⁑タウン再び(2)
そのあと出された魚のフライも、
とても美味しかった。
ヴィンセントは、僕のために開けたスパークリングを、一緒にときどき飲みながら、酔っ払い親父の面倒くさい絡みを受け流していた。
それはまさに…
地球は日本でも、よく見かけるような光景だった…
「おかわりくれる?」
「大丈夫ですか、カイトさん…明日も訓練なんでしょう?」
「あー大丈夫、大丈夫…」
もう絶対、大丈夫じゃない感じじゃん…
カイトにこんな意外な一面があったとは…
僕はついつい、クスッと笑ってしまった。
ヴィンセントは、カイトにおかわりのエールを出しながら、僕に言った。
「こうしてると、リューイさんが記憶が無いっていうのが信じられません」
「いつも、こんな感じだったんですか?」
「はい、よく3人で来てくれてましたよ…やっぱり2人が語り合ってるのを横目に、リューイさんは、ずっと静かに飲んでる…っていうか、食べてる事が多かったです…」
「この、エールやスパークリングは、ここで作ってるんですか?」
「そうですよ、飲み物も…ここで使う調味料や、ストアにある自分で調理できる物も、みんなフードファクトリーで作っています」
…また、知らない階の話だ。
「アルコールを飲む習慣があるって事に、驚きましたよ…」
それを聞いたエルンが、話に割って入ってきた。
「地球人もアルコールを飲むのか?」
「はい、色んな種類の…国によって特徴のあるアルコールがありました」
「エールも?」
「はい、エールはイギリスっていう国のお酒だったなあ…日本では、似たような…ビールってのが主流でしたけど」
「へえー」
エールと言い、スパークリングと言い…
それぞれの階の呼び名と言い…
ここは若干、英国っぽいかもしれない。
…でも、日本語が通じてるってのは、やっぱり不思議だな…
もしかしたら、リューイの身体に、自動翻訳機能が備わっていて、それが勝手に作動しているのかもしれないけど…
「歌を知ってるか?」
「うた?」
「歌はいいぞー」
酔っ払いカイトが、エルンに熱く語り始めた。
「リューイ、ちょっと聞かせてやれよ」
「えええーっ」
「何ですか?その…うたってのは…」
ヴィンセントも身を乗り出してきた。
「いや、だって…こんな所で、そんな喧しくしたら迷惑でしょう…」
「大丈夫、大丈夫…」
出た
全然大丈夫じゃない「大丈夫」…
「大丈夫ですよ、聞かせてください」
「うんうん…」
あーもうーみんな酔っ払いだよー
「…しょうがないなあ…」
僕は、小さく咳払いをしてから、背中を伸ばして姿勢を正した。
そして…十八番のやつを歌い始めた。
英国ビールの世界だから、おそらくきっと、英語の歌なら…通じるのではなかろうかと…
「Amazing grace how sweet the sound
That saved a wretch like me…
I once was lost
but now am found
Was blind but now I see…♪」
「…」
カイトは、じっと目を閉じて…穏やかに微笑みを浮かべながら、僕の歌に聞き入っていた。
「…何なのそれ…」
エルンは…おそらく生まれて始めて聞いた、その「歌」っていうものへの驚き…そして心地良さに、戸惑っているかのように見えた。
ヴィンセントに至っては、目に涙を浮かべていた。
「何だか分かりませんけど…リューイさんの声というか音が、素晴らし過ぎて…」
「うん…何だろうな…この…心に沁み渡ってくる感じ…」
「な、な、良いだろ…」
「それも…地球の文明なのか…」
「文明っていうほど大袈裟な事じゃないですよ…だって、声さえ出せれば、誰でも歌えるんですから…」
「俺には出来ない」
カイトがキッパリ言い切った。
あははは…恥ずかしがり屋さんだからね
「みんなに聞かせてやりたいな…」
「ですよね、みんな感動すると思います!」
ヴィンセントは、少し考えてから言った。
「この先に、僕の仲間がやってる、もう少し広いレストラントがあります。そこでは時々、リーディングセッションをやっているんですよ」
あ、やっぱりレストランって呼ぶんだ。
リーディング…って事は…朗読か。
朗読の文化はあるのか…
「よかったら、そこでやってみませんか?」
「えええー」
「ああ、ヨハンの所?」
「そうそう…」
うわあー何かもう、めっちゃ芸術家…
ってか、音楽家っぽい名前じゃないですかー
「よし、何ならこれから行ってみるか!」
勢いづいたカイトが言い出した。
「いいね、行こう行こう!」
酔っ払いエルンも同意した。
「…」
僕はふぅーっと溜息をついた。
そして冷静に…キッパリと言った。
「今日はもうダメです!エルンもカイトも飲み過ぎです!明日にしてください!」
「…」
「…」
おっさん2人は…シュンとしてしまった。




