⁑ヨハンの店(1)
その日、体育館を後にした僕らは、真っ直ぐにタウンに行った。
「お疲れ様ー」
ヴィンセントの店に入ると、既にエルンが、先に1人でエールを飲んでいた。
「腹減ったな」
「はい」
「今日はカイトさんの好きなのありますよー」
そう言ってヴィンセントは、とりあえずエールを2つ出すと、サクサクと料理の仕上げに取り掛かった。
「お疲れ…リューイの調子はどう?」
エルンが聞いてきた。
カイトは、エールをゴクゴクと…半分くらい飲んでから答えた。
「明日から完全復帰だ」
「ホントに?すごいじゃない」
「見せたかったよ、リューイの連射…前と変わらない速さだった…俺の方が追いつかないくらいだった」
えっ…そうだったんですか…
だったらもっとゆっくりで良かったのにー
「そうかー明日、見学に行くか…」
「はい、お待たせしましたー」
ヴィンセントが、僕らに料理を出した。
「…これは…!」
「お、ホントだ」
それは…どう見ても、ラーメンだった。
赤い濁ったスープに、黄色い太めの麺が入っていて、上にキャベツともやしに見えるものが乗っていた。
「ラーメン…ですよね?…これ…」
「ラーメン?」
「何だ、地球にもある食べ物か?」
「はい…限りなく似てる物がありました」
僕はそれを、ひと口啜ってみた。
うん、まさにラーメンだ
辛口豚骨って感じの味…
「美味い!」
既にエール2杯めに突入したカイトが言った。
「リューイさん、どうですか?」
「すごく美味しいです!」
「辛さはどうですか?」
「はい、ちょうど良い辛さです!」
ヴィンセントは、ニコッと笑って言った。
「やっぱり、食べ物の好みは変わってないですね…」
そうなんだ…
本当に、ビックリするくらい僕好みの辛さだった。
「ちなみにカイトさんの方は、倍辛いんですよ」
「えええーっ」
よくよく見てみると、確かにカイトの方が、僕のスープより赤かった。
「エルンさんは、辛いの苦手だから、唐辛子無しです」
…やっぱり、唐辛子って呼ぶんだ…
過酷なカイトの訓練の後で、すっかりお腹が空いていた僕は、辛美味しいラーメンを、ガツガツ食べてしまった。
カイトも、汗をかきながら…完食した。
「じゃあ、ヨハンの所に行こうか」
「行きましょう」
ヴィンセントは、僕らの食べ終わったどんぶりを片付けて、出掛ける支度をした。
そして僕らは、揃って店を出た。
その、ヨハンさんとやらの店は、そこから5分間くらい歩いた先だそうだ。
道中、似たような店がたくさんあった。店の中にも外にも、たくさんの人が居た。
まさに…タウンは、日本の繁華街によく似ていた。
ヨハンさんの店は、そんな繁華街の…ちょうど突き当たりだった。パッと見…ヴィンセントの店の何倍も大きかった。
僕らは、ドアを開けて中に入った。
「おう、ヴィンセント…エルンも久しぶり、調子はどう?」
「うん、元気にやってるよ」
「ご無沙汰だったね、ヨハン」
エルンは、ヨハンと呼ばれた人物と握手を交わした。
ヨハンは…何と言うか、まさにライブハウスのオーナーっぽい、長髪の青年だった。
「こちらは初めてだね…もちろん、一方的に存じてはいるが…」
「初めまして」
カイトも彼と握手をした。
「カイトと…君はリューイだね」
ヨハンは、僕にも手を差し出した。
「…」
僕はペコっとお辞儀をして、彼の手を握った。
「その節はありがとう、リューイ」
「…?」
「リューイさんは、記憶を無くしてしまったんですよ」
ヴィンセントが彼に説明した。
「そうなのか…それは大変だったね」
「でもね、その代わりに…とても素敵な事が出来る様になったんですよ、今日はその話をしに来たんです」
他の数組の客の間を通り抜けて、彼は僕らを、奥のテーブルに案内した。
そのテーブルのすぐ横に、少し段が高くなったステージの様なスペースがあった。
「何飲む?エールでいい?」
「はい、エール4つでお願いします」
ヨハンがエールを注いでいる間に、ヴィンセントが僕に言った。
「ほら、ここで、リーディングセッションをやってるんですよ」
「そうなんですね…」
「リューイさんも、是非ここで、歌をやってみませんか?」
「…」
僕は、そのステージを見渡しながら言った。
「…でも、楽器が無いですよね?」
「楽器?」
「ああ、キーファーが作ってくれてるやつだろ?」
「へえーそうなの?」
エルンが意外そうな顔をした。
「昨日、ウチでやってくれたみたいな感じで良いと思いますよ」
アカペラかー
「お待たせー」
ヨハンが、僕らのテーブルに、エールを4つ置いた。
僕らがそれを飲んでいると、他のテーブルに座っていた人物がヨハンを呼んだ。
そして、二言三言交わすと、その人物は、何やら本を持って、ステージに上がった。
「ほら、こんな風に、詩や物語を読むんだ」
エルンが小さい声で僕に説明した。
ステージに上がった人物は、声を出して…その持っていた本を読み始めた。
「…」
それは残念ながら…
上手い!って感じでは、無かったが…




