⁑ヨハンの店(2)
パチパチパチパチ…
3分間くらいだっただろうか…
その人物の朗読が、終わった。
僕らを含めて、他のテーブルの客も、拍手をした。
その人物は、礼をして、また自分のテーブルに戻っていった。
ヨハンが僕らのテーブルに来た。
「で、何の話だっけ…」
「リューイさんにも、ここで歌をやってもらいたいんです」
「うた?」
「俺からも勧める、聞いてみて欲しいな…」
「読むのとは違うの?」
「違う違う!もっと、すごく素敵なんですよ!」
「何だかよく分からないな…とりあえずやってみる?今、人も少ないし…」
「うんうん、僕もまた聞きたいです、お願いします!」
「やってみろよ、リューイ」
そこそこ酔い進まった感じのカイトも言った。
「…」
ちょっと…いや、かなり緊張するな、これは…
少ないと言っても、知らないお客さんがいるのは事実で…彼らはみんな、音楽や歌を聞いた事ないんだろう?
そんな環境で…
果たして僕は、歌を歌えるんだろうか…
さすがに、なかなか覚悟が決まらなくて、しばらく考えていた僕の頭に…ふと、ある事が思い出された。
「エルンさん」
「ん、何?」
「あの…僕の髪型を、変えてもらえませんか?」
「はあ?」
「こないだエルンさんがやってみてくれたみたいに…」
「…いいけど…」
エルンは、僕の頭に手を翳した。
「どんな風にしたいの?」
「…女の人みたいに、長い髪にしてください」
「…おんなの…人?」
「…」
そこで僕は、ハッと気付いた。
この世界に来て、僕はまだ、女の人を見ていない!
「…」
女の人が分からないらしいエルンは、それでもそれなりに…僕の髪を長くしてくれた。
「こんな感じかな…」
「リューイさん、似合いますねー」
「ほおーいいね、ステージ映えしそうだ」
「うん…いいんじゃない?」
LIVEのときは、メイクをしてウィッグをかぶる事で、自然にテンションが上がって、緊張を乗り切る事が出来た。
僕は、エルンに髪型を変えてもらう事で、何とかこのドキドキを誤魔化せないかと、思ったのだ。
見た目を褒められて…
少しだけ僕のテンションが上がった。
僕は、立ち上がり…ステージに上がった。
パチパチパチパチ…
チラホラと拍手をしてくれる他のお客さん達に、一礼をすると、僕は大きく深呼吸をした。
そして、歌い出した。
昨日と同じ…あの曲を…
「Amazing grace how sweet the sound
That saved a wretch like me…
I once was lost
but now am found
Was blind but now I see…♪」
昨日は、1コーラスで終わりにしたが…今日は折角なので、1つキーを転調して、アドリブでメロディーも少し変えながら、同じ歌詞で、もう1コーラスを歌い上げた。
「…Was blind but now I see…♪」
そして最後に、静かな感じで、もう一度…そこを繰り返した。
「…」
「…」
店内は、静かさに包まれた。
僕は、目を閉じて…客席に向かって頭を下げた。
パチパチパチパチ…
拍手が沸き起こった。
座っていた他所の人達が、次々に立ち上がり、大きく拍手をしてくれた。
「…何なんだ、これは…」
半ば呆然と…魂を抜かれた様な表情で、ヨハンが言った。
「ね、すごいでしょ!リーディングの何倍も、聞いてて気持ち良いですよね!」
ヴィンセントが、またも目をウルウルさせながら、捲し立てた。
「ありがとうございました…」
顔を上げた僕は、最後にそう言い残して、そそくさとステージを下りた。
元の自分の席に座ると、すぐに、飲み残したエールを、ゴクゴクと飲んだ。
「ふぅー」
「とても良かったよ、リューイ…昨日もすごいと思ったけど、今日は更に良かった」
エルンが言った。
「うんうん、僕もそう思いました!」
「…ありがとうございます…」
言いながら僕は、チラッとカイトの方を見た。
彼は、何というか…とても誇らしげな顔をしていた。
ウチの子、凄いでしょ…みたいな?
それを見て、僕はクスッと笑った。
エールのおかわりを運んできたヨハンが、改めまった感じで僕に言った。
「いやあリューイ、ありがとう…良いものを聞かせてもらった」
「あ、いや…あんなんで、大丈夫でした?」
「最高だったよ…何て言ったっけ…」
「歌です」
「うたね…うた、是非またやってもらえないかな…もっと人が集まる日に」
「あーはい…練習しておきます…」
それから僕ら…いや僕っていうか、主に彼らは…歌の話やら、想像の中の地球の話やら…はたまた僕のパワー回復の話やらで、散々盛り上がっていた。
エールもまた、何杯もおかわりしていた。
「そう言えば、もうすぐ次の交流でしたよねー」
何の気無しに、ヴィンセントが言った。
「あーそうだった…」
「えっ…そうなんですか!?…いつ?」
「えーとー」
カイトは、酔った頭で…一生懸命に思い出そうとしていた。
「明日の次だな…だいたい30時間くらい先だー」
同じくらい酔っ払いの、エルンの方が先に思い出して、言った。
「そーか、明日はガッツリ訓練するぞー」
「えっ…」
「あすことの交流は、稀に邪魔が入るからなー」
「…」
何ですか…その、邪魔って…
とても嫌な予感しかしないんですけど…
「まーリューイが居れば問題無いさー」
「そうだな…ははははっ…」
カイトとエルンは…何事も無いように、言いながら、エールを飲んだ。
「…」
いやいや…
今のリューイは、ただの歌うたいですから…
問題大有りですよ!
おっさん達、分かってないでしょー




