⁑もうひとりの職人
交流の翌日…いつもの訓練を終えた僕は、カイトに連れられて、工房階を訪れた。レオとジョシュアも一緒だった。
その日の工房階は、いつになく賑わっていた。
交流によって、攻撃力、守備力のコアが刷新されるため、自分の武器や道具を、いち早く改良させたいと思う者たちが、早速それぞれ御用達の店を訪ねているらしい。
まあ、御多分に洩れず…僕らもこうして、自分の武器を持ってやってきた訳なのだが…
レオとジョシュアは、途中のとある店に入っていった。きっとそこには、彼らの担当さんがいるんだろう…
カイトと僕は、もう少し先の…また何とも小さい店…(いや、店と呼んで良いのかも、まだ分からないのだけど)
普通に歩いていたら見過ごしてしまうような、隠れ家的な店の暖簾をくぐった。
店内は、とても暗く…他にお客さんは居なかった。
「おーい、カジミアー居るかー?」
カイトが声をかけた。
と、奥から…黒づくめの人物が、ノソノソと出てきた。
「調子はどう?」
「…特に、何も変わらずです」
カジミアと呼ばれた人物は、キーファーのような頑固職人っていう感じではなく…何と言うか、引きこもりの青年の様な雰囲気だった。
細身で、顔色もあまり良くない感じに見えた。
彼は、店の奥に僕らを誘った。テーブルを挟んで、僕らは座った。
「昨日のコアはどうだ」
「なかなか良いですね…色々いじり甲斐がありそうな感じですよ」
カイトは、自分の武器…ソードと言うよりは、短めの槍のような物を、テーブルの上に置いて言った。
「もうちょっと改良出来るか?」
「もちろん」
それを聞いて、僕は思わず身を乗り出すようにして、彼に訊いた。
「もしかして…これは、貴方が作ったんですか?」
「…?」
カジミアと呼ばれた人物は、今更何言ってんの?みたいな表情で、僕を見た。
「ああ…お前には、まだ言って無かったっけ?リューイの事…」
「噂では…聞きましたけど」
彼は、マジマジと僕の顔を見た。
「本当に、何も覚えてないんですか?」
「…はい、すいません」
「でも、お前のソードのおかげで、完全に感覚を取り戻してたからな」
「…」
「…はい…このソードが…僕の力を引き出してくれました」
僕は、ソードくんを両手で大事に包みながら言った。
「…」
カジミアは、何か思うところがあるかのように、しばらく黙って考え込んでいた。
「まあ…言ったらそれは、リューイの身体の一部ですからね…カイトのも、ですけど」
「…身体の一部…って、どういう意味ですか?」
「それは…企業秘密です」
「とにかく、カジミアが作る武器は、他の誰のより…身体に馴染むんだ」
「…持ち主を選びますけどね…実際、レオとジョシュアは、残念ながらウチの顧客にはならなかったし」
カジミアは言いながら、カイトの槍を手に取った。
「それも、リューイのやつみたいに、1度に何本も発火するように出来るのか?」
「…?」
彼の動きががピクッと止まった。
そしてカジミアは、カイトの槍をテーブルに戻すと、僕に向かって手を差し出しながら言った。
「ちょっとそれ…貸してくれます?」
僕は黙って、ソードを彼に渡した。
「…!?」
それを受け取った途端…彼の顔色が変わった。
「どうした?」
カイトが訊いた。
「違う…」
「えっ?」
「いや、違わないんだけど…変わってる…」
彼は、それをさすったり、ひっくり返して見たりしながら続けた。
「何本も出せるように…なんて、作っていない…」
「…そうなんですか?」
「どんなだったんですか?…昨日…」
僕は、昨日の事を思い出しながら言った。
「僕の感覚では、ソードくんが、まるでオートチャージしていくように、勝手に僕の力を引き出していきました…」
「何本も…っていうのは?」
「たまたま見えた導線が、複数だったときに…瞬間的にそれらを纏めて意識したら…勝手にそれ全部に、飛んで行った感じです…」
「…ふうーん」
カジミアは、少し嬉しそうに…ソードをテーブルの上に置いた。
「ありがとう、リューイ…」
「えっ…」
「持ち主との信頼関係で、どうにでも育って進化していく物を、僕は作りたかったんだ…」
「…」
「君が…立証してくれました」
「…」
「えっ…じゃあ俺は、まだコイツに信用されて無いって事か?!」
カイトが、何だよっていう感じで叫んだ。
「あははは…カイトは自信家ですからね…どっかで俺が使ってやってるって意識が働いてるんじゃないのかな…」
「…」
「リューイみたいに、心の底から信頼してくれないとね…何せ身体の一部だから」
「そうなのかー」
「とりあえず、新しいコアで底上げはしておきます…」
カイトは、自分の槍を手に取ると、それを撫でながら言い出した。
「今まで…散々こき使って悪かった…でも、何度もお前に助けられた…」
「…っ」
そんなシオらしい彼の姿を見て…僕もカジミアも…思わず吹き出しそうになった。
カイトは構わず続けた。
「今まで本当にありがとう…これからもよろしくお願いします…」
彼の槍が、心無しか…キラッと光ったように見えた。
「でも…皮肉なもんですね…」
カジミアが呟くように言った。
「リューイが記憶を無くさなければ…コイツがこんなに進化する事は無かったでしょうに…」




