⁑ ものつくり職人(2)
そして僕らはストアに行った。
エルンは僕を、食器コーナーに案内してくれた。
「透明な…グラスが欲しいの?」
「透明じゃなくてもいいんですけど…なるべく薄いのがいいんです…」
そこに並んでいる中では…
透明でとてもシンプルな…
例えるなら、商店街の中華屋で…お冷に使われているようなグラス…それがまあいちばんイメージに近かった。
「とりあえず…試しにこれを8個…欲しいです」
僕はエルンに言った、
「そしたら、そのボタンの横の数字を押してからピピだな」
僕は言われた通りに…
8と入力してから、ボタンに手を翳した。
ピピッ…
「これで届く筈だよ」
「…ありがとうございました…あ、ついでに…細い棒みたいなの、ありませんかねー」
「棒?」
「このくらいの長さで…」
僕は両手で、30センチくらいを示した。
「うーん…それだったら…」
エルンはもう少し先に歩いて、商品棚を指した。
「コレとか…どう?」
「…」
それは、マドラーだった。
「こんなの、使う人いるんですか?」
「タウンで、飲み物に添えるのがいっとき流行ったんだ、それで…自分の部屋にも欲しがる人が増えた」
「とっても良いです!」
僕はそれを、2本…ピピッ…した。
「本当にありがとうございました」
僕は深々と、エルンに頭を下げた。
「それをどう使うのか、すごく気になる所だけど、俺はセンターに戻らないといけないから」
「はい、上手くいくかどうか分かりませんけどね…」
エルンと別れた僕は、いそいそと48階に戻った。
やっぱり扉が光って見えたので、僕は迷わずに自分の部屋に帰る事ができた。
早速…僕は届いたグラスに水を入れていった。
そしてマドラーで、そっと叩いてみた。
キーン…
うーん…やっぱり、
あのグラスの音色には及ばなかった…
それでも致し方なく…
僕は水の量を調整していった。
何度も少しずつ、鳴らしながら水量を微調整して…
ついに「ドレミファソラシド」が、出来上がった!
ドーレーミー、ドーレーミー♪
うん、チューリップも出来る!
ドドソソララソー♪ ファファミミレレドー♪
ソミミーファレレー♪ ドレミファソソソー♪
ドーレミードミードーミー♪
レーミファファミレファー♪
僕は、思いつくカンタンな童謡を、次から次へと演奏してみた。
うんうん…ちゃんと音楽になってる!
何度も何度も…いつまでも僕はそれを続けた。
残念ながら、自分の作った歌は、シャープが出てきたり、オクターブが足りなかったりで、惜しい感じになってしまったが…
それでも、これだけでも、
十分僕は楽しかった。
この世界に来て…
こんなに、楽しいって思えたのは初めてだった。
興に乗って、勢い付いた僕は…
思い切って…ひとりで!…再びストアに行った。
(ちゃんとStoreって書いてあるボタンを探せた)
そして、さらに15個、同じグラスを買った!
(いや…買った…わけではない)
そして届いたグラスに、また水を入れ…
鳴らしながら、少しずつ水の量を調整した。
今度は半音を調整するわけだから…
なかなかに難しい作業だった。
どのくらいの時間が、かかったのか…
体内時計の無い僕には、見当がつかなかった。
それでも、ようやく…
下のソから、上のファまで…
23個の、音の違うグラスが出来上がった!!!
「ふぅー」
何ともいえない、心地良い達成感だった。
僕はそこから、また色んな曲を演奏し始めた。
シャープもフラットもつけられるし、ちょっとオクターブから、はみ出しても大丈夫なもんだから、
童謡じゃなくても全然イケる!
クラシックでも、ロックでも、演歌でも…
メロディーだけなら再現可能な曲の幅が、相当広がった。
僕はまた…更に時間を忘れて、
何度も何度も、演奏を楽しんでいた。
「リューイ!…聞こえないの!?」
叫ぶようなカイトの声で、僕はハッとなった。
演奏していた手を止めて、
急いで僕は、フォーンの所へ走った。
「すいません、聞こえます!」
フォーンの向こうから、安堵の溜息が漏れた。
「…あーよかった…さっきから何度も呼んでるのに、全然返事がなかったから…」
「すいませんでした…ちょっと…夢中になっていて」
「何に夢中になってたの?」
「あ、あの…えーと…」
カイトは…こんな事をしてるリューイを見たら、どう思うんだろう…
もしかしたら、更に絶望させてしまうかもしれない…
そんな思いが、僕を口籠らせた。
「ま、それはいいや…明日も声かけた方がいい?」
「あーはい、是非よろしくお願いします!」
まだ体内時計が機能してないのでー
「ん、了解…何やってんだか知らないけど、程々にして早く寝ろよ」
「わかりました…ありがとうございます…」
そっか…もうそんな時間なんだな…
そう言えば、食事もまだだった。
僕はキッチンに戻ると、また適当な物を選んで、電子レンジに入れた。
テーブルいっぱいに並んだグラスはそのままにして、僕は、出来上がったトレーを、椅子の上に置いた。
「いただきます」
そして僕は、椅子をテーブル代わりにして、床に座って食事をした。
うん…今日のご飯も美味しいな。
今日はいっぱい働いたし…いや、仕事じゃないけど。
しかも、床に座って食べる…方が、何だかとても落ち着いた。
やっぱり僕は、日本人なんだよなー
そして、また…ふと思いついた。
そうだ、明日は…
床に座ってコアに集中してみたらどうだろう?




