⁑試作品(3)
やがて、キーファーの手元の光が、段々と消えていった。
「ふうー」
彼は、腕で額の汗を拭った。
「こんな感じか?」
「…!!」
おおおー!!!
そこに現れたのは、まさに僕が描いたギターそのものの形をした物体だった。
「キーファーの、見たものを創る能力が、最高にパワーアップしたな…」
カイトは、ほうっとして呟くように言った。
キーファーは、それを僕に手渡した。
僕はそれを受け取り…椅子に座ってチャラーンと鳴らしてみた。
「…すごい…」
それはまさに、ギターの音だった。
僕はすぐに、ペグを回して、チューニングを合わせていった。
キーファーは椅子に座ると、エルンが注いでくれたワインをグイッと飲み干した。
「うん…美味いけど…これは、コレじゃないなー」
彼は立ち上がって、また奥へいくと…ちゃんとしたワイングラスを4つ持ってきた。
うんうん…
色んな意味で、キーファーさんは流石だ…
改めてワインを味わいながら…彼らは、僕がペグを回している様子を、興味深そうに眺めていた。
何とかチューニングは合った。
ただ…フレットレスだからな…上手く弾けるかどうか…
僕は、何となくな感じで、コードを押さえてみた。
チャラーン…
「おおー何か良い音だな…」
「それで何かやってみせてくれよ」
僕は、グラスのワインをひと口飲んで…
そして、例の十八番な曲を、弾き語ってみせた。
「…」
彼らはシーンとして、聞き入っていた。
「すごいな、リューイ…」
「声だけでも感動したのに…その道具が加わると、また一層良い感じになるな…」
「…」
キーファーに至っては、感極まった表情で、言葉を失っているように見えた。
「それにしてもキーファーはすごいな…」
「ああ…だってそれ、リューイの言う所の、地球にしか無い道具なんだろ?」
「それを、作れちゃうんだからなー」
カイトの言う通りだ。
僕の無茶な注文に、キーファーさんは、しっかり応えてくれた。
「ありがとうございました…」
僕は彼に言った。
「いや…礼を言うのは俺の方だ…」
やっとキーファーが口を開いた。
「俺は…とにかく、こういう物を作りたいんだ…唯一無二の、その持ち主に寄り添える物を…」
「…」
「しかも…お前のおかげで、納得のいく力を出せた」
「…」
「ありがとう…リューイ…」
「よし、早速ルイスの店で、皆に披露しよう!」
「いや、訓練で皆に聞かせる方が先だろ?」
「とりあえず、もっと何かやってみてくれよ」
カイトとエルンが、また賑やかしく喋り始めた。
元々ギターはあまり得意では無かったし…何せフレットレスなので、僕の演奏は…相当辿々しかっと思う。
ヒロが聞いたら、笑うだろうな…
拙い感じで弾き語る僕の歌もつまみに、彼らはいつまでも、飲み続けていた。
調子の上がったキーファーは、たまに「あー」とか「うー」とか、一緒になって声を出してみていた。
不思議だな…
地球では、子どもの頃から、普通に誰もが歌っているのに…
ここの人達にとっては、そんな風に声を出す事さえ難しいなんて…
思いながら…僕は、その時間をとても楽しんでいた。その日の飲み会は、なかなか終わらなかった。
さすがに、そろそろお開きにするかっていう流れになった所で、僕はキーファーに言った。
「明日これ、お借りしていってもいいですか?」
僕は、グラス製の試作品を指差して、続けた。
「一刻も早く、カイトの言うところのコアパワー増強に本当に効果があるのか試してみたいんです!」
「うーん…試作品を実践に使われるのは、何となくスッキリしないけどな…まあ、教習機関ならいいか…実証試験って事で」
「なるほど…そうだな、あそこの子達は伸びしろがいっぱいあるから、いい実験対象になるな」
カイトも言った。
「とりあえずコレは持って行って構わないよ」
「ホントですか!ありがとうございます」
「これ方式も、もう少しスマートな形にしたいからな…もうそれは要らない」
えーそうなのか…勿体ない
この世界で初めて作られた楽器〜って…将来プレミアがつきそうな気がするけど…
「じゃあ…」
と、それを両手で持ち上げようとした僕に向かって、カイトが言った。
「お前…まさか、持って行こうとか…思ってんじゃないだろうな」
「えっ?」
他にどうしろと…?
カイトは、僕を見て…ニヤッと笑った。
「持って行けよ…」
「…」
「…俺の事も、持って来れただろ?」
「…あっ」
そーいうことかー
「酔っ払ってますけど…出来るかなあ…」
「おおー飛ばせるようになったのか?」
「こないだなんか、前みたいに俺を飛ばしたからな」
「へえー」
「だって元々…ステーションごと飛ばせたんだろ?」
「そーだ、それに比べたら簡単だよなー」
ちょっと外野…黙っててもらえないかなー
思いながらも…
僕は目を閉じて…自分のコアに集中した。
「俺が歌ってやろうか?」
更にキーファーが、冗談混じりに笑いながら続けた。
「静かにしてください!!」
思わず僕は大声でビシッと言ってしまった…
「…」
「…」
ようやく静かになったので…
やっと集中に集中できた僕は、先日ルイスに言われた事を思い出しながら…それを自分のコアの中に取り入れていった。
もちろん…メロディーを思い浮かべながら…
僕の頭のコアの中に、いっぱいになっていくのと同時に…その楽器は、徐々にユラユラとした光に包まれていった。
「…っ」
そして、それはやがて…陽炎のように揺らめきながら、姿を消していった。
「おおおー」
「飛ばせたな…」
我慢して黙っていた3人は、感嘆の声を上げながら、パチパチと大きな拍手をした。
「ふうー」
僕は大きな溜息をついた。
「じゃあ、またな…」
「ああ、ご馳走様」
僕らを見送りながら、キーファーが言った。
「それにしても…リューイがあんなに、おっかない言い方するとはなー」
僕は、特に気にする事もなく、笑いながら答えた。
「だって、偽物ですもん」
「…そうだった」
彼は笑いながら…僕らに向かって手を振った。




