⁑ 交流の日(2)
「じゃあ、警備出動、頑張ってらっしゃい」
「…」
あんな保育園児レベルで、何をどう頑張ればいいのかさっぱりわかりませんが…
「あの…」
「ん、何?」
「戦闘部隊の部屋は…何階ですか?」
「あー、あははは…それも覚えてないのね…リューイの部屋の48階からでも行けるけど、このすぐ上…36階で大丈夫よ」
「ありがとうございます」
僕はルイスに見送られて、そこを出た。
エレベーターに乗って36階で降りると…
僕は、重い足取りで…ドキドキしながら、例の体育館に向かった。
おそるおそる中を覗くと…戦闘部隊のメンバーが、既に集まって整列していた。
「リューイ!」
その中央にいたカイトが、僕を呼んだ。
「…」
僕は、少しホッとして…彼の元に駆け寄った。
また…他の皆がざわついた。
カイトがまた、改まったように大きな声で言った。
「こないだも言ったが…リューイは今、記憶を失くして混乱している。それでも今、パワーを取り戻すために、初級からの訓練に励んでいるところだ」
「…」
「今日も勝手がわからずに、皆に迷惑を、かけるかもしれないが、どうかフォローしてやって欲しい」
そう言いながら…カイトは、整列した面々に向かって、深々と頭を下げた。
「…」
僕も慌てて…彼の横で、皆に向かって頭を下げた。
「本当にすいません…よろしくお願いします…」
「わかりました!」
「カイト、頭を上げてくれよ」
「大丈夫だよ、リューイ…」
ざわついていた連中が、皆、優しく応えてくれた。
そこへ、ひとりの人物が現れた。
「整列!」
カイトが強い口調で言った。
皆、ビシッとなった。
そこへ、ゆっくり近付いてくる、その人物に、僕は見覚えがあった。
「彼はウィルフリード。このステーションの総リーダーだ」
「…」
そっか…
僕がまだ動けないときに、医療センターに来た人だ…
ウィルフリードと呼ばれた人物は、僕に向かって微笑みながら言った。
「リューイ、話は聞いた。調子はどう?まだ何も思い出せない?」
「…あ、はい…すいません」
「無理しないで、今日は皆に頼ったらいい」
「はい…よろしくお願いします…」
そして彼は、そこにいる全員に向かって言った。
「今日の流れは、いつも通りの予定だ。コアの交換は専門のチームが行う。君たちには、いつものように警備をお願いする」
「了解」
「わかりました!」
皆が口々に答えた。
「よし、行こう…」
そして、ウィルフリードの先導の元、カイトを筆頭に…僕ら戦闘部隊は、その体育館から出ていった。
ひとまず、ウィルフリードとカイトと僕と、もう4人がエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターは、上へ上へと向かった。
途中で2人を降ろすと…
エレベーターは更に上に向かった。
そして…ついに、最上階に着いた!
「…!」
扉が開いた途端に、
ボワーーっと、前から強い風が吹き込んだ。
「…っ」
エレベーターを降りると、そこは…
終着駅のホームというか…格納庫というか…
広く屋根のあるスペースが広がっていた。
壁に沿って、大きなスクリーンや、宇宙船のコクピットの中のような機械が、ズラッと並んでいた。
(いや、宇宙船に乗った事は無いので、あくまでイメージだが…)
そしてその先は…
この世界に来て初めて見る…「外」に繋がっていた!
「…外だ…」
僕は思わず…小さい声で呟いた。
その場所から見える「外」は、
さしあたり夜のように、暗く…黒く見えた。
「外は俺とジョシュアが行く。リューイはレオと2人で、ウィルフリードの警備にあたれ」
カイトが言った。
「了解…」
ジョシュアと呼ばれた人物は、少し緊張した面持ちで頷いた。
「頑張れよ、ジョシュア…」
レオと呼ばれた人物が、彼の肩を叩いて、微笑みながら言った。
「…」
そしてカイとジョシュアは、その…先に見えている、暗い「外」に向かって歩いていった。
2人の背中を見送りながら、レオが僕に言った。
「ジョシュアが外の警備をするのは初めてなんだよ」
「…そうなんですね…」
「いつもリューイが出ていたから…」
「…そう…なんですね…」
「次回はレオに行ってもらうよ」
ウィルフリードが、優しそうに微笑みながら、レオに言った。
「ええっ?!…ホントですか…」
「ああ…」
「…」
そんな2人の会話を聞いて、僕は…何とも複雑な気持ちになった。
そうか…カイトとリューイは、いつも一緒に第一線に立っていたんだな…
遠く小さくなっていく、カイトの後姿を見ているうちに、僕は…胸の奥の何かが、チクッとなるのを感じた。
それはまるで、あのとき…
あの口付けのときに、カイトが僕の中に入ってきて…その僕の中のカイトの胸が痛んでいるかのような…そんな感覚だった。
レオに指示してもらって、僕は…ウィルフリードを挟んで、レオと対称の位置に立った。
ほどなく、他の数人の戦闘部隊のメンバーが、上に上がってきた。
彼らも、自分の持ち場に、わらわらと散っていった。
その後に続いて、今度は違う制服に身を包んだ数人が、エレベーターから降りてきた。
「…」
ポカーンと彼らを見ていた僕に向かって、ウィルフリードは言った。
「彼らはコアの専門チームのメンバーだ…」
「…はあ…」
そのチームの面々は、僕らに軽く会釈をすると、機械の前に立った。
やがて…辺りは、何とも言えない、沈黙と緊張に包まれた。
もうすぐだ…
その「交流」ってのが、どんな感じで、どんな風に行われるのか、全く見当がつかなかったが…
それが、あと何分何秒後に始まるのか…
僕には分かっていた。




