⁑ ものつくり職人
しばらくして、エルンが僕を迎えにきてくれた。
僕は彼に、例のグラスを見せた。
「これを…出来ればあと6個欲しいんです」
「6個も!?」
「ホントなら…あと20個…」
「ええー?そんなに、何に使うの?」
「…上手く出来たら披露します…」
「何だかよくわからないけど、わかった…」
そう言うとエルンは、そのグラスを手に取って…しみじみ眺めた。
「これは…ストアには、無いかもしれないな…」
「…そうなんですか?」
「キーファーの工房で作ったんじゃないかな…」
「…?」
また何か、わけのわからない単語が出てきたぞ…
「とりあえず行って訊いてみるか…」
「はい…是非ともよろしくお願いします」
そして僕はまた、エルンに連れられてエレベーターに乗った。
今度は割と下の方の階だった。
ボタンの横を見ると、Workshopと書いてあった。
エレベーターを降りると…
そこは…どちらかと言うとタウンに近いイメージだった。
大小さまざまな…まさに工房的な造りの部屋が、
まるで商店街のように、いくつも並んでいた。
「ここには、職人のいる工房が集まっているんだ」
「…」
「まあ、ほとんどは武器職人だけどな…中には、違う物を作ってくれる場所もある。さっきのグラスみたいに、部屋で使う物を、自分だけの特別な形にしたがる者もいるからね」
「…」
ほとんどの部屋は、外から覗けるようになっていて…
中では、まさに職人らしき人達が、黙々と作業をしていた。
自分の店(と呼んでいいのかわからないが)で作っている物を、宣伝しているような看板を出している所もあった。
エルンは…そのいちばん奥の、とてもゴチャゴチャした感じの店に入っていった。
そして、またその店の奥〜の方で、なにやら作業している人物に、声をかけた。
「こんにちわ…キーファー」
その人物は、顔を上げて、言った。
「よう、エルンじゃないか…久しぶりだな…」
「調子はどう?」
「まあボチボチよ…」
言いながら彼は、手を休めて立ち上がり…僕らの方へ近寄ってきた。
「リューイ!」
彼は僕に気付くと、大きな声で言った。
「…」
僕は…黙ってしまった。
だって、また知らない人なんだもん…
「…?」
「あのなキーファー…実は…」
エルンが、彼に事情を説明した。
「…本当に?信じられない…」
「残念ながら、本当みたいなんだよ…」
キーファーと呼ばれた人物は、マジマジと僕の方を見た。
「それでね、その…リューイが、君に頼みたい事があるそうなんだ」
「…」
僕は、持ってきたグラスを、彼に見せた。
「…!!」
彼は、確かにそのグラスに見覚えがありそうだった。
エルンが訊いた。
「これ、キーファーが作ったんじゃない?」
「…確かに…そうだけど…」
それを聞いて、僕は若干前のめり気味に言った。
「あの…これと同じ物を、あと6個…欲しいんです」
「はあ?」
「…もし…可能だったら…20個でもいいです…」
「…」
僕の話を聞いたキーファーは、信じられないような、呆れたような表情になった。
「…リューイが記憶喪失ってのは、残念ながら間違いないみたいだな…」
「…」
「リューイが、そんな事を言う筈がない」
「えっ…」
キーファーは、僕の持っていたグラスをひとつ手に取って、しみじみ眺めながら言った。
「これはね…カイトに頼まれて作ったんだ」
「…!」
「他のどこにもない、2人だけのグラスが欲しいって言われて…」
「…」
彼は更に続けた。
「俺は、あの2人の強い気持ちを知ってたからね…あのときは、これ以上無いくらい、心を込めて作ったもんだよ…」
「…」
そ、そうだったんですね…
そんな大事な代物だったんですか…
あーすいません…
僕、かなり無茶な使い方しちゃいましたー
「…俺は二度と、これと同じ物は作れない」
「すいませんでした…」
僕は早々に謝ってしまった。
「だけどさ…リューイ、何でまた、そんなに大量のグラスが欲しかったの?」
「…っ」
僕はふと思い立った。
「キーファーさん…」
「何だ?」
「これと同じじゃなくていいです。これに似たような…でも、これと同じような材質のグラスを…20個くらい作って頂く事はできませんか?」
「…20は難しいなー、これは割と特別な材料を使わないといけないからなー」
「そしたら、これに近い…もっと作り易いのでもいいです」
「…だったら、何もわざわざキーファーに頼まなくても、ストアに行ったらあるんじゃない?」
「あ、そうか…」
それを聞いた、キーファーの顔色が変わった。
「何だよ…ストアで間に合う用事なら、わざわざ俺の所に持ってくんなよな」
彼は、ちょっと気を悪くしてしまったようだった。
スッと立ち上がって、クルッと振り向くと、また奥へ引っ込んでしまった。
そりゃそうだ…
心を込めて作った唯一無二の作品を、ストアにある大量生産の物と同じ扱いをされたんだから…
知らなかったとは言え…
完全に、僕が悪い。
「すいません…ごめんなさい…」
僕は慌てて、頭を下げた。
「…邪魔して悪かった…また何かあったらよろしく頼むね…」
エルンはそう言って、僕に外に出るよう促した。
キーファーは、顔を上げないまま、エルンに軽く手を振った。
僕らはそこを離れた。
「本当にすいませんでした…」
「仕方ないよ、お前は何も覚えてないんだから…」
「これ…そんなに大切な物だったんですね…」
「そうだね…俺も知らなかった」
「とりあえず…いったんこれを部屋に大事にしまってから…ストアに行ってみてもいいですか?」
それでも、僕は諦めなかった。
「…そんなに…欲しいんだ…」
半ば呆れた顔で、エルンは笑った。




