⁑地球を語る
「そうだ…エルンに呼ばれていたんだっけ…」
気を取り直して、僕は顔を上げた。
カイトは、とても心配そうに僕を見つめていた。
「…とりあえず俺は戻るよ…ご期待に添えるよう頑張ってみる…ちなみに、数と音は、コレと同じで良いんだな?」
「…あ、はい」
「もう1回…ハジから鳴らしてくれる?」
僕は、言われるがまま…ハジから半音ずつ、それを鳴らしていった。
「ここから繰り返しか…」
彼は、ちょうどオクターブに差し掛かった所を指差して言った。
「…っ!…そうです!」
すごいな、音楽を知らないくせに、音程は分かっちゃうんだ…
「なるほど、わかった…」
そう言い残して、キーファーは部屋を出て行った。
彼を見送った僕は…涙を拭いながら言った。
「医療センターに行くね、何階だっけ…」
「…一緒に行くよ」
カイトが言った。
「…ありがとう…でも、大丈夫…」
「いや、行く」
カイトはキッパリそう言うと、また僕の手を取った。
そして、扉の方に向かった。
「…」
「お前がリューイじゃないってのは、よく分かった」
カイトは、小さい声で言った。
「それでも…俺はリューイが…いや、お前が好きだ」
「…」
「リューイじゃないお前も引っくるめて…俺のリューイだと思っても…いいのか?」
「…」
僕は…黙って頷いた。
カイトは、僕の手をグイッと強く引いた…
僕はその勢いで、カイトの胸元にドサっと倒れ込んでしまった。
そのまま彼は、僕の背中に手を回すと…
僕の身体を、力強く抱きしめた。
僕は、胸の辺りがキュンとなって…心臓がバクバクと高鳴っていくのを感じた。
そして僕は、彼の胸に顔を埋めたまま…
囁くように言った。
「…ありがとう…カイト…」
ほどなく、彼は僕を抱きしめている腕を緩めた。
「もうちょっと俺を注入しとくか…」
そう言いながらカイトは、
僕の顔を両手で押さえた。
「…っ」
そしてまた、僕はくちびるを塞がれた。
「…んんっ…」
まさに注入するように…カイトは僕の口の中に、激しく舌を挿れてきた。
それに反応して…僕の目の中のコアが、じわじわと熱を帯びながら、光り輝いていった。
彼はそっと口を離して言った。
「もう、謝らなくてもいいよな…」
「…」
僕は、顔を真っ赤にして…
また…小さく頷いた。
そして僕らは、手を繋いで部屋を出た。
「エルン…リューイを連れてきた」
医療センターの、エルンの部屋の前で…ボタンに手を翳しながらカイトが言った。
中から扉が、スーッと開いた。
「どうぞー」
僕らは中に入った。
僕は、手を離そうとしたが…カイトはそのままギュッと力強くボクの手を握って離さなかった。
そんな僕らの様子を見て、エルンは言った。
「リューイ、思い出したのか?」
「…いや…」
カイトがしれっと答えた。
えっ、何…前からいつもこんな、公衆の面前でもラブラブだったんですか…この人達は…
エルンは、僕を椅子に座らせた。
「とても調子が良さそうだね」
言いながら彼は、僕の腕に機械を巻き付けた。
「…!!!」
そこに現れた数値を見て、エルンは目を丸くした。
「何て事だ…物凄く上がってる…以前のリューイの数値を超えてる…」
「…」
「本当か?」
「ああ…ほら」
カイトもその機械を覗き込んだ。
「悪いけど、カイトよりも高いよ」
エルンは僕の腕からそれを外すと、今度はカイトの腕に巻きつけた。
「…ほらね」
「…」
そこに現れた数値を見て…カイトは静かにショックを受けているように見えた。
僕の中のカイトからも、それが感じられた。
それは決して、悲しいとか、悔しいとか、妬ましいとか…そういった負の感情では、一切なかったが…
「凄まじい回復力だな…」
呟きながら彼は、その機械を横のテーブルに置いた。
そして改まったように、僕に向かって言った。
「あれから、少し調べてみたんだが…」
「…?」
「お前がいたっていう…地球って所の事を…もっと詳しく訊いても良いかな…?」
「…いい…ですけど…」
…また泣いちゃうかもしれないけどなー
思いながらも、僕は覚悟を決めた。
「そこは、ステーションとは違うのか?」
「はい…違うと思います…」
僕は、こないだの交流のとき、外を見た事を思い出しながら言った。
「このステーションの周り…外は、宇宙ではないですよね?」
「…うちゅう…」
「地球っていうのは、宇宙の中に、とてもたくさんある、星のひとつです」
「…」
「その星の中に…この世界にステーションがたくさんあるように、色々な特色を持った国があるんです」
「…」
「こないだ交流したような、肌の色が濃い人が住んでる国とか…自然がいっぱいの国もあれば、物凄く文明が発達している国もあります」
「そして、同じように…国同士で交流もあれば、戦争もあります」
僕は遠くを見つめながら言った。
「僕がいたのは…日本っていう国です…」
「にほん…」
「文明も発達してましたけど、美しい自然もたくさん残っていました…」
ふと、エルンを見ると…何というか…余りにも分からな過ぎて、混乱しているような表情になっていた。
「…すいません、そんな色々喋っても…全然分からないですよね…」
「あ、いや…とても興味深い話だよ…ただ、あまりに突拍子過ぎて、俺の理解が追いつかない…」
僕は横にいるカイトの方を見た。
彼はエルン以上に、ポカーンとしていた…
「ただ…その星の人たちは…コアの力みたいな、そういう能力は持っていませんでした」
「それは…不便だろうな…」
「道具を作ったり、道具を上手く使うのが得意な人種だったのかもしれませんね…」
「…」
「手を翳すんじゃなくて、鍵っていう道具で、扉を開け閉めしてましたから…」
「…へえー」
2人は、声を揃えて…目を丸くして呟いた。




