まだありますか?」
僕はふと、思い出して言った。
「…あるけど?」
「今日の料理は…絶対、日本酒です!!」
「そうなの?」
「持ってきてください!」
「えー俺、そーいうの出来ないから…」
「リューイにやらせたらいい」
酔っ払いカイトが、エールを更にゴクゴク飲みながら、しれっと言った。
「…具体的にイメージ出来ないと動かせませんよ」
いくら楽に動かせると言っても、どこにある、どんな形の物なのか…自分が全く分からない物を動かした事は無かった。
「キーファーにイメージしてもらったらいい」
「…」
もうー酔っ払いおっさんはテキトーだなー
そんな事…出来るのかな…
試しに…僕は席を立って、キーファーの隣に行った。
そして、彼の手を握った。
「キーファーさんの所にある、日本酒を…思いっきり思い浮かべてもらえますか?」
「…や、やってみる…」
彼は若干戸惑いながらも…僕の手を握り返して目を閉じた。
僕は、彼の手から伝わる…彼の頭の中のイメージを、必死に追ってみた。
「…」
あ、見えてきた…
彼の工房の…おそらく奥の方にある倉庫のような場所に…こないだ出してくれた日本酒の瓶が、まだまだ沢山並んでいる風景が、僕の頭に浮かんできた。
「何だ、まだまだいっぱいあるんですねー」
「…っ」
キーファーは、何とも言えない表情になった。
僕は、そっと彼の手を離すと…今度はカウンターに、自分の手を翳した。
僕のその両手から…ユラユラと光が湧き上がり…それは段々と、形になっていった。
「おおおー」
「すごい!」
シュウ〜ッと光が消えていくと同時に…そこに、日本酒の瓶が、現れた。
「…出来ましたね…」
「そら見ろー」
酔っ払いカイトは、また…ウチの子すごいでしょ…みたいな表情をしていた。
そんな彼を見て、僕はクスッと笑った。
「これ、どうやって飲んだらいいんですか?」
その瓶を手に取ってしみじみ見ながら、ヴィンセントはキーファーに訊いた。
「何か、小さめのグラスある?」
「…コレとかでいいですか?」
彼は、小ぶりのグラス…よく瓶ビールと一緒に出てくるような、シンプルなグラスを取り出してきた。
「お、いいよ、それで…」
キーファーは、日本酒の瓶の栓を開けると…4つ並んだグラスに、順々に注いでいった。
「カイト…何が最悪なのかは知らないけど…とりあえず今日の所は、コレで元気だせ」
言いながらキーファーは、グラスをカイトに手渡した。
「…そうだな」
そして僕らは、乾杯した。
カイトだけじゃない…
僕も、あんな話を聞いて…心中穏やかでは無かった。
ま、そのときの僕には、まだまだ漠然としていて…
ゲームの中のストーリーくらいにしか認識出来ていなかったのだけれど…




