⁑カイトのグラス
「リューイ…いる?」
カイトの声が聞こえた。
僕は、演奏の手を止めて、フォーンの所に行って、応えた。
「はい…います」
「ちょっと行ってもいい?」
「はい、どうぞ…」
僕はすぐに、扉の横のボタンに手を翳した。
シュッと扉が開いて、カイトが中に入ってきた。
「今日はお疲れたったね…」
「あ、いや…僕は別に何もできませんでしたから…カイトこそ、お疲れ様でした」
彼はゆっくりと、キッチンの方に行くと…並べられたグラスを見た。
「また、これ鳴らしてたの?」
「…はい…」
そしてカイトは、改めて僕に訊いた。
「さっきは、何であんなに急いでたの?」
「…実は…」
僕は、例のメロディーの事を、カイトに話した。
まあ、理解して貰うのは難しいとは思ったが…
「…ふうん…」
予想通り、彼は半信半疑な感じだった。
「まだちゃんとは分かりませんけど…とにかく僕は、そのメロディーのおかげで、コアのパワーを維持する事が出来たんです…」
「…メロディーってのが、何なのかよく分からんな」
「こんな感じです…」
実際に聞いて貰うのが一番だと思って…僕は、さっきまで練習していた、そのメロディーを、彼に鳴らして聞かせた。
「…」
カイトは、目を閉じて…それを聞いていた。
「何なんだ…この感じ…」
「あの…初心者教習生の僕が、こんな事言うのは烏滸がましいんですけど…これを聞きながら、コアに集中してみてくれませんか?」
「…」
カイトは、僕の言う通り…目を閉じたまま、両足に力を入れて、しっかりと立った。
「!!!」
そのうちに、僕が外から見ても分かるくらいに…
彼の身体の表面から、陽炎のようにユラユラと、何かが発せられてきた。
その何かは、やがて光を持ち始めた。その光はまさに…あの水晶体が発光する色と同じだった。
…すごい…
カイトのコアのパワーって…こんなに強いんだ…
彼はそっと目を開けながら、右手を差し出した。
その、彼の手のひらの上に…眩く光り輝く発光体が現れた。
「…!!」
僕は、演奏の手を止めて…それに見入った。
やがて、その手のひらの光が、だんだんと薄らいでいった。そして、完全に光が無くなった彼の手の上に…
小さなグラスが現れた。
「すごい…手品みたいだ…」
それはまるで、その光を集めて作られたような、美しい透明感のあるグラスだった。
カイトは、フッと微笑みながら言った。
「…今、お前が欲しい物を思い浮かべたら、コレになったんだけど?」
えええー何それ…
そんなカッコいい手品が出来ちゃうのーー!?
キュンキュンしちゃうじゃんーっ
彼は、僕にそれを差し出した。
「…」
すごく…良い音が鳴りそうなグラスだった…
僕はそれに、少しだけ水を入れて、
そっと鳴らしてみた。
チリーン…
まさに、最初に見つけた、あの大事なグラスと同じような…いや、こっちの方がもっと透明感のある、クリスタルな音色が響いた。
「…これで、楽器が出来ればなあ…」
「俺にはよく分かんないけど…キーファーに相談してみたらどうだ?」
「…」
キーファーって…
あ、あれか…頑固職人か!
「…こないだ、エルンに紹介してもらったんですけど、僕、彼の機嫌を損ねてしまったみたいなんですよね…」
「へえー知ってんのか…」
「実は…」
僕は、例の大事なグラスの話を、
カイトに正直に打ち明けた。
「本当にすいませんでした。知らなかったとは言え、そんな大事な物を…」
「いや、構わないよ…お前の良いキッカケになったんなら…逆に俺は嬉しい」
カイトは、自分が出したグラスを持ち上げて、しみじみ見ながら言った。
「何なら俺が頼んでやる…あいつの職人魂に火を付けてやろう…」
彼は、悪ーい感じで、ニヤっと笑った。
「…」
「明日、訓練終わったら一緒に行こう」
「…よろしくお願いします」
「お前の訓練終わったら、こっち来れる?」
「わかりました」
「シュルシュルポンが出せるようになったんなら、こっちの訓練にも、そろそろ復帰してもいいかもしれないな…」
「いやいやいや…全然まだまだです!」
カイトはふふっと笑った。
そして、僕の手を取ると…その手に、ゆっくり…グラスを握らせた。
「…」
「…こんなに、コアの光を、物に具現化できたのは初めてだ…」
「えっ…そうなんですか…?」
いっつもそんな、モテるホストみたいなマジックやってる人なのかと思った。
「リューイの言う、メロディーってヤツのおかげなのかもしれないな…」
「…」
そしてカイトは、何かを思い付いたように…急に真剣な表情になった。
「…それが本当なんだとしたら…試してみる価値はありそうだな…」
「…?」
そのときの僕には、彼の言ってる意味が、イマイチよく分からなかった。
カイトは扉に向かって歩いて行った。
「明日は…自分で行けるんだろう?」
扉の前で振り向くと、彼は僕を見透かしたように、ふっと笑いながら、そう言った。
「…はい…」
僕は、そう答えるしか無かった。




