⁑職人再び(2)
「参考までに…」
僕は、このグラス方式で、鍵盤のような形でひとつひとつ違う音を出すやり方と…ギターのように、弦を張って、それを抑える場所を変えながら違う音を出すやり方がある事を、彼に伝えた。
「あとは…筒のような物を吹きながら、穴を指で塞いで音を変えるっていうやり方もあります…」
「さっき、お前が声で出したのは、何だったんだ?」
「あれは、手っ取り早くメロディーを声で出すやり方ですね…」
「歌…っていうらしい」
「…うた…?」
「たぶん、キーファーさんでも、すぐ出来ますよ」
「ホントか?」
「あーって、声出してみてください」
キーファーは、口をモゴモゴさせてから、少し恥ずかしそうに、言った。
「あーー」
僕は、それにいちばん近い音のグラスを鳴らした。
「Gですね、次、この音と同じ声で、あーって出せますか?」
僕はAのグラスを鳴らした。
「あーー」
キーファーは、すぐにその音に合わせて声を出した。
「それを続けて出してみてください、こんな風に…」
僕は、GGAと、グラスを鳴らした。
「あーあーあー」
キーファーがそれに合わせて声を出した。
「ほら、さっき僕が歌った、サクラの歌のメロディーになりました!」
「…!」
キーファーは、とても驚いていた。
そして何度も何度も、自分で確認するように…「あーあーあー」を、繰り返し歌った。
「キーファー、凄いな…」
「カイトもやってみろよ…」
「いや…俺はいい…」
カイトはシュッとお断りして、少し顔を赤らめながら横を向いた。
カイトは恥ずかしがり屋さんだ…
「なるほど、わかった…とにかく、この、それぞれの音を鳴らせる道具を作ればいいんだな」
「…出来そうですか?」
「さっきお前に聞いたやり方で、試してみるさ」
「あ、できれば…」
僕は、昨日カイトが出してくれたグラスを持ってきて、それをチリーンと鳴らした。
「こんな感じの音が出たら…嬉しいです」
キーファーは、しみじみそのグラスを見た。
「…これは、誰が作ったんだ?…こんな素材は見た事ない…」
「カイトです」
「えっ!?」
「カイトが、念力で…あ、いや…コアの力で作ってくれました」
「…本当か…」
「…ああ、たまたま出来た」
「…」
それを聞いたキーファーは、更に闘争心を掻き立てられたように見えた。
「分かった…やってみるよ」
「どうか…よろしくお願いします…」
「…ちなみにカイトがさっき言った、未来が開けるかもしれないってのは、どういう意味なんだ?」
「リューイ…昨日のメロディーを、彼に聞かせてやってくれないか?」
カイトが僕に言った。
僕は小さく頷くと…
あの、例のメロディーを、グラスで演奏してみせた。
「…」
「聞きながら、目を閉じてコアを見てみろよ…」
キーファーは、カイトに言われた通りにした。
「…!」
「強くなるだろ?」
「…」
見る見るうちに、キーファーの身体からも、陽炎のような物がユラユラと湧き上がった。
彼は、右手を差し出した。
ほどなくそこに、眩しい光の玉が現れた。
「何が出るかな…」
カイトが、とても小さい声で、僕に囁いた。
徐々に、彼の手の上の光が小さくなった。
そして、完全に光が無くなるのを待ち兼ねて、僕らはキーファーの掌の上を覗き込んだ。
「…何だこれ…花か?」
「…桜だ…!」
そこには、可愛らしい…ピンクの桜の花が…大きな職人の手の中に、ポツンとひとつ…乗っかっていた。
「…これが…桜なのか…」
キーファーが呟いた。彼自身が、いちばん驚いているように見えた。
そして彼はまた、ふふっと笑いながら言った。
「やっぱりお前はリューイじゃないな…」
「…」
言いながら彼は、その桜の花を…
カイトのグラスの中に、そっと入れた。
美しいグラスに、桜の花が…
小さく水を揺らしながら浮かんだ。
とても綺麗だった。
キーファーは続けた。
「このステーションに、桜は無い…おそらくカイトもリューイも、桜を知らない筈だ」
「…じゃあ、さっきのお茶は?」
「とあるステーションとの交流のときに、コッソリ特別に手に入れたんだ」
「そうだったのか…」
カイトが言った。
「そのあとすぐに、そのステーションは攻略されてしまったからね…それ以来、こことの交流は無い」
「…あれか、あの…太陽も水もあった美しいステーションか…」
「…」
キーファーは頷いた。
そしてまた、僕に向かって訊いた。
「お前は何で桜を知ってるんだ?」
「…」
僕は、少し考えてから…正直に語った。
「貴方の言う通り…僕はリューイじゃありません。地球っていう星で生きていました」
「…」
「そこは、太陽も水も…山や海や緑も…もちろん桜もある、とても美しい所でした…」
「…」
「それから…音楽も…歌も…」
言いながら僕は、いつの間にか…ぽろぽろと涙を流していた。
「…」
「…リューイ…」
僕はそのまま、泣き崩れてしまった…
出来る事なら、帰りたかった…
地球に…帰りたかった。
リューイじゃない、ちゃんと、僕の…
氷威の身体に還りたかった!
泣きながら…僕はまた、
僕の中のカイトの胸が痛んでいるのを感じた。




